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一章
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テーブルに置かれた小物たち。先ほどイジっていたスマホに、綺麗な貝殻。それと過去へと行く時にウミカが俺の胸に突き刺した、あの不思議なキーホルダー。キーホルダーは黄色の魚の形を模している。
「それにしても……これと絵になんの関係が?」
「ちょっと行き詰まっててな……紙がないから、肌に描いちゃうか」
そう言ってウミカから油性のマジックペンを貸してもらい、特徴を捉えつつ簡単に左の前腕へと描いてゆく。
それを終えて、次にウミカをじっくりと観察する。徐々に近づき、その瞳の特性、髪の濃淡、肌質、大まかな体型――ここまで見ていると、ウミカはこちらを怪訝そう、というより怒った感じでこちらの鼓膜を大きく揺らす。
「ちょっと青人っ!なんですかいきなり人の身体をジロジロとっ!!」
「あぁごめん。言ってなかったわ。ウミカを観察するな~」
「ちょ……なんですかその軽さ!?まだ了承してないですけど!?」
「え、だって俺の『深層心理の投影』だろ?だったら実質俺だろ。なら許可もなにもいらんだろ」
――ぐぬぬ、そうですけど……。とだけ言って、観念したのかソファに座り直し、どこか緊張した面持ちでこちらをジッと見る。それになんだか可愛さを覚え、つい頬が緩む。しかしここに居られるのも限られている。さっさと観察しなければ。
そう言い聞かせ、集中し直す。昔から目と記憶力だけは良かった俺は、こうして絵を描くときの参考になる対象をじっくり見て記憶することで、実際に絵を描くときにありありと再現、または脚色出来るのだ。
ウミカの顔、ない胸、腕や脚の引き締まり感。そして全体としての印象と細部の写実性。よく見る。よく、見る。
「あ~……もうっ!いい加減にしてください!十分見ましたよねっ!?」
「ん~……もうちょっとで」
「もうなんでこんなやつがあ――!!」
……そうして観察が終わる頃には、ウミカがこちらをまるでゴミを見るような目で覗くようになっていた。――そこまで変なことでもないだろ。
「まったく……他の人にこんなことしたら、絶交ですよっ!ぜっこうっ!!」
「はいはい、ごめんて……でもお陰で助かったよ、ありがとう」
「……ま、分かればいいんです。……それで、他になにか観察とかするんですか?」
俺は首を縦にふり、床から立ち上がって部屋を隅々を観察し始める。ウミカはジロ~っとこちらを見るだけで、特に何も言ってこない。――部屋を見るのは別にいいんだな。
白い壁紙と焦茶色の床。天井と壁の間に焦茶色のラインが入っており、マンションの一室というより一軒家のリビングとダイニング、という感じだ。リビングに白いソファ、テーブル、そして点かないテレビ。……あれ、ドアがない?
おかしい。最初ここに来た時、この一室をウロウロしてここにあったドアを開けようとしたはずだ。結局開かなかったあのドアが……ない。どうも気になり、ウミカに聞く。
「ウミカ。ここにあったドアはどうした?確か焦茶色のドアがあったはずなんだが……」
「……確かにどこか行っちゃいましたね?あれ、どこいったんだろ……?」
――なんでこいつも知らねえんだよ……。ウミカはう~ん、と顎に手を当てて悩み始めた。その様子がどこかバカっぽく、ついため息が出る。
それにしても、いくらここが現実世界ではないと言ってもこの部屋と同一的存在であるウミカが、ドアの行方を知らないなんてことがあるだろうか。
……まさか、過去改変の影響か?過去を変えたことで俺の『深層心理の投影』が姿を変えたのかもしれない。……今のところ、そう考えるか思考を放棄するか、どちらかだな。
そう割り切って、他の部分も観察する。カウンターでダイニングと切り分けられたキッチン。そこにある家電や調味料。まるで今まで家族が住んでいたかのような雰囲気。ウミカだけではない誰かが居たと思わせる様相。その横にある引き戸と、その奥にある脱衣所。三面鏡に姿が映る。今まで確認しなかったが、この世界でも俺はオレの姿そのものだ。そのことにやけに安心感を覚える。
一回り部屋を見て、ソファに座る。その様子をずっと見ていたウミカは、呆れた様子で時間切れを告げてきた。
「もう時間切れか……前より早くなったか?」
「さあ、私はその辺よく分かってませんし……とりあえず、また過去を変えたくなったら来てくださいね!待ってますよ~」
「おう、今日はありがとう」
そう言ってソファにゆったりと座りながら、意識が現実世界へと飛ぶのを待つ。するとウミカが何かを思い出したかのように、こちらに向き直って言った。
「良い絵、描けると良いですね」
返事をする間もなく、視界は俺の家のバスルームへと飛んでいた。……なんだかんだ応援してくれるのか、ウミカ。
生ぬるい感覚の湯船から身を乗り出し、衣服から重力にしたがって落ちる水滴を眺める。何度やっても慣れない着衣での風呂。……とっとと脱いできちんとシャワーを浴びよう。
そう思いすぐに服を脱いで、シャワーを浴び、身体を清める。ついでに色々と感じてしまった疑問や疑念も、流しておこう。気持ち良く寝るには邪魔だからな!
