不可思議∞伽藍堂

みっち~6画

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6 鉱物テラリウム⑥

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ルゥは淡々と側溝に手を入れ続け、泥水の中から鉱石をすくい上げていく。
「帰ろう」
 そのあとはどこをどう歩いたのか、小さな背中にぼんやりついて行くと、やがて見覚えのある判子屋にたどり着いた。路地に入ろうとする大河を、ルゥが呼び止める。
「待って! ……止まって。帰る前に、これをかけて」
 ルゥはチョコレート色のコートのポケットから白砂を取り出し、大河の頭からぱらぱら振りかけた。
 おそらくこれも伽藍堂の品なのだろうと気づいた大河は、何も聞かずに砂を被った。奇妙な白砂は、地面に落ちる前にきらきらまたたいては、消えていく。
 伽藍堂の中は、出かける前よりも蒸気に満ちていた。
「やあ、おかえり。おや、大河君は砂をかぶっていますね……ルゥ?」
 説明を求めようとルーレットが問いただすも、ルゥはかき集めたテラリウムの残骸を広げ、ぽろぽろ涙をこぼし始めた。
「……そうでしたか。今日は大河君がいてくれて本当に良かった」
 事情を聞いたルーレットは、何度も大河に礼を述べた。
「いや、おれがいっしょにいたせいで、もっとややこしい話になってしまって」
 そんなことはありません、とルーレットはきっぱりと否定した。
「君はつらい目に遭ったとき、ひとりでいたいと思いますか。……ルゥも同じ気持ちですよ。さぁ、ここまで来ておくれ。小さな子らよ」
 柱時計に寄り添うルゥの姿を目で追いながら、大河のつま先は惑ったままだ。
「どうしてあいつは、自分で注文したテラリウムを受け取らなかったんだろう」
 いいえ、と穏やかな老人の声がそれを否定する。
「注文したのは、そのカエル自身なのですよ。それを受け取るかどうかは、彼の自由。だから、無理を言ってはいけません」
「カエルが?」
 ルゥの手の中の、ちっぽけなカエルの残骸。
「カエルが、その……あいつのところに行きたいって言ったっていうの?」
 大河は唇をかんだ。
「ものにも感情くらい、ありますよ」
 諭すように語りかけるルーレットに納得できず、大河は階段を駆け上った。
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