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episode"1"
episode1.9
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交流集落の地シリウスの外れにある、魔女が住むとされる家があった。
シリウスに住む者も、他の地から来た者も、魔女が住んでいるという噂を聞いてその家には誰一人として近寄らないとされている。
二人と一匹を除いては。
タウリー、ルミナ、そしてホープはその家が放つ独特の雰囲気に少し不安を抱いていた。
家自体の外見は、周りの家々と大差は無かった。一般的と言える木造の家である。しかし、その周りに置いてある物が、魔女が住んでいると言わしめる要因となっていた。
「これって……骨?」
「こっちには機械のような物もありますよ」
人骨と思われるものが家の周りを囲っており、さらに機械のようなものがそこかしこに転がっていた。どれももう動く気配もないようなガラクタである。
恐る恐る戸を叩く。するといかにも魔女と呼ぶには相応しい、いかめしい顔をした老婆が姿を現した。
「……なんだいあんた達。見ない顔だね。ここにぁなんも無いよ。帰んな」
「おばあさん。私達は、あるお爺さんの紹介でここに来ました。良ければ話を聞いてもらえませんか」
ルミナがそう言い、お爺さんから預かった手紙を渡す。
その場でタウリー一行を睨みながら、手紙を開く。中身を見て驚きと戸惑いの表情を浮かべ、静かに手紙を閉じ、そっとポケットにしまった。
「あんた達。奥にあるテーブルに腰を降ろしな。話はそれからだ」
そう告げ、老婆は台所と思しき場所で茶を用意し始めた。
◎◎◎
「あんた、本当にアンドロイドなんだね」
「はい」
手紙の内容は、ある旅の者と会い、そこでアンドロイドのルミナと出会ったこと。そのルミナが、集落であったロボットと関係のある事件を知りたがっており、そのことについて話して欲しい、ということが書いてあったようだ。
老婆は、飲みな、と二人に茶が入った古めかしい椀を差し出す。そして自分も茶を啜りながら片手で椅子を引き、卓に着く。
一息つき、老婆が話をしだした。
「あんたが欲しがっている、ロボットについての話だが……特にこれと言ったのですものはないよ。その事については爺さんから聞いただろうからね。でもね……」
着いてきな、と一言だけ言うと、椅子から立ち上がり、床式収納のような扉を開けると、下へと続く梯子に手を掛け、そのまま降っていった。
タウリーとルミナは顔を合わせ、逡巡し着いていくことにした。ホープはそのまま待っててもらうことにした。
暗い中、下へ下へと降っていく。段々と明るくなっていく通路に不気味さを感じながら、とにかく下へと降っていく。
「この先、何があるんだろう……」
「おばあさんは、私達に何を見せようとしているのでしょうか……?」
「着いたよ」
老婆がそう言うと、重厚そうな扉が目の前に現れ、何やらただならぬ雰囲気を醸し出している。
老婆が扉に手をかける。ゆっくりと重そうに開く扉の先に、見たこともない機械のようなものが現れた。
複雑に絡まりかけたその配線の先には、少女のような物が腰掛けていた。
「これって……」
「アンタらなら、これが何なのかは一目で分かるだろう。私は、今コイツの研究を他の集落の人々に黙ってやってるのさ。ほら、アイツらやけにうるさいからね」
「私と同じ……アンドロイド……」
そうさ、と答えながら、老婆は腰掛けているそのアンドロイドに目を向ける。
「正確には、アンタと同じと言えるかどうかは分からないがね。どうもアンタは人間に近すぎる」
ため息をつき、タウリーとルミナの方に向き直して、老婆は話し出した。
「改めて……私は"アルタイル・クラウド"。私の両親が男と間違えて名付けたせいで、何だか男みたいになっちまった。まあそんなことはどうでも良いがな……クラウド、とでも呼んでくれ」
「クラウドさん。どうしてアンドロイドを研究しているのですか」
「ああ、昔からよく分からない物が好きでね。子供の頃に大昔の本に書かれていた機械とやらに心酔したのさ。そして、あの事件が起こった……」
