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episode"4"
episode4.3
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「アルケー……」
「この技術は世界の根幹である生命とその先に待つ死の概念を揺るがすものだ。実際に見てもらった方が早い」
そういうとイルミナは、二人の前で長袖をまくって自身の右腕を見せた。そこには一見、人間と同じような質感の肌があったが、血管らしきものが静かに発光しているのが見てとれた。
「この発明は私自身にしか使っていない。アルケーは自身で細胞を形成、更新し続ける。その時にこうして光るんだ」
「でもそれって、普通の人間と変わらないじゃないか」
「そう、ここまでは光る以外なんら普通の人間と変わらない。ここからだ」
そう言うと立ち上がり、近くにあった机の引き出しを開けて何か資料のようなものを取り出した。
そこには無数とも言える実験の記録。その中で唯一成功した個体であるマウスの記録を見る。
「このマウスは今でも生きている。基本的に人間や動物といった生命体の細胞というのは寿命が存在する。だから年老いた時、脳はボケるし細胞の更新は止まってしまう」
「そうですね」
「しかしこのアルケーはそうはいかない。一度起動してしまえば、自身の身体を壊すか何も食べたり飲まなかったりする以外、永遠に更新と形成を繰り返す」
「そんなことが出来るのか……!」
「だからこそ、私以外の人間にはこれを使わないと決めた。人間としての尊厳を守るためにね」
そう言って資料を元の引き出しに戻す。
先程の言葉にある疑問を覚えたルミナが再び、イルミナを問う。
「ならなぜ、それを、アルケーを作ったのですか」
「……元々作る必要は無かった。それは私自身も感じていたことだ。でも、死ぬのが怖かったんだろうな、本当に」
でも、と付け足し話を続ける。
「でも今は違う。私はただ、待っているのだ。人類の進化を」
「人類の進化……?」
「そう、進化さ。来たる外宇宙からの生命体との対話が訪れる。私の見立てだともう数十年、と言ったところだろうが、その時に人類がそのままであれば、対話はなされない。しかし、今人類は進化の過程にある。そこにある特異点さえ越えてしまえば……」
「でもそんな急に人間は進化しないぞ。ほら、今だってアンドロイドを打ち倒そうと戦争しようとしてる。なんら変わってなんか——」
「今、なんて言った?」
「え?いや、今にも戦争が——」
「そう!!遂にか!!何故もっと早く言わないのだ君たちはっ!!」
「どういうことですか?」
小刻みに震えながら笑うイルミナに対し一種の恐怖を覚えながら、そう問うルミナに、興奮を抑えられない様子でイルミナが再び話す。
「METSISはただの人工生命体なんかじゃないのさ、ルミナ。今までは敵を殲滅するための道具であったが……本来の使い道ではないんだ」
「博士は一体、何をしようと……?」
「METSISが人類の進化を促すようにそう、まるで先導者のような役割を持たせていたのさ。自身の狂気性を理解しつつ、そんな大層なことまで考えてたんだ」
「でもMETSISがどうやって人類を進化に導くんだ?そんな仕掛け、どこにも……」
「……ルミナはあの兵器を使う時、身体の関節から光の粒子が出るだろう?」
「はい。原理はよく分かりませんが……」
「それだよ。あの粒子はただの排気副産物じゃない。あれには人間としての寿命を伸ばす効果、そしてもう一つある効果があるんだ」
一呼吸置き、その効果を改めて言葉にする。
「それは、今まで容易には出来なかった相互理解だ。一種のテレパシーとでも言えば良いだろうか」
「テレパシー……?」
「何も言わなくても、相手の情報や感情が頭に入ってくるようになる。実際私は、ここに居る六人に協力してもらい、それと同等の能力を得ている」
「そんなことが……」
「でもこれが現実だ。あの天才クソ親父が思い描いた人類の進化だ。……戦争は、一度始めてしまえば止まることはない。進化も同じように、止まることなく進み続けるだろう」
しばらくの沈黙。言葉を失い何をどう話せば良いか収集がつかなくなっていた三人の元に、どたどたと慌ただしい足音を立てて部屋に入ってくる者がいた。
「イルミナぁ~!!……ってアレ?なんか、入っちゃマズかった感じ?」
「……ふふ、いいや大丈夫だ。何かあったのかい、"レイ"」
レイと呼ばれた彼女は、METSISであった。しかしルミナ達に敵意を向けるわけでもなく、ただイルミナの言葉に喜び、話し始めた。
「"ビーヌ"がまた意地悪なのっ!お前はガサツ?だからまともに農耕も出来ないんだ、とか言ってさぁ!!」
「ガサツなのは間違っていない。もう少し丁寧にすることを覚えろ、レイ」
そう言ってレイの背後から手刀をレイに向けて部屋に入ってきたのは、これまたMETSISであった。
ルミナやクレスにお辞儀をし、イルミナにも目を向けつつ話す。
「ご無事で何よりです、ルミナ。私はMETSISのビーヌ。ここでイルミナ様と生活する者です。あなた達を見つけた時は驚きました」
「……!あなたが、私たちを助けてくれたのですか」
「はい。まさかあの土砂降りの日に人がいるとは思いませんでした……しかもこうしてルミナが来るとは予想だにしませんでした」
そう言ってイルミナの隣に腰を下ろす。それに続いてレイもその隣に座った。
「そういえばビーヌはどうしたんだ?何か用があって……?」
「はい。実はルミナに用があって来ました。……今はマズい、ですか?」
「いやそんなことはないよ。話してくれて構わない」
「ありがとうございます」
そうイルミナに言って、改めてルミナの方に向き直るビーヌ。少しの間をもって、話し始める。
「何故こちらに来たのか……それすらも分からない状況ではありますが……」
そう言ってルミナの方へと頭を下げ、一つのお願いを言った。
「サダルを、他の敵対するMETSISを。どうか守っていただけないでしょうか」
「……え?」
これから戦うかも知れない相手を守ってほしい、という願いであった。
「この技術は世界の根幹である生命とその先に待つ死の概念を揺るがすものだ。実際に見てもらった方が早い」
そういうとイルミナは、二人の前で長袖をまくって自身の右腕を見せた。そこには一見、人間と同じような質感の肌があったが、血管らしきものが静かに発光しているのが見てとれた。
「この発明は私自身にしか使っていない。アルケーは自身で細胞を形成、更新し続ける。その時にこうして光るんだ」
「でもそれって、普通の人間と変わらないじゃないか」
「そう、ここまでは光る以外なんら普通の人間と変わらない。ここからだ」
そう言うと立ち上がり、近くにあった机の引き出しを開けて何か資料のようなものを取り出した。
そこには無数とも言える実験の記録。その中で唯一成功した個体であるマウスの記録を見る。
「このマウスは今でも生きている。基本的に人間や動物といった生命体の細胞というのは寿命が存在する。だから年老いた時、脳はボケるし細胞の更新は止まってしまう」
「そうですね」
「しかしこのアルケーはそうはいかない。一度起動してしまえば、自身の身体を壊すか何も食べたり飲まなかったりする以外、永遠に更新と形成を繰り返す」
「そんなことが出来るのか……!」
「だからこそ、私以外の人間にはこれを使わないと決めた。人間としての尊厳を守るためにね」
そう言って資料を元の引き出しに戻す。
先程の言葉にある疑問を覚えたルミナが再び、イルミナを問う。
「ならなぜ、それを、アルケーを作ったのですか」
「……元々作る必要は無かった。それは私自身も感じていたことだ。でも、死ぬのが怖かったんだろうな、本当に」
でも、と付け足し話を続ける。
「でも今は違う。私はただ、待っているのだ。人類の進化を」
「人類の進化……?」
「そう、進化さ。来たる外宇宙からの生命体との対話が訪れる。私の見立てだともう数十年、と言ったところだろうが、その時に人類がそのままであれば、対話はなされない。しかし、今人類は進化の過程にある。そこにある特異点さえ越えてしまえば……」
「でもそんな急に人間は進化しないぞ。ほら、今だってアンドロイドを打ち倒そうと戦争しようとしてる。なんら変わってなんか——」
「今、なんて言った?」
「え?いや、今にも戦争が——」
「そう!!遂にか!!何故もっと早く言わないのだ君たちはっ!!」
「どういうことですか?」
小刻みに震えながら笑うイルミナに対し一種の恐怖を覚えながら、そう問うルミナに、興奮を抑えられない様子でイルミナが再び話す。
「METSISはただの人工生命体なんかじゃないのさ、ルミナ。今までは敵を殲滅するための道具であったが……本来の使い道ではないんだ」
「博士は一体、何をしようと……?」
「METSISが人類の進化を促すようにそう、まるで先導者のような役割を持たせていたのさ。自身の狂気性を理解しつつ、そんな大層なことまで考えてたんだ」
「でもMETSISがどうやって人類を進化に導くんだ?そんな仕掛け、どこにも……」
「……ルミナはあの兵器を使う時、身体の関節から光の粒子が出るだろう?」
「はい。原理はよく分かりませんが……」
「それだよ。あの粒子はただの排気副産物じゃない。あれには人間としての寿命を伸ばす効果、そしてもう一つある効果があるんだ」
一呼吸置き、その効果を改めて言葉にする。
「それは、今まで容易には出来なかった相互理解だ。一種のテレパシーとでも言えば良いだろうか」
「テレパシー……?」
「何も言わなくても、相手の情報や感情が頭に入ってくるようになる。実際私は、ここに居る六人に協力してもらい、それと同等の能力を得ている」
「そんなことが……」
「でもこれが現実だ。あの天才クソ親父が思い描いた人類の進化だ。……戦争は、一度始めてしまえば止まることはない。進化も同じように、止まることなく進み続けるだろう」
しばらくの沈黙。言葉を失い何をどう話せば良いか収集がつかなくなっていた三人の元に、どたどたと慌ただしい足音を立てて部屋に入ってくる者がいた。
「イルミナぁ~!!……ってアレ?なんか、入っちゃマズかった感じ?」
「……ふふ、いいや大丈夫だ。何かあったのかい、"レイ"」
レイと呼ばれた彼女は、METSISであった。しかしルミナ達に敵意を向けるわけでもなく、ただイルミナの言葉に喜び、話し始めた。
「"ビーヌ"がまた意地悪なのっ!お前はガサツ?だからまともに農耕も出来ないんだ、とか言ってさぁ!!」
「ガサツなのは間違っていない。もう少し丁寧にすることを覚えろ、レイ」
そう言ってレイの背後から手刀をレイに向けて部屋に入ってきたのは、これまたMETSISであった。
ルミナやクレスにお辞儀をし、イルミナにも目を向けつつ話す。
「ご無事で何よりです、ルミナ。私はMETSISのビーヌ。ここでイルミナ様と生活する者です。あなた達を見つけた時は驚きました」
「……!あなたが、私たちを助けてくれたのですか」
「はい。まさかあの土砂降りの日に人がいるとは思いませんでした……しかもこうしてルミナが来るとは予想だにしませんでした」
そう言ってイルミナの隣に腰を下ろす。それに続いてレイもその隣に座った。
「そういえばビーヌはどうしたんだ?何か用があって……?」
「はい。実はルミナに用があって来ました。……今はマズい、ですか?」
「いやそんなことはないよ。話してくれて構わない」
「ありがとうございます」
そうイルミナに言って、改めてルミナの方に向き直るビーヌ。少しの間をもって、話し始める。
「何故こちらに来たのか……それすらも分からない状況ではありますが……」
そう言ってルミナの方へと頭を下げ、一つのお願いを言った。
「サダルを、他の敵対するMETSISを。どうか守っていただけないでしょうか」
「……え?」
これから戦うかも知れない相手を守ってほしい、という願いであった。
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