15 / 44
一章
14
しおりを挟む
14
時刻は二十二時半。あと一時間ちょっとで二十五日となる。ここ最近は一日が長く感じる。原因はもちろん、ウミカと過去改変によるものだろう。
夜食の残骸となったカラの容器を捨て、もう一度椅子に深く座る。……そういえば、小物類の絵を描いてなかったな。そう思い、新しく紙と色鉛筆を取り出して左の前腕に油性マジックペンで描かれた小物類を参考に、新しくパーツを描き始めた。
ウミカの使っていたスマホは空色のスマホケースに包まれた、ごく一般的なものだった。次に貝殻。形の特徴からネットで調べてみると、どうやら『ウラシマガイ』と呼ばれる種類のようだ。房総半島以南の海に棲息しているらしい。丸く艶やかな形が実に綺麗である。
そしてキーホルダー。黄色い魚がデザインされた――少し古いのか、色が褪せてきているような見た目だった。でも不思議だ、どうしてこれを胸に差し込むことで過去へと飛べるのだろう……。
――とりあえず今日はここまでにしよう。そう思い、パジャマに着替えて歯を磨き、電気を消す。
ベットに入ってからもウミカやあの世界のことを考えていたが、明確な答えや予測が立つわけもなく、知らぬ間に寝息を立てて眠っていた。
***
目覚ましの金属音によって朝を迎える。無理矢理ハンマー部分を止め、寝ぼけざまにスイッチも切る。時刻は六時過ぎ。四月二十五日の朝、土曜日である。
思い切り伸びをして遮光カーテンを開ける。窓には少し水滴がついており、窓には雲の切れ目から差し込む朝日が燦々とこちらを照らす景色が切り取られている。山々の湿気を感じ、喉が渇いていることに気づいて、うがいをしつつ水を体内に流し込んだ。
昨日の夜ついでに買っておいた朝食用のパンをレンジで温め、手を合わせていただく。……うん、美味しい。
ぺろりと平らげもう一度水を飲み、再び大きく伸びをして椅子に座った。――今日は用事もないし、どうしたものか……。
普段なら一日中家で絵を描きながらゲームをしたり動画を見たりするのがセオリーだ。もしくは虹輝と一緒に絵を描く。でも後者は今日じゃない。なんとなくだが。
つい腕組みをし、簡単に悩んでみる。……やっぱり今日は一日中、家でのんびりしよう。うん、そうしよう。
結局机にある画用紙と色鉛筆を広げ、昨日描いた新パーツである小物類を足すと同時に、昨日のウミカとあの部屋を思い出しながら絵を確実なものにしていくことにした。……それにしても、この絵だけを描いてもう半年以上経つのか。普段なら長くて一ヶ月、短ければ数時間で描き上げてしまうところを、この絵には随分と時間をかけているな……。
でも、それだけこの絵は今までとは何か違う。この絵だけは何年かかっても、必ずモノにする。どこかでそう固く誓っているのだ。
***
「ふぅ~……」
しばらく集中して描いていると、気づけば昼前となっていた。時間が経つのは早い。
切りの良い場所で手の動きを止め、画用紙と色鉛筆を片付ける。――息抜きに何かしよう。そう思っていると、ふと海夏のことを考える。
……未だ過去改変やウミカのことは詳しくは分かっていない。でもやはり、海夏との過去を変えて、あの関係をもう一度取り戻したい。あまり良いことではないことを自覚しつつ、しかしチャンスがあるのならば使わない手はない、という感情が湧き、海夏の過去改変を考える。
戻るとすれば、一年の十一月中旬のあの日。絵のことを言われ、俺が拒絶したあの場面。……でも、虹輝の時とは違う。虹輝の時はだいぶ絵が描けてきていた時に言われたことで、その意見に憤慨した。今思い返せば、あの時の絵は確実に気持ち悪かったため、虹輝に賛同出来たが。
でも今回は下書き時点で言われた。きっと意見を聞くことは出来るが、『描くことを止める』ということはできない。ここをどう切り抜けるかが、今回の鍵になりそうだ……。
部屋をうろうろしながら考える。考える、かんがえる。
どうすれば良いか。
彼女に見せないためには。
……絵を、なくす。
……いや、この手段はダメだし、もし上手くいっても相応の――でも待てよ……?虹輝との過去改変前の記憶が、俺にはある。ということは、もしあの時の絵を捨ててしまっても、今の絵の記憶は無くならないのでは……?
