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23 ビスマスの卵②
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本来ならばすぐに伽藍堂に戻り、ルーレットらに事の顛末を説明しなければならないのだが、大河の足は止まったままだ。
何かに当てられたように、うまく動けない。
「ちょっと、大河? どうしたの、真っ青じゃない」
すれ違いざまに肩先を掴まれ、顔を上げると、幼なじみの寿々花が立っていた。
「また胸が痛いの? 歩ける? ……待って! まだ倒れないで。タクシー拾ってくる」
寿々花はひざが崩れて座り込んでしまった大河を置いて、大通りに駆けていった。
やがて、タクシーの後部座席に沈み込みながら眠りに落ちそうになる大河に、寿々花があれこれ質問する。
「つまり、判子屋なのね、トラブルの元は」
「違うよ……。だから、寿々花は関係ない。判子屋じゃなくて、その……別の……」
手足がだるくて重い。別の何、と聞き返してきた寿々花の声を最後に、大河は深い眠りの底に落ちていった。
目が覚めたのは、翌日の昼になってからだった。土曜日のため、学校はない。
泥のように眠ったのが良かったのか、あの奇妙な疲労感はすっかり取れている。
「隙を見て、伽藍堂に戻るつもりだったのにな」
タクシーで帰宅した大河を叔母は心配し、あれこれ世話を焼き離れず、寿々花もなかなか帰らなかった。
大河はひとりになるのを待つうちに、眠り込んでしまったのだ。
階下へ行くと、意外にも叔母は出かけて留守だった。美容院の予約があるからごめんね、というメモが、用意された食事の前に置いてある。
冷めてしまったスープを温め直している間に、キッチンの窓から隣家をうかがった。
昨日の礼を言おうとラインのメッセージを送るが、反応はない。
「寿々花、出かけたのかな」
黙々とチーズリゾットを食べていると、テレビの中の気象予報士が、「今夜は雪になるでしょう」と宣言した。
雪と言われてまっさきに脳裏に浮かぶのは、建設予定地に住む老人の姿だ。ルゥの手渡した虹色のアンモナイトを受け取ると、雪のような光の玉が辺り一面を覆った。
それが、伽藍堂が存在し続けるために必要なものなのだと、ルゥは説明したはずだ。
「昨日、光の玉が現れなかったのは、やっぱりマズい状況なんじゃ……」
何かに当てられたように、うまく動けない。
「ちょっと、大河? どうしたの、真っ青じゃない」
すれ違いざまに肩先を掴まれ、顔を上げると、幼なじみの寿々花が立っていた。
「また胸が痛いの? 歩ける? ……待って! まだ倒れないで。タクシー拾ってくる」
寿々花はひざが崩れて座り込んでしまった大河を置いて、大通りに駆けていった。
やがて、タクシーの後部座席に沈み込みながら眠りに落ちそうになる大河に、寿々花があれこれ質問する。
「つまり、判子屋なのね、トラブルの元は」
「違うよ……。だから、寿々花は関係ない。判子屋じゃなくて、その……別の……」
手足がだるくて重い。別の何、と聞き返してきた寿々花の声を最後に、大河は深い眠りの底に落ちていった。
目が覚めたのは、翌日の昼になってからだった。土曜日のため、学校はない。
泥のように眠ったのが良かったのか、あの奇妙な疲労感はすっかり取れている。
「隙を見て、伽藍堂に戻るつもりだったのにな」
タクシーで帰宅した大河を叔母は心配し、あれこれ世話を焼き離れず、寿々花もなかなか帰らなかった。
大河はひとりになるのを待つうちに、眠り込んでしまったのだ。
階下へ行くと、意外にも叔母は出かけて留守だった。美容院の予約があるからごめんね、というメモが、用意された食事の前に置いてある。
冷めてしまったスープを温め直している間に、キッチンの窓から隣家をうかがった。
昨日の礼を言おうとラインのメッセージを送るが、反応はない。
「寿々花、出かけたのかな」
黙々とチーズリゾットを食べていると、テレビの中の気象予報士が、「今夜は雪になるでしょう」と宣言した。
雪と言われてまっさきに脳裏に浮かぶのは、建設予定地に住む老人の姿だ。ルゥの手渡した虹色のアンモナイトを受け取ると、雪のような光の玉が辺り一面を覆った。
それが、伽藍堂が存在し続けるために必要なものなのだと、ルゥは説明したはずだ。
「昨日、光の玉が現れなかったのは、やっぱりマズい状況なんじゃ……」
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