19 / 44
二章
3
しおりを挟む
3
「ん、う~ん……」
「あ、お疲れ様でーす。上手くいったようで、良かったですよ~」
ソファから上半身を起こし、何度目かの光景を見てようやく、自身が過去改変から戻ってきたことを実感する。覗き込むウミカの手には、過去改変へ行く前にも持っていた筆が握られていた。ウミカの背後にあるキャンバスには、先ほどとはうって変わって別の絵が描かれている。
「今回は前より長かったですね~。どうでした?彼女とのイチャイチャタイムは?」
「茶化すな。……そりゃあ、良かったけど」
「ぷふーっ!青人が素直にそうやって言ってると、なんだか気持ち悪ーいですねぇ!」
そう言って頬を膨らませ笑いを堪えている様子のウミカ。相変わらず、右拳で殴り飛ばしたくなるような表情だ。いつか本気で殴ってやろう……。大きくため息をついてから、ウミカに問いかける。
「そんなことはどうでも良いんだが……それにしても、どうして今回はあの黒点が出る時間が分かったんだ?前に分からないって言ってただろ?」
するとウミカは、あーあれですねっ!と言ってから、またまた無い胸を思いっきり突き出し、自信満々に説明し出した。
「ふっふっふ……それがですねぇ~、前回青人が過去改変を行った後!改めて自身の能力について考えてみた訳ですよー。そしたらなんと……!」
「……なんと?」
「ここから先は広告をご覧になってから――いったあ!?」
もったいぶったので手刀をかます。割と強めにやったので、ウミカはそれを受けて涙目でこちらを軽く睨んだ。
「なんですかいきなりっ!?だいたいこういうのは広告見た先にあるじゃないですかー!?」
「くだらねぇこと言ってねぇで、早く続き話せ。ここに居られるのも時間制限があんだから」
「うぅ~……分かりましたよ!……自身の能力というかキーホルダーなんですけど、これをどれだけ奥に刺すかによって、時間の長さが変わるみたいです。これは自分に刺して試したので、多分合ってますよ」
「それ、自分で刺せるのか……?」
「もちろんですともっ!ただまあ……私は特に変えたい過去もないので、てきとぉ~な場所に行くだけですけどね~」
自分でも刺せることもそうだが、なによりウミカ自身も過去改変へと行けることに何より驚いた。
「そういうことは先に言っといてくれよな……」
「いやぁ~なんだか今回は前回よりもガンギマリレベルでキマッてそうだったので……」
そんなに表情硬かったのか……。それにしても、気を遣うなんて言葉を知らなさそうなウミカがそう思うとは。ただ陽気で失礼なだけのやつだと思っていたが、俺もウミカへの評価を変えなくちゃな。
「……そうだったか。いや、なんか気を遣わせて悪かったな」
「ホントですよっ!この私に、青人ごときが気を遣わせないでくださいよっ、全く……」
……前言撤回。今にもこめかみの血管が切れそうな思いである。もう一回手刀かましてやろうかなコイツ……。
「そろそろ時間切れですね……それじゃ、また何かあったら来てくださいね~。あと、夜以外で浴槽に飛び込んでもここに来れないですからね~」
「知ってたのかよ……行けるか試したまでだ。今度からはやらないよ、じゃあな」
消えゆく俺の身体に向かって、はーいと言いながら馬鹿にしたような笑顔で手を振るウミカにため息をつき、瞼を閉じる。
開けばすでにあの部屋ではなく、浴槽内で座り込んでいた。……きちんと、過去改変は上手くいったのだろうか。確認しようとスマホを見ようとしたが、やはりどうにも眠く、睡魔に誘われるまま廊下にて朝まで眠ってしまった。
***
物音がして目覚める。部屋の中からではなく、恐らく隣人が玄関扉を閉めた音だろう。玄関扉の上にある優しい陽光が廊下と自身の身体を照らす。
立ち上がって、自室の時計を確認しにいく。九時十五分――四月二十六日の、九時十六分だ。遮光カーテンを開けると窓には、薄曇りのなか地上を優しく照らし出す陽光に、晩春の山々が青々と映されている。
しばらくボーッとしていたが、昨日の出来事を思い出し、咄嗟にスマホと今まで描いていた絵を確認するため、スマホの電源を入れている間に画用紙を取り出し確認する。
……?
――あれ、なんの絵を描いていたんだっけ?思い出そうとしても、何か積み上げてきたものが欠落していて、とてもじゃないが思い出せない。
スマホの電源が点き、彼女からメッセージや何かしらの反応が来ていないか確認する。そう、海夏である。しかし何の連絡もないようだ。果たしてきちんと過去改変は起こったのだろうか……?
