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34 がらんどう⑥
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判子屋で仮眠を取り、日の出を待って帰宅した。居間をのぞくと、叔母と寿々花が並んでソファに座って頭を垂れているのが見える。
起こさないように細心の注意を払って近づいて、「また出かけてくる」と、メモ書きを置いた。一度帰宅したことが分かれば、無駄に心配されることもないだろう。
「ルゥを迎えに行かなきゃ」
しっかりと記憶していた施設までの道を、大河は懸命にひた走った。
昨夜は暗くて分からなかったが、その施設は二階建ての鉄筋コンクリート製で、どこもかしこも重たい灰色で覆われている。
突然訪ねても大丈夫なのだろうか、と玄関の辺りをうろうろしてから、思い切ってチャイムを押した。
インターフォン越しに応対してくれたのは、かなり年配の女性だった。
ルゥの名を出すと、不思議そうに「だれのことですか」と繰り返す。もしかしたら本名は他にあるのかと気づいたが、すでに相手は大河を不審に思っている様子だ。
「あの、昨夜遅くに帰ってきた中学生の女の子です。本名は知らないのですけど……」
相手は、ため息と共に「ああ」と何か思い当たった様子で「困ります」と語気を荒げた。
「あなたなの? あの子をそそのかして、何か月も引っ張り回していたのは」
「え? 違います!」
思わず否定すると、インターフォンの声が遠ざかり、こちらに向かってくる気配がする。驚いた大河は後ずさり、施設に背を向けた。
昨夜いっしょにいたのは確かだが、この言われようは、まるで誘拐犯か何かのようだ。
彼女との出会いを話すには伽藍堂のことも説明しなければならず、それはそれでやっかいなことになる。
「こういうとき、連絡手段がないと、本当に不便だよな」
ぼやきながら、とぼとぼ判子屋へと戻ってきた。
「ルゥも、目が覚めたら来るだろうし……待つしかないか」
畳に座り、改めてテラリウムを取り出すと、柔らかな朝日を反射した小瓶は、きらきら光を放っている。
ふぃに、初めてルゥに会った日のことを思い出した。
「蒸気のコート、おれ本当に燃えているのかと思ったんだよなぁ」
主さんにもらったブレスレットを恭しく取り出し、腕にはめながら、大河は苦笑する。
起こさないように細心の注意を払って近づいて、「また出かけてくる」と、メモ書きを置いた。一度帰宅したことが分かれば、無駄に心配されることもないだろう。
「ルゥを迎えに行かなきゃ」
しっかりと記憶していた施設までの道を、大河は懸命にひた走った。
昨夜は暗くて分からなかったが、その施設は二階建ての鉄筋コンクリート製で、どこもかしこも重たい灰色で覆われている。
突然訪ねても大丈夫なのだろうか、と玄関の辺りをうろうろしてから、思い切ってチャイムを押した。
インターフォン越しに応対してくれたのは、かなり年配の女性だった。
ルゥの名を出すと、不思議そうに「だれのことですか」と繰り返す。もしかしたら本名は他にあるのかと気づいたが、すでに相手は大河を不審に思っている様子だ。
「あの、昨夜遅くに帰ってきた中学生の女の子です。本名は知らないのですけど……」
相手は、ため息と共に「ああ」と何か思い当たった様子で「困ります」と語気を荒げた。
「あなたなの? あの子をそそのかして、何か月も引っ張り回していたのは」
「え? 違います!」
思わず否定すると、インターフォンの声が遠ざかり、こちらに向かってくる気配がする。驚いた大河は後ずさり、施設に背を向けた。
昨夜いっしょにいたのは確かだが、この言われようは、まるで誘拐犯か何かのようだ。
彼女との出会いを話すには伽藍堂のことも説明しなければならず、それはそれでやっかいなことになる。
「こういうとき、連絡手段がないと、本当に不便だよな」
ぼやきながら、とぼとぼ判子屋へと戻ってきた。
「ルゥも、目が覚めたら来るだろうし……待つしかないか」
畳に座り、改めてテラリウムを取り出すと、柔らかな朝日を反射した小瓶は、きらきら光を放っている。
ふぃに、初めてルゥに会った日のことを思い出した。
「蒸気のコート、おれ本当に燃えているのかと思ったんだよなぁ」
主さんにもらったブレスレットを恭しく取り出し、腕にはめながら、大河は苦笑する。
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