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episode"1"
episode1.3
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夜よりは少し暖かくなり、鳥たちの鳴き声が聴こえてくる早朝。すでに日が昇り、満天の星々は綺麗に消えていた。
テントの中ではタウリーとホープが身を寄せるようにして眠っていた。
ホープが先に目を覚まして、辺りを見渡しタウリーの寝顔を見つめる。しばらくすると、起こすように吠え出した。
「ワンッ!ワンッ!!」
「ん~……うるさいよホープ。もう少し寝させて……」
そう言うとタウリーはまた寝だす。ホープとは逆の方向を向いて。
しかし、ホープは鳴き止まない。どうしてもタウリーに起きて欲しいのだろう。
「ワン!ワン!ワン!」
「ん~……ああ!もう!朝からなんだよ、ホープ」
「ワンッ!」
やっときちんと起きたタウリーにご満悦のようだ。ホープはタウリーの周りをぐるぐるし、膝の上に乗り出した。
起こされたタウリーは目をこすりながら文句を垂れていたが、ホープの相手をしているうちにきちんと目が覚め、いつものようにホープが居て、元気な姿で自分に戯れてくることに、安心していた。
しかし、ある違和感に襲われて、立ち上がってテント内を見渡す。
ルミナが居ない。夜、最後にした会話を覚えているため、テントにいないはずがないと思っていたタウリーは、異常なまでに焦り始めた。
「いない……!何処にいったの?」
テントの外に出る。焚き火が消えていたので、そこで寝てしまったわけではないようだ。もちろん、その焚き火跡の近くにも居なかった。
「どうしたのですか?」
「あ……ルミナ……!」
「おはようございます。少し廃墟群の方まで歩いていたので——」
タッタッタッタッ
ギュ。
駆け足でルミナに駆け寄っていったタウリーは、勢いを殺すことなくルミナに抱き付く。ルミナは、どう反応すれば良いか分からず、ただ無表情でタウリーを見ていた。
タウリーは小さく、小さく泣いていた。
◎◎◎
「落ち着きましたか?」
「……うん」
とりあえず泣き止むまで、ルミナはタウリーを待っていた。撫でたり抱き返したりすることなくただ待っていただけではあるが。
その間、タウリーは本当に小さく泣いていた。しかし、ルミナを離すことなく泣きやんでも暫く離さないでいた。
二人の足元でホープは静かにぐるぐるしていた。
「とりあえず、向こうの焚き火跡まで戻りましょう。座った方が良いです」
「……うん」
先にルミナが動き出し、その後をタウリーが歩いていく。ホープは二人が縦で並んで歩いている横を歩いていく。
大きめな石に座り、ルミナとタウリーは黙っていた。ルミナはどうすることもせず、タウリーが話し始めることを待っていた。
しばらく沈黙が走る。二人の息遣いと、一匹の周りを回る足音だけが聴こえてくる。
やがて、タウリーが口を開く。
「……ねえ、ルミナは、さ。……誰かが急に居なくなったってこと、ある?」
「……すみません、覚えてないです」
「だよね……」
またも沈黙が走る。
しかし、タウリーがまた口を開く。
「僕はさ、集落にいた頃は大人たちに囲まれて育ったんだ。でも……本当の親は居なかった」
「……」
「みんな、どこかやっぱり他人事で。結局は他人の子供なんだって、そう思ったんだ。だから、その……ルミナを見つけて、何も覚えてないって聞いた時、なんだか仲間を見つけたみたいで、少し嬉しかったんだ。だからルミナが居なくなっちゃったと思って……なんか、すごい、悲しくて……」
「タウリー……」
「ホープも、いるんだけど……それとは違うって言うか……もちろん、ホープが居なくなっちゃっても悲しいんだけど……」
「タウリー」
タウリーが言葉にしきれない感情を吐露すると、それを聞いたルミナが手を大きく広げて固まっていた。
それを見てタウリーも固まる。ルミナが何をしたいのか、全く分からない様子だった。
「何してるの?」