機械に手を掛けながら、話を続ける。
「あの事件が起こって、集落に住む人々は必死になって他のロボット、アンドロイドが無いかを探した。全て壊すためにね。でも私としてはそれじゃあ面白くない。だから元々家の下にあった収納場所に、集落の奴らよりも先に見つけた物を集めた」
「ここにある物は、全部そうなの?」
「そうさね。以外と探せばそこら中にあったわけだ。でも、あるだけじゃ何も出来やしない。情報が必要だった。だから本を片っ端から集めた。機械の情報はとっくの昔に廃れてるからね。そうしていくうちに、段々と詳しいことが分かってきたもんだから、もう面白くてな」
そしたらこんな歳になっちまって……、と呟き、腰掛けて目を開かないアンドロイドに手を掛けた。
「設備も整えて、ロボットの残骸を解析していくうちに、奇妙な共通点を見つけた。皆同じシグナルのようなものを出していたんだ。まるで動物たちの長へと自分の状況を知らせるようにね。その共鳴を辿っていたら、コイツを見つけた」
「この子は目を覚さないの?」
「いや、目を覚ますように足りないパーツを足したり、調整をしたりしたんだが……なかなかどうして、目を覚さんのさ。まだまだ分からないことだらけでね」
でも、と付け加えて、ルミナの方を見る。
「まさかあのジジイからこんな出会いがあるとは思ってなかったよ。……ルミナ、アンタが来た」
「私が、おばあさんのお役に立てる、と?」
「その通りさね。だから私はここをアンタらに見せたのさ。それに、私に協力してくれるなら、機械、ロボット、そしてアンドロイドのことについて。少しは教えてあげられるしね」
特に断る理由もなかったルミナは、真剣な面持ちで黙って頷いた。クラウドはそれを了承と読み取って、何やら器具の準備をし始めた。
後ろで見守っていたタウリーは、そのルミナの真剣な顔を見て安堵しつつも、クラウドが何をするか分からないので、心配しつつもあった。
「さてルミナ。これで少し、アンタの身体の構造を調べさせて——」
突然。ルミナの左脳部分が、緑色の光で包まれた。
「——識別コード、解析不能。……あなた、何者?」
腰掛けていたアンドロイドの少女が、目を覚ます。
シリウスに住む者も、他の地から来た者も、魔女が住んでいるという噂を聞いてその家には誰一人として近寄らないとされている。
二人と一匹を除いては。
タウリー、ルミナ、そしてホープはその家が放つ独特の雰囲気に少し不安を抱いていた。
家自体の外見は、周りの家々と大差は無かった。一般的と言える木造の家である。しかし、その周りに置いてある物が、魔女が住んでいると言わしめる要因となっていた。
「これって……骨?」
「こっちには機械のような物もありますよ」
人骨と思われるものが家の周りを囲っており、さらに機械のようなものがそこかしこに転がっていた。どれももう動く気配もないようなガラクタである。
恐る恐る戸を叩く。するといかにも魔女と呼ぶには相応しい、いかめしい顔をした老婆が姿を現した。
「……なんだいあんた達。見ない顔だね。ここにぁなんも無いよ。帰んな」
「おばあさん。私達は、あるお爺さんの紹介でここに来ました。良ければ話を聞いてもらえませんか」
ルミナがそう言い、お爺さんから預かった手紙を渡す。
その場でタウリー一行を睨みながら、手紙を開く。中身を見て驚きと戸惑いの表情を浮かべ、静かに手紙を閉じ、そっとポケットにしまった。
「あんた達。奥にあるテーブルに腰を降ろしな。話はそれからだ」
そう告げ、老婆は台所と思しき場所で茶を用意し始めた。
◎◎◎
「あんた、本当にアンドロイドなんだね」
「はい」
手紙の内容は、ある旅の者と会い、そこでアンドロイドのルミナと出会ったこと。そのルミナが、集落であったロボットと関係のある事件を知りたがっており、そのことについて話して欲しい、ということが書いてあったようだ。
老婆は、飲みな、と二人に茶が入った古めかしい椀を差し出す。そして自分も茶を啜りながら片手で椅子を引き、卓に着く。
一息つき、老婆が話をしだした。
「あんたが欲しがっている、ロボットについての話だが……特にこれと言ったのですものはないよ。その事については爺さんから聞いただろうからね。でもね……」
