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第一章 書物と少年
歓喜とロゴス
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二人に分かれて探すのは効率が良くていいが……果たして彼女と分かれてしまって正解だったのだろうか。
彼女がアイツに襲われて無ければ良いが……そういえば、彼女がアイツに捕まるとどうなるのだろう?
彼女に聞けば分かるかも知れないが、今は居ないのだから考えたって仕方ない。
俺は俺の為に、本を探すのだ。
しばらく探していると、本棚の上に一冊、他の本とは明らかに違う本が置いてあった。
近くに椅子があったので、それに乗って取ることにした。
「もう、少し……!」
腕を必死に伸ばし、ようやく取ることが出来た。
ここに来るまでによく分からない仕掛けや謎解きを解いて、さらにアイツにも追いかけられてきたが、ここに来てようやく一冊手にすることが出来た。
「さあ、この本をもう一冊ーー」
途端、激しい頭痛が俺を襲った。
「!う…あぁ!があぁぁ!!」
なん、だ……な、にか。な にかが、あた ま に くーーー
I
「別に要らないのよ。あんたは」
そうだ。俺は、望まれて生まれてきた訳じゃないんだ。
これを言ったのは、本当の親じゃない。俺の両親は、既に死んでいるんだ。
何故望まれて生まれてきた訳じゃないのか。理由は分からない。ただ、この言葉を思い出した時。そう理解したのだ。
6
「!っはあ!……はぁ、はあ。」
もしかして、さっきの頭痛や言葉は。今までの、現世での、俺の記憶か?
今までにない不快感と絶望。現世や現実に、希望なんて無い。ここまでハッキリと分からせられることがあるだろうか。
絶望感、虚無、退廃。ただひたすらに辛い。このまま、この世界に居た方が、良いのではないか?
「違う!!」
何を言ってるんだ、俺は。帰るんじゃなかったのか、あの世界に。
重くなった足を、必死に動かし続ける。何のために?
帰るために。あの世界へ帰るために?
歩みを止めないのだ。
さらに探し続けると、机の上に一冊、自分の持っている物に似た本があった。
「やっと…あった」
これで二冊目……もう彼女は二冊見つけただろうか?
「………。」
また、あの感覚に襲われるのか?
正直、あんな思いは二度としたく無いが、それでも。
それでも、俺は帰ると決めたのだ。
アイツは相変わらず叫びながら追いかけてくるが、巻くのにも慣れてきたようだ。今では息も切らさず巻くことが出来るようになった。
きっと、俺が速くなったんじゃない。アイツが遅くなったんだ。
アイツが精神なら、俺は体だ。体があの世界に帰ろうとしているから、この世界を創り出したアイツは弱っているんだ。
「…よし、やるぞ!」
俺は二冊目に手を触れる。
さっきのように激しい頭痛はしたが、迷いの無さが、痛みを和らげてくれているようだ。いや、単純に慣れただけなのか。
記憶が甦る。その時、俺は何故望まれて生まれてきていないのか。その理由を知ることとなった。
二人に分かれて探すのは効率が良くていいが……果たして彼女と分かれてしまって正解だったのだろうか。
彼女がアイツに襲われて無ければ良いが……そういえば、彼女がアイツに捕まるとどうなるのだろう?
彼女に聞けば分かるかも知れないが、今は居ないのだから考えたって仕方ない。
俺は俺の為に、本を探すのだ。
しばらく探していると、本棚の上に一冊、他の本とは明らかに違う本が置いてあった。
近くに椅子があったので、それに乗って取ることにした。
「もう、少し……!」
腕を必死に伸ばし、ようやく取ることが出来た。
ここに来るまでによく分からない仕掛けや謎解きを解いて、さらにアイツにも追いかけられてきたが、ここに来てようやく一冊手にすることが出来た。
「さあ、この本をもう一冊ーー」
途端、激しい頭痛が俺を襲った。
「!う…あぁ!があぁぁ!!」
なん、だ……な、にか。な にかが、あた ま に くーーー
I
「別に要らないのよ。あんたは」
そうだ。俺は、望まれて生まれてきた訳じゃないんだ。
これを言ったのは、本当の親じゃない。俺の両親は、既に死んでいるんだ。
何故望まれて生まれてきた訳じゃないのか。理由は分からない。ただ、この言葉を思い出した時。そう理解したのだ。
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「!っはあ!……はぁ、はあ。」
もしかして、さっきの頭痛や言葉は。今までの、現世での、俺の記憶か?
今までにない不快感と絶望。現世や現実に、希望なんて無い。ここまでハッキリと分からせられることがあるだろうか。
絶望感、虚無、退廃。ただひたすらに辛い。このまま、この世界に居た方が、良いのではないか?
「違う!!」
何を言ってるんだ、俺は。帰るんじゃなかったのか、あの世界に。
重くなった足を、必死に動かし続ける。何のために?
帰るために。あの世界へ帰るために?
歩みを止めないのだ。
さらに探し続けると、机の上に一冊、自分の持っている物に似た本があった。
「やっと…あった」
これで二冊目……もう彼女は二冊見つけただろうか?
「………。」
また、あの感覚に襲われるのか?
正直、あんな思いは二度としたく無いが、それでも。
それでも、俺は帰ると決めたのだ。
アイツは相変わらず叫びながら追いかけてくるが、巻くのにも慣れてきたようだ。今では息も切らさず巻くことが出来るようになった。
きっと、俺が速くなったんじゃない。アイツが遅くなったんだ。
アイツが精神なら、俺は体だ。体があの世界に帰ろうとしているから、この世界を創り出したアイツは弱っているんだ。
「…よし、やるぞ!」
俺は二冊目に手を触れる。
さっきのように激しい頭痛はしたが、迷いの無さが、痛みを和らげてくれているようだ。いや、単純に慣れただけなのか。
記憶が甦る。その時、俺は何故望まれて生まれてきていないのか。その理由を知ることとなった。
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