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第三章 血族と信仰

すぐそこに深淵

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 学校に着き昇降口の下駄箱に靴を入れる。上履きを履いていると、人が多く行き交う中から聞き覚えのある声で俺を呼んでいる生徒がいた。



「幸助!おい幸助っ、待てよ」

「…朝からなんだよ、両津」



 大声で俺を呼んでいたのは、両津 信也りょうつ しんや。俺が以前イジメに遭っていた時も何故か、同じように声を掛けてきた。

友達でもなく幼なじみというわけでもない。ましてや知り合いでもなかった俺に何故声を掛けてくるのか不思議でならなかった。

最初の頃はこちらが一方的に沈黙を貫いていたが、むしろ無視し続けることの方が面倒くさいと思い、声掛けに応じるようにした。

 最初に声掛けに応じた時に何故声を掛けて来るのかを聞いてみたら、声掛けに応じたことが嬉しかったのか、興奮した様子で答えた。"声掛けたら楽しそうだと思った"、と。

 おかしな奴、だと思いながらも少し嬉しかったことを今でも憶えている。



「いつもぼっちで歩いてるから、分かりやすくて助かるぜ~」

「ぼっちは余計だ」

「にしても…今日も避けられてるね~お前。よく学校来れるな」

「…慣れたもんだよ。元々こんなもんだった」

「ま、今は俺がいるからぼっちじゃないな!」

「…ぼっちの方がマシだった」

「よし、じゃまた帰り会おうな~!」

「……。」



 そう言うと両津は、俺とは反対側にある教室の方へとスポーツ刈りの短い黒髪を揺らしながら走っていった。



「…俺も、行かないと」



 俺も自分の教室に向かって、歩き出す。







       ◎◎◎







 授業が終わり、すぐに帰る支度をする。この教室は居心地が悪く、息がしづらい。

階段を降り昇降口に向かう。すると、後ろから朝も聴いた声が聴こえてきた。



「待てよ、幸助。一緒に帰ろうぜ」

「…俺とお前、道逆だろ」

「校門まで一緒に帰ろうぜ~」

「それ帰るって言わないぞ」



 靴を履きながらそう言う。両津は少しだけ嬉しそうな顔をしながら、俺の後ろで靴を履く。

それを確認して意図せず横に並ぶ。歩きながら特に会話をするでもなく校門に近づく。てっきり両津の方から話をしだすと思っていたので、少し戸惑っている俺がいた。

 そのまま何も話すことなく、俺たちは別れ道へと辿り着く。両津はこちらを向いて言った。



「またな、幸助」

「…おう」



 あいつが何をしたかったのかは分からない。元々謎の多いやつではあったが、口数が少ないわけでもない。

会った時は必ず向こうから話しかけてくるのに、何故今日に限って話をしなかったのか。何かイヤな予感がする。

ただ、俺はあいつの家を知らない。それに予感だけでわざわざ出向く必要もないだろう。

 色々考えたが、そのまま真っ直ぐ帰ることにした。





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