「……分かりません。ですが、何故かすごく、タウリーを抱きしめたくなりました……何故でしょう?」
「……」
「私にはどうも分からなくて……タウリーは何か知って——」
ルミナが何も分からないでそのまま手を広げて固まっていると、タウリーはルミナの懐にゆっくりと入り、ルミナは自分の感情も分からないまま、タウリーを抱きしめた。
すると、タウリーもゆっくり優しくルミナを抱き返しながら、目を閉じ、温もりを感じていた。
「ルミナ、もう大丈夫だよ」
「……そう、ですか?」
「うん、もう大丈夫」
そうタウリーが言うと、ゆっくりとルミナはタウリーを離す。タウリーもルミナから離れて、少し落ち着いた顔をしながらルミナを見た。
「ルミナ、どうして抱きしめたくなったの?」
「……タウリーとは、まだ会ったばかりで、お互いをよく知っているわけでは無いのですが……タウリーが私を、仲間って思ってくれていて。私を必要としてくれて、でもそれで苦しんで。それを見て何故か、私の胸がキュって締まったんです。そしたら、タウリーを抱きしめたくなったのです」
「……ルミナのそれは、"同情"とか、"慈しみ"ってやつだよ。……ルミナは自分では感情がよく分からない、分かりたいって言ってたけど、きっとルミナにはもうあるんだと思う。だから、きっとルミナはいつか、人間になれるよ。僕が保証する。だから……きっと、大丈夫だよ」
「……そうだと、良いのですが」
「うん……それと、僕と約束して。僕たちは、どんな時も仲間だ。離れていても、忘れないで」
「……?分かりました。忘れません」
「うん……はあ~!!ん、なんかスッキリしたー——あ!!ホープ寝ちゃってる……」
「少し、長すぎましたか」
「……きっと、必要な時間だったから。ホープが寝るのも、ね」
「……?」
そういうとタウリーは、テントを片付けるために、テントへと向かって歩いていた。その足取りは、何か憑き物が取れたかのように軽やかだった。
ルミナはタウリーが言った言葉の意味がよく分からず立ち尽くしていたが、言葉の意味を考えるために座り直す。
終始ホープは、朝の心地よい風の中、ゆっくり寝息を立てて寝ていただけだった。
テントの中ではタウリーとホープが身を寄せるようにして眠っていた。
ホープが先に目を覚まして、辺りを見渡しタウリーの寝顔を見つめる。しばらくすると、起こすように吠え出した。
「ワンッ!ワンッ!!」
「ん~……うるさいよホープ。もう少し寝させて……」
そう言うとタウリーはまた寝だす。ホープとは逆の方向を向いて。
しかし、ホープは鳴き止まない。どうしてもタウリーに起きて欲しいのだろう。
「ワン!ワン!ワン!」
「ん~……ああ!もう!朝からなんだよ、ホープ」
「ワンッ!」
やっときちんと起きたタウリーにご満悦のようだ。ホープはタウリーの周りをぐるぐるし、膝の上に乗り出した。
起こされたタウリーは目をこすりながら文句を垂れていたが、ホープの相手をしているうちにきちんと目が覚め、いつものようにホープが居て、元気な姿で自分に戯れてくることに、安心していた。
しかし、ある違和感に襲われて、立ち上がってテント内を見渡す。
ルミナが居ない。夜、最後にした会話を覚えているため、テントにいないはずがないと思っていたタウリーは、異常なまでに焦り始めた。
「いない……!何処にいったの?」
テントの外に出る。焚き火が消えていたので、そこで寝てしまったわけではないようだ。もちろん、その焚き火跡の近くにも居なかった。
「どうしたのですか?」
「あ……ルミナ……!」
「おはようございます。少し廃墟群の方まで歩いていたので——」
タッタッタッタッ
ギュ。
駆け足でルミナに駆け寄っていったタウリーは、勢いを殺すことなくルミナに抱き付く。ルミナは、どう反応すれば良いか分からず、ただ無表情でタウリーを見ていた。
タウリーは小さく、小さく泣いていた。
◎◎◎
「落ち着きましたか?」
「……うん」
とりあえず泣き止むまで、ルミナはタウリーを待っていた。撫でたり抱き返したりすることなくただ待っていただけではあるが。