「……そうかっ!」
だったら過去で捨てても構わないはずだ!思わずガッツポーズをする。――このことに気づいていれば、もっと早く過去を変えられたのに……!俺は自分の考えのなさに少しガッカリしたが、今気づけた自分を褒めてやりたい気分にもなった。
なら一刻も早くウミカのところへ……!そうして急いで浴槽にお湯を溜め始め、少しするたびに湯船の溜まり具合をチラチラと確認するという落ち着きのなさで、ちょうど良い深さまで溜まるのを待った。
いざお湯が溜まり、パジャマのまま湯船に突っ込む。ぶくぶくぶく……
ぶくぶくぶく………
ぶくぶく……
ぶく…
…
「ぷっはあぁ!!!……はあ、はぁ……これ、もしかしなくても、夜だけなの?」
それからいくら潜っても『深層心理の投影』であるあの世界とウミカのもとへと行くことは出来ず、ただ水を吸ったパジャマの不快感と、どこからかウミカが嘲笑っているような幻聴が聴こえてくる不快感――その両方に何かが切れて、つい風呂場で咆哮を上げた。
……実に、恥ずかしい瞬間であった。
時刻は二十二時半。あと一時間ちょっとで二十五日となる。ここ最近は一日が長く感じる。原因はもちろん、ウミカと過去改変によるものだろう。
夜食の残骸となったカラの容器を捨て、もう一度椅子に深く座る。……そういえば、小物類の絵を描いてなかったな。そう思い、新しく紙と色鉛筆を取り出して左の前腕に油性マジックペンで描かれた小物類を参考に、新しくパーツを描き始めた。
ウミカの使っていたスマホは空色のスマホケースに包まれた、ごく一般的なものだった。次に貝殻。形の特徴からネットで調べてみると、どうやら『ウラシマガイ』と呼ばれる種類のようだ。房総半島以南の海に棲息しているらしい。丸く艶やかな形が実に綺麗である。
そしてキーホルダー。黄色い魚がデザインされた――少し古いのか、色が褪せてきているような見た目だった。でも不思議だ、どうしてこれを胸に差し込むことで過去へと飛べるのだろう……。
――とりあえず今日はここまでにしよう。そう思い、パジャマに着替えて歯を磨き、電気を消す。
ベットに入ってからもウミカやあの世界のことを考えていたが、明確な答えや予測が立つわけもなく、知らぬ間に寝息を立てて眠っていた。
***
目覚ましの金属音によって朝を迎える。無理矢理ハンマー部分を止め、寝ぼけざまにスイッチも切る。時刻は六時過ぎ。四月二十五日の朝、土曜日である。
思い切り伸びをして遮光カーテンを開ける。窓には少し水滴がついており、窓には雲の切れ目から差し込む朝日が燦々とこちらを照らす景色が切り取られている。山々の湿気を感じ、喉が渇いていることに気づいて、うがいをしつつ水を体内に流し込んだ。
昨日の夜ついでに買っておいた朝食用のパンをレンジで温め、手を合わせていただく。……うん、美味しい。
ぺろりと平らげもう一度水を飲み、再び大きく伸びをして椅子に座った。――今日は用事もないし、どうしたものか……。
普段なら一日中家で絵を描きながらゲームをしたり動画を見たりするのがセオリーだ。もしくは虹輝と一緒に絵を描く。でも後者は今日じゃない。なんとなくだが。
つい腕組みをし、簡単に悩んでみる。……やっぱり今日は一日中、家でのんびりしよう。うん、そうしよう。
結局机にある画用紙と色鉛筆を広げ、昨日描いた新パーツである小物類を足すと同時に、昨日のウミカとあの部屋を思い出しながら絵を確実なものにしていくことにした。……それにしても、この絵だけを描いてもう半年以上経つのか。普段なら長くて一ヶ月、短ければ数時間で描き上げてしまうところを、この絵には随分と時間をかけているな……。
でも、それだけこの絵は今までとは何か違う。この絵だけは何年かかっても、必ずモノにする。どこかでそう固く誓っているのだ。
***
「ふぅ~……」
しばらく集中して描いていると、気づけば昼前となっていた。時間が経つのは早い。
切りの良い場所で手の動きを止め、画用紙と色鉛筆を片付ける。――息抜きに何かしよう。そう思っていると、ふと海夏のことを考える。
……未だ過去改変やウミカのことは詳しくは分かっていない。でもやはり、海夏との過去を変えて、あの関係をもう一度取り戻したい。あまり良いことではないことを自覚しつつ、しかしチャンスがあるのならば使わない手はない、という感情が湧き、海夏の過去改変を考える。
戻るとすれば、一年の十一月中旬のあの日。絵のことを言われ、俺が拒絶したあの場面。……でも、虹輝の時とは違う。虹輝の時はだいぶ絵が描けてきていた時に言われたことで、その意見に憤慨した。今思い返せば、あの時の絵は確実に気持ち悪かったため、虹輝に賛同出来たが。
でも今回は下書き時点で言われた。きっと意見を聞くことは出来るが、『描くことを止める』ということはできない。ここをどう切り抜けるかが、今回の鍵になりそうだ……。
部屋をうろうろしながら考える。考える、かんがえる。
どうすれば良いか。
彼女に見せないためには。
……絵を、なくす。
……いや、この手段はダメだし、もし上手くいっても相応の――でも待てよ……?虹輝との過去改変前の記憶が、俺にはある。ということは、もしあの時の絵を捨ててしまっても、今の絵の記憶は無くならないのでは……?
「……そうかっ!」
だったら過去で捨てても構わないはずだ!思わずガッツポーズをする。――このことに気づいていれば、もっと早く過去を変えられたのに……!俺は自分の考えのなさに少しガッカリしたが、今気づけた自分を褒めてやりたい気分にもなった。
なら一刻も早くウミカのところへ……!そうして急いで浴槽にお湯を溜め始め、少しするたびに湯船の溜まり具合をチラチラと確認するという落ち着きのなさで、ちょうど良い深さまで溜まるのを待った。
いざお湯が溜まり、パジャマのまま湯船に突っ込む。ぶくぶくぶく……
ぶくぶくぶく………
ぶくぶく……
ぶく…
…
「ぷっはあぁ!!!……はあ、はぁ……これ、もしかしなくても、夜だけなの?」
それからいくら潜っても『深層心理の投影』であるあの世界とウミカのもとへと行くことは出来ず、ただ水を吸ったパジャマの不快感と、どこからかウミカが嘲笑っているような幻聴が聴こえてくる不快感――その両方に何かが切れて、つい風呂場で咆哮を上げた。
……実に、恥ずかしい瞬間であった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる