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9 虹色アンモナイト②
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「なにこの鬼着歴。気づかなかった」
叔母の不安げな顔が、膨大な数字の影からのぞきこんでくるかのようだ。
「ここ、電話とか繋がらないから」
大河の飲み終えたカップを盆に載せ、帰るの、とルゥは小さくつぶやいた。
「帰る場所のある人なんだね、大河は」
そのことばの意味を聞き返そうと顔を向けると、ルゥは逃げるように部屋を出て行った。
「おやおや、小さなルゥ。珍しいですね、ここに泊まったのですか」
目が覚めたらしいルーレットの声が聞こえてくる。
「もう帰るって」
「待って。おれ、帰るなんて言ってないよ」
あわてて部屋を飛び出すと、ルゥが柱時計にしがみついているのが見えた。
「おはようございます、大河君。小さなルゥは君と過ごせてとても楽しかったようですよ。いつもはひとりぼっちで、寂しい思いをしていますから」
「でも、ルーレットがいるじゃないですか」
「わしでは話し相手にはなれても、頭をなでてやることさえできないのです」
大河、とルゥが立ち上がり、さらに伸びをする。
「頭に砂がついてる」
「それはルゥがやったことじゃないか」
白砂を払っていたルゥの手が、止まった。
「……そうね、そう。あたしがやった」
ぱらりぱらりと、白砂が落ちてきては、消えていく。
「コケカエルを直してくれて、ありがとう」
それから背を向けて、続ける。
「さようなら、大河」
「なんだよ、それ。また来るよ。いいでしょう、ルーレット?」
大きな柱時計の中の猿は、目を閉じ、ゆっくりとまたたきをし、それから笑った。
スマホを片手に路地裏から表通りに出ると、すでにあたりは出勤と通学の人波でごった返していた。
雑踏に、めまいがする。静寂の蒸気の中に帰りたい、と大河はきびすを返す。
それを止めたのは、ぶるりと震えるスマホの着信音だった。
叔母の不安げな顔が、膨大な数字の影からのぞきこんでくるかのようだ。
「ここ、電話とか繋がらないから」
大河の飲み終えたカップを盆に載せ、帰るの、とルゥは小さくつぶやいた。
「帰る場所のある人なんだね、大河は」
そのことばの意味を聞き返そうと顔を向けると、ルゥは逃げるように部屋を出て行った。
「おやおや、小さなルゥ。珍しいですね、ここに泊まったのですか」
目が覚めたらしいルーレットの声が聞こえてくる。
「もう帰るって」
「待って。おれ、帰るなんて言ってないよ」
あわてて部屋を飛び出すと、ルゥが柱時計にしがみついているのが見えた。
「おはようございます、大河君。小さなルゥは君と過ごせてとても楽しかったようですよ。いつもはひとりぼっちで、寂しい思いをしていますから」
「でも、ルーレットがいるじゃないですか」
「わしでは話し相手にはなれても、頭をなでてやることさえできないのです」
大河、とルゥが立ち上がり、さらに伸びをする。
「頭に砂がついてる」
「それはルゥがやったことじゃないか」
白砂を払っていたルゥの手が、止まった。
「……そうね、そう。あたしがやった」
ぱらりぱらりと、白砂が落ちてきては、消えていく。
「コケカエルを直してくれて、ありがとう」
それから背を向けて、続ける。
「さようなら、大河」
「なんだよ、それ。また来るよ。いいでしょう、ルーレット?」
大きな柱時計の中の猿は、目を閉じ、ゆっくりとまたたきをし、それから笑った。
スマホを片手に路地裏から表通りに出ると、すでにあたりは出勤と通学の人波でごった返していた。
雑踏に、めまいがする。静寂の蒸気の中に帰りたい、と大河はきびすを返す。
それを止めたのは、ぶるりと震えるスマホの着信音だった。
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