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14 問題児を疑う⑨
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部屋の明かりはついていない。
安堵した表情でカギを置き、久坂は自室にしている四畳半へと入っていった。
台所と続き部屋の六畳、奥の四畳半しかない、小さなアパートだ。
強制的に部屋に入ることになったぼくは、後ろ向きになって、彼女が着替え終わるのを待った。
酒飲みの父は外出しているようだが、食卓にしている低いテーブルの脇には、薄い布団がそのままの状態で敷かれている。
台所にはふたりきりの食器しか置いていないようだし、そもそも母親のいる気配はなかった。
ひどい、と嗚咽する小さな久坂の声が、四畳半から響いた。
驚いて振り返ると、窓辺で久坂が小さくなってへたり込んでいるのが見えた。
手には小瓶が握られていて、かすれた畳の上には丸くて小さなものがいくつも転がっていた。
理由はすぐに分かった。
散らばっていたものは、小銭だったのだ。父親は外出する際に、娘のアルバイトで貯めたお札だけ、きれいに持ち去っていったのだろう。
こんな生活、映画やマンガの中でしかぼくは知らない。
ひとしきり涙した久坂はおもむろに立ち上がり、ぐいと目元をぬぐった。そのまますたすた台所まで行き、ざぶざぶ顔を洗う。
それから無表情のままテーブルの前に座り、白米を握っておにぎりを食べた。
やらなくてもいいのに、父親の分も握っていた。
九時になるかというころ、備え付けの旧式の黒電話が鳴った。初めて知ったが、彼女はスマホもケイタイ電話も持っていない。
「分かりました。すぐ行きます。いいえ、大丈夫です」
電話の内容は、親戚の家の中学生に宿題を教える、いうアルバイトのようだった。
こんな時間にも関わらず呼びつける親戚もどうかと思ったが、彼女にしてみたら小遣いを貯める貴重な機会のようだった。
もういい、とぼくは思った。
彼女は絶対に犯人ではない。早く生き返らなければ、ぼくは彼女の力になることもできやしない。
安堵した表情でカギを置き、久坂は自室にしている四畳半へと入っていった。
台所と続き部屋の六畳、奥の四畳半しかない、小さなアパートだ。
強制的に部屋に入ることになったぼくは、後ろ向きになって、彼女が着替え終わるのを待った。
酒飲みの父は外出しているようだが、食卓にしている低いテーブルの脇には、薄い布団がそのままの状態で敷かれている。
台所にはふたりきりの食器しか置いていないようだし、そもそも母親のいる気配はなかった。
ひどい、と嗚咽する小さな久坂の声が、四畳半から響いた。
驚いて振り返ると、窓辺で久坂が小さくなってへたり込んでいるのが見えた。
手には小瓶が握られていて、かすれた畳の上には丸くて小さなものがいくつも転がっていた。
理由はすぐに分かった。
散らばっていたものは、小銭だったのだ。父親は外出する際に、娘のアルバイトで貯めたお札だけ、きれいに持ち去っていったのだろう。
こんな生活、映画やマンガの中でしかぼくは知らない。
ひとしきり涙した久坂はおもむろに立ち上がり、ぐいと目元をぬぐった。そのまますたすた台所まで行き、ざぶざぶ顔を洗う。
それから無表情のままテーブルの前に座り、白米を握っておにぎりを食べた。
やらなくてもいいのに、父親の分も握っていた。
九時になるかというころ、備え付けの旧式の黒電話が鳴った。初めて知ったが、彼女はスマホもケイタイ電話も持っていない。
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