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epilogue.
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時は進み、西暦2024年——。あの時代を知っている者は、一人だけとなった。
「渡ー!いい加減起きなさーい」
「うぅ~ん……」
葉桜が見慣れた頃。窓から差し込む陽光と、母親の透き通る声で起きた少年はゆったりとベッドから立ち上がり、ん~!!、と大きな伸びをして階下へと歩く。
用意された朝食を食べ、適当な服を身に纏い、あっという間に登校の時間である。玄関の扉を開き、家と母親に向かって声をかける。
「行ってきまーす」
星聲家は閑静な住宅地の一軒として、実に堂々と建っている。白地の外壁を陽光が照らし、いつもより輝いて見える。
いつも犬の散歩をしているお爺さんに挨拶をして、踏み切りに向かう。いつもと変わらない登校になんだか充足感を感じ、スキップをしながら進んでいく。
ふと立ち止まる。見ればいつもの石像。陽光に照らされて七彩の結晶片をキラキラと輝かせている。よく晴れているからか、石像はより一層白く、まるで透明に光る。何故かいつも、この石像の前では一瞬立ち止まってしまう。
ぼんやり眺めていると、登校時間が迫っていることに気づき、慌てて走り出す。
◎◎◎
「え~こうして縄文時代では、人々が生活を営み——」
「……ふわぁ~」
昼休み後の、五時間目は社会で歴史の授業だった。最も、こんな一番眠くなる時間に歴史をやるのはナンセンスであると思うが。
退屈な授業を耐えるため、教科書をペラペラと見ていると、どうしてかあの石像が写るコラムがあった。どうも気になって、写真下に書かれている文言を読む。
『通称——《星屑の女神像》——。何年に造られたのか。造った人物。そして現代科学でも解明出来ない正体不明の物質が含まれていること。これらのことから遥か遠い昔、現代文明を凌駕する文明があったのではないかと考えられているが、根拠がないため、研究が進められている。』
あの像、そんなものなんだー。と頭の中で言う。
気づけば授業終わりのチャイムが流れ、あっという間に帰りの会が終了。帰路に着く。
◎◎◎
夕刻が近づく中、下校中に石像前を通りかかろうとすると、一人の女性が石像の側に座り込み、なにやら呟いている。
「あなたがこうならなくても、良かったのに……」
「……あの~、大丈夫ですか?なんかぐったりしていたように見えたので」
女性はゆっくりと振り向く。碧色のセミロングに凛々しく整った顔。そこに宝石のように嵌め込まれた白眼は、憂いと慈愛に満ちた視線をこちらに向ける。しかしすぐに柔らかく優しい表情となり、憂いの靄は晴れて消えてしまっていた。
「……この像。いつもつい止まって見ちゃうんですよね。なにかこう、見られているような感じがして……」
「……」
「あっ、急になんかごめんなさい……それじゃあ僕、もう行きますね!」
そう言って歩き出そうとすると、不意に後ろから衣服の一部を、きゅっと掴まれ振り返ると、先ほどの表情とはうって変わって、こちらを怪訝そうに覗く女性がこう言った。
「あなた、もしかして……」
「……どうか、しました?」
「……いえ、なんでもないわ。急に服掴んじゃって、ごめんなさい。そのお詫びと言ってはなんだけど、この像を触るとね、とても温かい気持ちになれるの。ほら、触ってみて」
「は、はぁ……」
そう言いながら女性が背を向けている石像に近づき、手を伸ばす。触れられる部分が、身長的に太腿辺りであったことから少し罪悪感を感じながらも、そこに触れる。
手のひらが白くて輝く太腿に触れた時、どう言えば良いのか、まるで陽だまりの中、母親と手を繋いで昼寝をしているかのような、確かな温かさが脳裏によぎった。
目を閉じ、その温もりに浸る。だんだん温もりが消えていくような感覚に一抹の寂しさを感じながら、石像から手をゆっくりと引く。
「なんだか……本当に不思議な像、ですね」
「これはあなたと私だけの秘密。いい?」
そう言う女性はどこか嬉しそうに、顔を綻ばせている。
「分かりました!それじゃ、僕帰ります!」
「ええ。気をつけて」
少年、渡はそう言ってスキップをしながら帰路に着く。女性はそれをしばらく見守った後、像に手を当て小さく語りかける。
「あなたが愛した人間たちは、いまでもこうして日常を繰り返している。それに、あなたが遺した意思を継ぐ遺伝子も——」
女性はそれだけを言い、像の側から立ち上がって、人気の少ない路地裏へと消えていった……。
陽射しが和らぎ、木の葉が揺れる平和な世界。そんな世界で、人類は生き続ける。その終着点になにがあろうとも、ルミナとともに。 《了》
「渡ー!いい加減起きなさーい」
「うぅ~ん……」
葉桜が見慣れた頃。窓から差し込む陽光と、母親の透き通る声で起きた少年はゆったりとベッドから立ち上がり、ん~!!、と大きな伸びをして階下へと歩く。
用意された朝食を食べ、適当な服を身に纏い、あっという間に登校の時間である。玄関の扉を開き、家と母親に向かって声をかける。
「行ってきまーす」
星聲家は閑静な住宅地の一軒として、実に堂々と建っている。白地の外壁を陽光が照らし、いつもより輝いて見える。
いつも犬の散歩をしているお爺さんに挨拶をして、踏み切りに向かう。いつもと変わらない登校になんだか充足感を感じ、スキップをしながら進んでいく。
ふと立ち止まる。見ればいつもの石像。陽光に照らされて七彩の結晶片をキラキラと輝かせている。よく晴れているからか、石像はより一層白く、まるで透明に光る。何故かいつも、この石像の前では一瞬立ち止まってしまう。
ぼんやり眺めていると、登校時間が迫っていることに気づき、慌てて走り出す。
◎◎◎
「え~こうして縄文時代では、人々が生活を営み——」
「……ふわぁ~」
昼休み後の、五時間目は社会で歴史の授業だった。最も、こんな一番眠くなる時間に歴史をやるのはナンセンスであると思うが。
退屈な授業を耐えるため、教科書をペラペラと見ていると、どうしてかあの石像が写るコラムがあった。どうも気になって、写真下に書かれている文言を読む。
『通称——《星屑の女神像》——。何年に造られたのか。造った人物。そして現代科学でも解明出来ない正体不明の物質が含まれていること。これらのことから遥か遠い昔、現代文明を凌駕する文明があったのではないかと考えられているが、根拠がないため、研究が進められている。』
あの像、そんなものなんだー。と頭の中で言う。
気づけば授業終わりのチャイムが流れ、あっという間に帰りの会が終了。帰路に着く。
◎◎◎
夕刻が近づく中、下校中に石像前を通りかかろうとすると、一人の女性が石像の側に座り込み、なにやら呟いている。
「あなたがこうならなくても、良かったのに……」
「……あの~、大丈夫ですか?なんかぐったりしていたように見えたので」
女性はゆっくりと振り向く。碧色のセミロングに凛々しく整った顔。そこに宝石のように嵌め込まれた白眼は、憂いと慈愛に満ちた視線をこちらに向ける。しかしすぐに柔らかく優しい表情となり、憂いの靄は晴れて消えてしまっていた。
「……この像。いつもつい止まって見ちゃうんですよね。なにかこう、見られているような感じがして……」
「……」
「あっ、急になんかごめんなさい……それじゃあ僕、もう行きますね!」
そう言って歩き出そうとすると、不意に後ろから衣服の一部を、きゅっと掴まれ振り返ると、先ほどの表情とはうって変わって、こちらを怪訝そうに覗く女性がこう言った。
「あなた、もしかして……」
「……どうか、しました?」
「……いえ、なんでもないわ。急に服掴んじゃって、ごめんなさい。そのお詫びと言ってはなんだけど、この像を触るとね、とても温かい気持ちになれるの。ほら、触ってみて」
「は、はぁ……」
そう言いながら女性が背を向けている石像に近づき、手を伸ばす。触れられる部分が、身長的に太腿辺りであったことから少し罪悪感を感じながらも、そこに触れる。
手のひらが白くて輝く太腿に触れた時、どう言えば良いのか、まるで陽だまりの中、母親と手を繋いで昼寝をしているかのような、確かな温かさが脳裏によぎった。
目を閉じ、その温もりに浸る。だんだん温もりが消えていくような感覚に一抹の寂しさを感じながら、石像から手をゆっくりと引く。
「なんだか……本当に不思議な像、ですね」
「これはあなたと私だけの秘密。いい?」
そう言う女性はどこか嬉しそうに、顔を綻ばせている。
「分かりました!それじゃ、僕帰ります!」
「ええ。気をつけて」
少年、渡はそう言ってスキップをしながら帰路に着く。女性はそれをしばらく見守った後、像に手を当て小さく語りかける。
「あなたが愛した人間たちは、いまでもこうして日常を繰り返している。それに、あなたが遺した意思を継ぐ遺伝子も——」
女性はそれだけを言い、像の側から立ち上がって、人気の少ない路地裏へと消えていった……。
陽射しが和らぎ、木の葉が揺れる平和な世界。そんな世界で、人類は生き続ける。その終着点になにがあろうとも、ルミナとともに。 《了》
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