上 下
18 / 43
episode"2"

episode2.3

しおりを挟む
 クラウドに言われて、三人とも入り扉を閉める。幻かと思われたが、どうやらこの大部屋たちは現実のようだ。

ルミナとタウリーは目を大きく見開き、眼前に広がる光景にただ驚くだけであった。



「驚いたかい。これが、アンドロイドがいた時代の発明みたいだよ。全く、我ながらなかなかちゃんと出来てるじゃないか」

「ああ。トワレの軍でも使われていたものとほぼ同じだ。クラウドは凄いのだな」

「……褒めたって、何も出やしないよ。ホラ、アンタらもボーッとしてんじゃ無いよ。とっとと飯食って寝るさね」

「はい」

「は、はーい」

「ワンワン!」



 そう言ってテキパキと準備を始めるクラウドには、頼もしさがあった。

言われるがままにいそいそとご飯の準備を、各々が始める。いつの間にか部屋の真ん中に出されたテーブルに、それぞれが持っている食糧を出し始めた。



「今日は料理しないけど、アタシゃ基本料理する派なんだ。アンタらに食べてもらうからね」

「え、良いの?」

「良いも何も無いわ!アタシがそうするって言ってんだから、つべこべ言わずに食いな。いいね?」

「やったー!」



 タウリーは、クラウドの言葉に歓喜しながら、ウキウキで食事をとり始めた。

そんな様子を横目で見ながら、他の三人も食事を取り始める。

 そこからはあっという間に寝る時間へと滑り込んだ。皆、言葉にはしないが、疲れていたからである。

クラウドとサダルは、皆で食事を取った部屋とは別にある二つの部屋にそれぞれ行き、タウリーとルミナはそのまま部屋に残り、タウリーが持っていた寝袋に入って眠りについた。

 思えば長く、色濃い一日であったと言えよう。湖から汚染地を避けながら集落であるシリウスへと来た。そこでクラウドとサダルに出会い、今こうして共に旅をしている。

 暗い部屋の中で、ルミナがタウリーに話し掛ける。



「タウリー、ごめんなさい。勝手に同行してしまいました」

「大丈夫だよ全然!むしろ、良かったんじゃないかな。変わらず大陸一周は目指せるし、それに……人が多くいた方が、賑やかで楽しいしね!」

「……それなら、良かったです」

「……うん!ルミナが何者なのかも、きっとこの旅で分かるよ!そのためにも、他のアンドロイドを見つけようね」

「はい……!」



 二人、決意を固め、また歩き出すために眠りにつく。



「おやすみ、ルミナ」

「おやすみなさい、タウリー」












          ♒︎












 一人部屋で良かった。他の者達に見つかるわけにはいかない。見つかる訳にはいかないのだ、今はまだ。



——//宝瓶宮器サダルスード、起動//——

——//起動コード、確認。今回はどうされますか?//——



「全十二宮兵器に通達。特製電波による妨害を付与しろ。起動が完了していない個体についてはログに残せ。頼むぞ」



——//確認。十二宮兵器を認識。通達を行います。……空間調和完了。量子運動数値把握。特製電波散布。……秘密性99%。では、通達開始。//——



 これは、あの男の夢でもある。私一人で潰すわけにはいかない。失敗は、許されない。



「全十二宮兵器に通達する。聴こえているか、お前達。まず、長きに渡る戦争は終結している。この世界は、既に別世界と言って良いだろう」



 みな、聴こえているのだろうか。私と博士の夢を、憶えているだろうか?



「そして急で悪いが聴いてくれ。私たちの夢、そして博士の夢である計画"ニュイ・エトワレ"への箱を見つけた。あれだけ退屈で辛いだけだった戦争中に、必死に探していたあの箱だ」



 いや、たとえ一人になろうとも、必ず成し遂げてみせる。それが、博士との約束だから。



「私の五感情報を量子に流す。そちらの方を確認してくれ。恐らく、間違いないだろう」



 私たち、いや、私たち以上のもっと凄まじく、破壊神とも呼べる破壊力を備えたオリジナル機体。



「あの"スタリング・メルトウェル"が残したオリジナル機体。人工知能生命体METSISのオリジン。……幸い、彼女には記憶が無いようだ。上手くいけば、すぐにでもニュイ・エトワレが実行可能だ」



 名もなき神に、救いの手を。



「同志達の協力を命令する。どのやり方でも良い。必ず捕縛する」



 ……ルミナ、君は——



「以上だ。通達を終了する」



——//回線回収。調和解除。機能停止します。//——



 ルミナ・メルトウェルは、私が掌握する。












         ◎◎◎












 彼らの朝は早かった。クラウドが全員を早朝に叩き起こしたためである。

いつの間にか作られた料理を、全員で囲んで食べる。

全員の目を覚まさせるには、その料理の洗練された味だけで十分だったようだ。クラウドは終始満足気であった。



「それじゃ、全員準備は終わったかね?」

「ああ。いつでも行ける」

「こっちも大丈夫!」

「ワン!!」

「……行きましょう」



 クラウドが頷き、異次元収納庫を仕舞う。



 「それじゃ、出発!」



 そう告げ、タウリーとクラウドを先頭に道なりで進み始めた。

朝日が昇り、動物達が朝を告げる。木々や草花も、まるで今日という日を歓迎するかのように風に揺れ、気持ち良さげにしていた。

 すると、急に近くの場所から何かが爆ぜるような音が鳴った。



 瞬く間に炎と黒煙が立ち上がり、木々がパキパキと悲鳴を上げ始めた。

鳥が一斉に飛び立ち、その異常性を膨らませる。



「な、なんだね!?」

「クラウドさん、危ない!」



 爆ぜた木々の破片が、クラウドを襲う——と思われたが、サダルが軽々弾いてことなきを得た。



「あ、ありがとね、アンタ」

「……」



 ごうごうと燃え盛り、時折爆ぜるようにして燃え続ける炎の中から、一人の少女が現れた。



「お、いたいたー!……アンタらだろ。なんだか変な粒子を出してんのは」

「だ、だれ!?」

「小僧、アタシに聞いてどうするのさ!?」



 燃え盛る炎のような髪に、まるで猛牛のような角を持った少女は、少しの沈黙を持ってまた話し出す。



「久々に戦えそうな奴らだ。私の感がそう言ってるからな。相手になってもらうぜ」



 そう少女が言うと、各関節部分から赤い粒子を散布しながら、鬼神の如き速さであっという間にルミナの目の前に躍り出た。



「おめぇにいってんのさ!!」



 振りかぶった拳を振り下ろされ、赤い粒子が飛び散る。ルミナの顔にヒットした——かに見えた。

ルミナは右手一本でガードし、各関節部分から緑色の粒子を散布していた。

ルミナの口から、無意識に言葉が紡ぎ出される。



\\//殲滅型戦闘敵意確認。超次元動力炉発動。スターマイン損傷率0%。流動有効。排除行動へと移ります。//\\



 その目に、仲間の姿は映っていない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

エデンの花園

モナカ(サブ)
ライト文芸
花に支配された世界で、少女は生き抜く

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マインハールⅡ ――屈強男×しっかり者JKの歳の差ファンタジー恋愛物語

花閂
ライト文芸
天尊との別れから約一年。 高校生になったアキラは、天尊と過ごした日々は夢だったのではないかと思いつつ、現実感のない毎日を過ごしていた。 天尊との思い出をすべて忘れて生きようとした矢先、何者かに襲われる。 異界へと連れてこられたアキラは、恐るべき〝神代の邪竜〟の脅威を知ることになる。 ――――神々が神々を呪う言葉と、誓約のはじまり。

処理中です...