「……俺は何を、描いてたんだっけ」
確かウミカがベースの、それらしい絵を描いていたはず……駄目だ、どうにも思い出せない。それに画用紙には海夏の絵が描かれている。彼女の精神的形状と、その周りに取り巻く俺の作品群。今までに見たことのない、描いた記憶すらない絵が、そこにはあった。
一体俺は、何を失って海夏との関係を改変したのだろう……?きっとそれは大切な、それこそウミカという俺の……なにかを表したものだったような――
ピコン。
考えている最中、不意にスマホの通知が鳴る。通知欄に表示された名前と一文を見て、すぐにメッセージアプリを開く。するとそこには、長らく俺が待ち望んでいた結果とも言える人物からの、唐突なメッセージが。
《ねぇ!ゴールデンウィークの最初に、海行かない!?》
突然の海夏からのメッセージに、喜びと共に疑問と、海夏が追加で送ってきた場所の情報に何故か、少しの恐怖を覚えた。
「ん、う~ん……」
「あ、お疲れ様でーす。上手くいったようで、良かったですよ~」
ソファから上半身を起こし、何度目かの光景を見てようやく、自身が過去改変から戻ってきたことを実感する。覗き込むウミカの手には、過去改変へ行く前にも持っていた筆が握られていた。ウミカの背後にあるキャンバスには、先ほどとはうって変わって別の絵が描かれている。
「今回は前より長かったですね~。どうでした?彼女とのイチャイチャタイムは?」
「茶化すな。……そりゃあ、良かったけど」
「ぷふーっ!青人が素直にそうやって言ってると、なんだか気持ち悪ーいですねぇ!」
そう言って頬を膨らませ笑いを堪えている様子のウミカ。相変わらず、右拳で殴り飛ばしたくなるような表情だ。いつか本気で殴ってやろう……。大きくため息をついてから、ウミカに問いかける。
「そんなことはどうでも良いんだが……それにしても、どうして今回はあの黒点が出る時間が分かったんだ?前に分からないって言ってただろ?」
するとウミカは、あーあれですねっ!と言ってから、またまた無い胸を思いっきり突き出し、自信満々に説明し出した。
「ふっふっふ……それがですねぇ~、前回青人が過去改変を行った後!改めて自身の能力について考えてみた訳ですよー。そしたらなんと……!」
「……なんと?」
「ここから先は広告をご覧になってから――いったあ!?」
もったいぶったので手刀をかます。割と強めにやったので、ウミカはそれを受けて涙目でこちらを軽く睨んだ。
「なんですかいきなりっ!?だいたいこういうのは広告見た先にあるじゃないですかー!?」
「くだらねぇこと言ってねぇで、早く続き話せ。ここに居られるのも時間制限があんだから」
「うぅ~……分かりましたよ!……自身の能力というかキーホルダーなんですけど、これをどれだけ奥に刺すかによって、時間の長さが変わるみたいです。これは自分に刺して試したので、多分合ってますよ」
「それ、自分で刺せるのか……?」
「もちろんですともっ!ただまあ……私は特に変えたい過去もないので、てきとぉ~な場所に行くだけですけどね~」
自分でも刺せることもそうだが、なによりウミカ自身も過去改変へと行けることに何より驚いた。
「そういうことは先に言っといてくれよな……」
「いやぁ~なんだか今回は前回よりもガンギマリレベルでキマッてそうだったので……」
そんなに表情硬かったのか……。それにしても、気を遣うなんて言葉を知らなさそうなウミカがそう思うとは。ただ陽気で失礼なだけのやつだと思っていたが、俺もウミカへの評価を変えなくちゃな。
「……そうだったか。いや、なんか気を遣わせて悪かったな」
「ホントですよっ!この私に、青人ごときが気を遣わせないでくださいよっ、全く……」
……前言撤回。今にもこめかみの血管が切れそうな思いである。もう一回手刀かましてやろうかなコイツ……。
「そろそろ時間切れですね……それじゃ、また何かあったら来てくださいね~。あと、夜以外で浴槽に飛び込んでもここに来れないですからね~」
「知ってたのかよ……行けるか試したまでだ。今度からはやらないよ、じゃあな」
消えゆく俺の身体に向かって、はーいと言いながら馬鹿にしたような笑顔で手を振るウミカにため息をつき、瞼を閉じる。
開けばすでにあの部屋ではなく、浴槽内で座り込んでいた。……きちんと、過去改変は上手くいったのだろうか。確認しようとスマホを見ようとしたが、やはりどうにも眠く、睡魔に誘われるまま廊下にて朝まで眠ってしまった。
***
物音がして目覚める。部屋の中からではなく、恐らく隣人が玄関扉を閉めた音だろう。玄関扉の上にある優しい陽光が廊下と自身の身体を照らす。
立ち上がって、自室の時計を確認しにいく。九時十五分――四月二十六日の、九時十六分だ。遮光カーテンを開けると窓には、薄曇りのなか地上を優しく照らし出す陽光に、晩春の山々が青々と映されている。
しばらくボーッとしていたが、昨日の出来事を思い出し、咄嗟にスマホと今まで描いていた絵を確認するため、スマホの電源を入れている間に画用紙を取り出し確認する。
……?
――あれ、なんの絵を描いていたんだっけ?思い出そうとしても、何か積み上げてきたものが欠落していて、とてもじゃないが思い出せない。
スマホの電源が点き、彼女からメッセージや何かしらの反応が来ていないか確認する。そう、海夏である。しかし何の連絡もないようだ。果たしてきちんと過去改変は起こったのだろうか……?
「……俺は何を、描いてたんだっけ」
確かウミカがベースの、それらしい絵を描いていたはず……駄目だ、どうにも思い出せない。それに画用紙には海夏の絵が描かれている。彼女の精神的形状と、その周りに取り巻く俺の作品群。今までに見たことのない、描いた記憶すらない絵が、そこにはあった。
一体俺は、何を失って海夏との関係を改変したのだろう……?きっとそれは大切な、それこそウミカという俺の……なにかを表したものだったような――
ピコン。
考えている最中、不意にスマホの通知が鳴る。通知欄に表示された名前と一文を見て、すぐにメッセージアプリを開く。するとそこには、長らく俺が待ち望んでいた結果とも言える人物からの、唐突なメッセージが。
《ねぇ!ゴールデンウィークの最初に、海行かない!?》
突然の海夏からのメッセージに、喜びと共に疑問と、海夏が追加で送ってきた場所の情報に何故か、少しの恐怖を覚えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる