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第二章 女神と信者

聴こえぬ君に

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 「君のおかげで、全てのペンダントが揃ったよ。ありがとう!」

 「さあ、出口への手掛かりを彼女に言うんだ」

 「ああ…そうだったね。ねぇ君、今までに見た記憶の欠片を知ったとしても、君はあの世界に帰りたいかい?」

 観測者は尋ねる。このまま彼女が帰ると口にすれば、彼女は現実へ帰ることが出来る。

 彼女の顔は暗い。ずっと下を向いていた。やはり、今までのことが心にきているのか。

 しばらくすると、彼女が口を開き、観測者でもなく、俺でもなく、EmiRyでもない、榊に対して言葉を放った。

 「…わたし、これから、あなたを信じて生きても、良いんだよね?」

 「……うん」

 「途中で、何処かに行ったりしないよね!?」

 彼女が目線を上げる。

 全てを失い絶望しながらも、何かを信じて強くあろうとする、少女の顔があった。

 「ええ。約束する。」

 榊が、契約の旨を口にする。

 それを聴いた彼女は、強く、しかし震えながら、笑顔で、観測者に対して言った。

 「私、帰りたーーー」


 バアァァァン!!


 ドサッ


 遠くから鳴ったであろう衝撃音が放った物体は、彼女の、眉間を貫通していた。

銃?死んだ?あれ、なんで……

 「……え?」

 「いや……いやあぁぁぁ!!!」

 追いついていなかった思考が追いついた時、そこには、彼女が死んだという事実が残った。

 「そ、んな……どうして」

 「き、君たちは、はや、く……此所を、で、て、さ……も………なぁ」


ドサッ


 観測者が倒れる。起き上がる気配がない。そして、今まで原型を留めていた世界が、一気に崩壊を始めていた。

 「いやぁ~まさか君たちがいたとは想定外だよ」

 「!お前は!」

 そこにいたのは、さっき会った男だった。片手に銃のようなものを持っていた。

その時、俺の横から凄まじい速さで男に飛びかかろうとする人影が見えた。榊だ。

 「……!」

 榊が男に殴りかかる。当然、榊が男に叶うはずもなく、その拳は簡単に止められ、遠くまで投げ飛ばされた。

 「ぐぅ!!……う」

 「大丈夫か!榊!」

 「いや、急に殴りかかるのはナシでしょ~いやぁビックリした」

 「どうして!どうして彼女を殺した!まだ、生きられた、のに…」

 榊が睨みつけながら言う。すると、男は酷く愉快そうな顔で、不快な笑顔で、話し出した。

 「あっははははぁ!!どうしてか?それは簡単、彼女に福音を与えたまでさ。これが一番手っ取り早いのよ」

 「ふざぁけるなぁ!」

 「おっと、怖い怖い。じゃ僕はこれにてドロンっ」

 男はそういうと、沈むように地面に消えていった。

 一体何者なんだ?だが、今は榊と自身の安全が最優先だということを思い出し、榊を立ち上がらせる。

 「なあ!こうなった場合、どうやって出るんだ!?」

 「…出口を開く。自身の神化世界と繋げろ。」

 世界が崩れていく。EmiRyの写真も、世界の壁からボロボロと落ちていく。

 「繋げる!?っ、とにかく、やってみる!」

 榊が目を閉じ、そして俺も、目を閉じて自身の神化世界へとリンクを始めた。



 目を閉じる一瞬、俺の横で一粒の雫が落ちたことを視た。



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 神化世界へ通じた俺は、管理者の元へと歩き出した。

 彼が何処にいるかは、本体の俺ですらわからない。いや、俺がそもそも本体なのかすら、わからない。

 しばらく歩いていると、人影が見えたので、管理者がそこに居ることは明白だ。

 「管理者。思ったより早く会うことになったな」

 管理者がこちらを向く。するとその瞳に、涙を浮かべていた。

 「ああ……救えなかったようだね」

 「…正体不明の男が、現れた…アレは一体、誰なんだ?」

 「私にも分からない……だが、ひとまず君や彼女が無事で、良かったよ」

 「榊も、無事なのか?」

 「ああ、神化世界の精神は、個を持たず、されど人格がある。つまり繋がっているからね。」

 無事だということが分かり、一先ず安心した。

 「……君には、記憶しておいて欲しいことがあるんだ」

 管理者が告げる。俺は、なんとなくその意味を理解していた。

 「ああ…彼女のことだろ?」

 「ああ、そうさ。忘れないで、いてあげて欲しい。」

 「…絶対に、忘れないさ」

 さらに、管理者が告げる。

 「彼女の名前も、憶えていて欲しい。世界からは切り離されてしまったとしても、憶えてくれる人がいれば、まだ繋がっていられるから」

 管理者が彼女の名前を知っていることに驚きながらも、さっきよりも確固たる意志を持って、答えた。

 「大丈夫。俺と、榊で繋ぎ止めるよ」

 一体、何を繋ぎ止めるのか。その答えを知らずにいたが、とにかく繋いでおくことが、彼女のためになるような気がして。

 彼女の名前を知る。

 俺は記憶する。彼女の名前を繋げておくために。





 推野 瑛真《おしの えま》




 繋ぐべき、名前だ。






       独白

 また、救えなかった。ただその事実だけが、無情にも残った。

 だけど。

 いつまでも、後悔している場合じゃない。まだ、神化世界に取り込まれる人は出てくる。

 そして救うことを、私と彼女の福音を邪魔する奴も、現れた。

 だから。

 「行くよ、珠代」

 だから、私はーーー

 歩みを、止めない。





第二章 女神と信者 ~完~

 


 

 
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