不可思議∞伽藍堂

みっち~6画

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7 鉱物テラリウム⑦

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 大河が荒っぽく足を踏み鳴らすので、古い床板はぎしぎし鳴りっぱなしだ。
「おれは納得いかない。それじゃあ、突っ返されるのを前提にわざわざ品物を作るの? 陶器のカエルが『言った』から届けるの? あんなに時間をかけて、挙句壊されて?」
 踊り場からの視線を遮るため、大河は目についた扉を押したが、そこにはカギがかけられているのか、びくともしない。
「そもそも、カエルがしゃべった証拠は? 適当に話を盛っているんじゃないの?」
 踊り場からの返事はない。歯車が正確に時を刻んでいく音だけが、やけに大きく大河の耳に鳴り響く。
 所在なさげに視線をさまよわせていると、やがて、ルゥが静かに階段を上ってきた。
「……ルーレットがね、大河は疲れているから少し休んでいきなさいって」
 言いながら、正面の扉を押す。そこは、先ほどテラリウムを完成させた部屋だ。淡いランプの明かりに照らされて、シダの葉が優しく揺れている。
「あの、さ」ごめん、と大河は口の中で、もごもご謝罪した。
「信じてないわけじゃない。ただ、その、おれは……くやしかった。すごく、すごく」
 小さくうなずくと、ルゥはコートのポケットに手を入れて、壊れたコケカエルを取り出した。古びた木机を前に座り、片眼鏡をかける。
「直せるの? ……だったら、その、おれにやらせて」
 ルゥは驚いたように大河の顔を振り仰ぎ、大きな目をパチパチさせた。
「やり方、教えて。今度こそあいつに受け取ってもらえるように、きっちり直すから」
 驚いたように大河の目を見返していたルゥは、やがて立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
「唐突だったかな」
 大河は唇をかむ。あとを追おうと立ち上がると、戻ってきたルゥと入口で鉢合わせた。
「あれ? あの、コートは?」
 ルゥは、例のチョコレート色のコートを脱いでいた。そうすると、ことさらに背が低くなったように感じる。
「今は必要ない。ここには危険なものなんか、何もないもの」
 ルゥは片眼鏡を外し、大河に渡した。
「今、クッキーとお茶を持ってきてあげる」
 大河が何か言おうとするのを遮って、「ルーレットに言われてたの」と付け加えた。
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