その間、タウリーは本当に小さく泣いていた。しかし、ルミナを離すことなく泣きやんでも暫く離さないでいた。
二人の足元でホープは静かにぐるぐるしていた。
「とりあえず、向こうの焚き火跡まで戻りましょう。座った方が良いです」
「……うん」
先にルミナが動き出し、その後をタウリーが歩いていく。ホープは二人が縦で並んで歩いている横を歩いていく。
大きめな石に座り、ルミナとタウリーは黙っていた。ルミナはどうすることもせず、タウリーが話し始めることを待っていた。
しばらく沈黙が走る。二人の息遣いと、一匹の周りを回る足音だけが聴こえてくる。
やがて、タウリーが口を開く。
「……ねえ、ルミナは、さ。……誰かが急に居なくなったってこと、ある?」
「……すみません、覚えてないです」
「だよね……」
またも沈黙が走る。
しかし、タウリーがまた口を開く。
「僕はさ、集落にいた頃は大人たちに囲まれて育ったんだ。でも……本当の親は居なかった」
「……」
「みんな、どこかやっぱり他人事で。結局は他人の子供なんだって、そう思ったんだ。だから、その……ルミナを見つけて、何も覚えてないって聞いた時、なんだか仲間を見つけたみたいで、少し嬉しかったんだ。だからルミナが居なくなっちゃったと思って……なんか、すごい、悲しくて……」
「タウリー……」
「ホープも、いるんだけど……それとは違うって言うか……もちろん、ホープが居なくなっちゃっても悲しいんだけど……」
「タウリー」
タウリーが言葉にしきれない感情を吐露すると、それを聞いたルミナが手を大きく広げて固まっていた。
それを見てタウリーも固まる。ルミナが何をしたいのか、全く分からない様子だった。
「何してるの?」
「……分かりません。ですが、何故かすごく、タウリーを抱きしめたくなりました……何故でしょう?」
「……」
「私にはどうも分からなくて……タウリーは何か知って——」
ルミナが何も分からないでそのまま手を広げて固まっていると、タウリーはルミナの懐にゆっくりと入り、ルミナは自分の感情も分からないまま、タウリーを抱きしめた。
すると、タウリーもゆっくり優しくルミナを抱き返しながら、目を閉じ、温もりを感じていた。
「ルミナ、もう大丈夫だよ」
「……そう、ですか?」
「うん、もう大丈夫」
そうタウリーが言うと、ゆっくりとルミナはタウリーを離す。タウリーもルミナから離れて、少し落ち着いた顔をしながらルミナを見た。
「ルミナ、どうして抱きしめたくなったの?」
「……タウリーとは、まだ会ったばかりで、お互いをよく知っているわけでは無いのですが……タウリーが私を、仲間って思ってくれていて。私を必要としてくれて、でもそれで苦しんで。それを見て何故か、私の胸がキュって締まったんです。そしたら、タウリーを抱きしめたくなったのです」
「……ルミナのそれは、"同情"とか、"慈しみ"ってやつだよ。……ルミナは自分では感情がよく分からない、分かりたいって言ってたけど、きっとルミナにはもうあるんだと思う。だから、きっとルミナはいつか、人間になれるよ。僕が保証する。だから……きっと、大丈夫だよ」
「……そうだと、良いのですが」
「うん……それと、僕と約束して。僕たちは、どんな時も仲間だ。離れていても、忘れないで」
「……?分かりました。忘れません」
「うん……はあ~!!ん、なんかスッキリしたー——あ!!ホープ寝ちゃってる……」
「少し、長すぎましたか」
「……きっと、必要な時間だったから。ホープが寝るのも、ね」
「……?」
そういうとタウリーは、テントを片付けるために、テントへと向かって歩いていた。その足取りは、何か憑き物が取れたかのように軽やかだった。
ルミナはタウリーが言った言葉の意味がよく分からず立ち尽くしていたが、言葉の意味を考えるために座り直す。
終始ホープは、朝の心地よい風の中、ゆっくり寝息を立てて寝ていただけだった。
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