テーブルに置かれた小物たち。先ほどイジっていたスマホに、綺麗な貝殻。それと過去へと行く時にウミカが俺の胸に突き刺した、あの不思議なキーホルダー。キーホルダーは黄色の魚の形を模している。
「それにしても……これと絵になんの関係が?」
「ちょっと行き詰まっててな……紙がないから、肌に描いちゃうか」
そう言ってウミカから油性のマジックペンを貸してもらい、特徴を捉えつつ簡単に左の前腕へと描いてゆく。
それを終えて、次にウミカをじっくりと観察する。徐々に近づき、その瞳の特性、髪の濃淡、肌質、大まかな体型――ここまで見ていると、ウミカはこちらを怪訝そう、というより怒った感じでこちらの鼓膜を大きく揺らす。
「ちょっと青人っ!なんですかいきなり人の身体をジロジロとっ!!」
「あぁごめん。言ってなかったわ。ウミカを観察するな~」
「ちょ……なんですかその軽さ!?まだ了承してないですけど!?」
「え、だって俺の『深層心理の投影』だろ?だったら実質俺だろ。なら許可もなにもいらんだろ」
――ぐぬぬ、そうですけど……。とだけ言って、観念したのかソファに座り直し、どこか緊張した面持ちでこちらをジッと見る。それになんだか可愛さを覚え、つい頬が緩む。しかしここに居られるのも限られている。さっさと観察しなければ。
そう言い聞かせ、集中し直す。昔から目と記憶力だけは良かった俺は、こうして絵を描くときの参考になる対象をじっくり見て記憶することで、実際に絵を描くときにありありと再現、または脚色出来るのだ。
ウミカの顔、ない胸、腕や脚の引き締まり感。そして全体としての印象と細部の写実性。よく見る。よく、見る。
「あ~……もうっ!いい加減にしてください!十分見ましたよねっ!?」
「ん~……もうちょっとで」
「もうなんでこんなやつがあ――!!」
……そうして観察が終わる頃には、ウミカがこちらをまるでゴミを見るような目で覗くようになっていた。――そこまで変なことでもないだろ。
「まったく……他の人にこんなことしたら、絶交ですよっ!ぜっこうっ!!」
「はいはい、ごめんて……でもお陰で助かったよ、ありがとう」
「……ま、分かればいいんです。……それで、他になにか観察とかするんですか?」
俺は首を縦にふり、床から立ち上がって部屋を隅々を観察し始める。ウミカはジロ~っとこちらを見るだけで、特に何も言ってこない。――部屋を見るのは別にいいんだな。
白い壁紙と焦茶色の床。天井と壁の間に焦茶色のラインが入っており、マンションの一室というより一軒家のリビングとダイニング、という感じだ。リビングに白いソファ、テーブル、そして点かないテレビ。……あれ、ドアがない?
おかしい。最初ここに来た時、この一室をウロウロしてここにあったドアを開けようとしたはずだ。結局開かなかったあのドアが……ない。どうも気になり、ウミカに聞く。
「ウミカ。ここにあったドアはどうした?確か焦茶色のドアがあったはずなんだが……」
「……確かにどこか行っちゃいましたね?あれ、どこいったんだろ……?」
――なんでこいつも知らねえんだよ……。ウミカはう~ん、と顎に手を当てて悩み始めた。その様子がどこかバカっぽく、ついため息が出る。
それにしても、いくらここが現実世界ではないと言ってもこの部屋と同一的存在であるウミカが、ドアの行方を知らないなんてことがあるだろうか。
……まさか、過去改変の影響か?過去を変えたことで俺の『深層心理の投影』が姿を変えたのかもしれない。……今のところ、そう考えるか思考を放棄するか、どちらかだな。
そう割り切って、他の部分も観察する。カウンターでダイニングと切り分けられたキッチン。そこにある家電や調味料。まるで今まで家族が住んでいたかのような雰囲気。ウミカだけではない誰かが居たと思わせる様相。その横にある引き戸と、その奥にある脱衣所。三面鏡に姿が映る。今まで確認しなかったが、この世界でも俺はオレの姿そのものだ。そのことにやけに安心感を覚える。
一回り部屋を見て、ソファに座る。その様子をずっと見ていたウミカは、呆れた様子で時間切れを告げてきた。
「もう時間切れか……前より早くなったか?」
「さあ、私はその辺よく分かってませんし……とりあえず、また過去を変えたくなったら来てくださいね!待ってますよ~」
「おう、今日はありがとう」
そう言ってソファにゆったりと座りながら、意識が現実世界へと飛ぶのを待つ。するとウミカが何かを思い出したかのように、こちらに向き直って言った。
「良い絵、描けると良いですね」
返事をする間もなく、視界は俺の家のバスルームへと飛んでいた。……なんだかんだ応援してくれるのか、ウミカ。
生ぬるい感覚の湯船から身を乗り出し、衣服から重力にしたがって落ちる水滴を眺める。何度やっても慣れない着衣での風呂。……とっとと脱いできちんとシャワーを浴びよう。
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