着いてきな、と一言だけ言うと、椅子から立ち上がり、床式収納のような扉を開けると、下へと続く梯子に手を掛け、そのまま降っていった。
タウリーとルミナは顔を合わせ、逡巡し着いていくことにした。ホープはそのまま待っててもらうことにした。
暗い中、下へ下へと降っていく。段々と明るくなっていく通路に不気味さを感じながら、とにかく下へと降っていく。
「この先、何があるんだろう……」
「おばあさんは、私達に何を見せようとしているのでしょうか……?」
「着いたよ」
老婆がそう言うと、重厚そうな扉が目の前に現れ、何やらただならぬ雰囲気を醸し出している。
老婆が扉に手をかける。ゆっくりと重そうに開く扉の先に、見たこともない機械のようなものが現れた。
複雑に絡まりかけたその配線の先には、少女のような物が腰掛けていた。
「これって……」
「アンタらなら、これが何なのかは一目で分かるだろう。私は、今コイツの研究を他の集落の人々に黙ってやってるのさ。ほら、アイツらやけにうるさいからね」
「私と同じ……アンドロイド……」
そうさ、と答えながら、老婆は腰掛けているそのアンドロイドに目を向ける。
「正確には、アンタと同じと言えるかどうかは分からないがね。どうもアンタは人間に近すぎる」
ため息をつき、タウリーとルミナの方に向き直して、老婆は話し出した。
「改めて……私は"アルタイル・クラウド"。私の両親が男と間違えて名付けたせいで、何だか男みたいになっちまった。まあそんなことはどうでも良いがな……クラウド、とでも呼んでくれ」
「クラウドさん。どうしてアンドロイドを研究しているのですか」
「ああ、昔からよく分からない物が好きでね。子供の頃に大昔の本に書かれていた機械とやらに心酔したのさ。そして、あの事件が起こった……」
機械に手を掛けながら、話を続ける。
「あの事件が起こって、集落に住む人々は必死になって他のロボット、アンドロイドが無いかを探した。全て壊すためにね。でも私としてはそれじゃあ面白くない。だから元々家の下にあった収納場所に、集落の奴らよりも先に見つけた物を集めた」
「ここにある物は、全部そうなの?」
「そうさね。以外と探せばそこら中にあったわけだ。でも、あるだけじゃ何も出来やしない。情報が必要だった。だから本を片っ端から集めた。機械の情報はとっくの昔に廃れてるからね。そうしていくうちに、段々と詳しいことが分かってきたもんだから、もう面白くてな」
そしたらこんな歳になっちまって……、と呟き、腰掛けて目を開かないアンドロイドに手を掛けた。
「設備も整えて、ロボットの残骸を解析していくうちに、奇妙な共通点を見つけた。皆同じシグナルのようなものを出していたんだ。まるで動物たちの長へと自分の状況を知らせるようにね。その共鳴を辿っていたら、コイツを見つけた」
「この子は目を覚さないの?」
「いや、目を覚ますように足りないパーツを足したり、調整をしたりしたんだが……なかなかどうして、目を覚さんのさ。まだまだ分からないことだらけでね」
でも、と付け加えて、ルミナの方を見る。
「まさかあのジジイからこんな出会いがあるとは思ってなかったよ。……ルミナ、アンタが来た」
「私が、おばあさんのお役に立てる、と?」
「その通りさね。だから私はここをアンタらに見せたのさ。それに、私に協力してくれるなら、機械、ロボット、そしてアンドロイドのことについて。少しは教えてあげられるしね」
特に断る理由もなかったルミナは、真剣な面持ちで黙って頷いた。クラウドはそれを了承と読み取って、何やら器具の準備をし始めた。
後ろで見守っていたタウリーは、そのルミナの真剣な顔を見て安堵しつつも、クラウドが何をするか分からないので、心配しつつもあった。
「さてルミナ。これで少し、アンタの身体の構造を調べさせて——」
突然。ルミナの左脳部分が、緑色の光で包まれた。
「——識別コード、解析不能。……あなた、何者?」
腰掛けていたアンドロイドの少女が、目を覚ます。
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