上 下
10 / 10

彼岸花

しおりを挟む
 吉田祐樹。それに他の、関係を持っていた過去の面々の面影を脳裏に浮かばせる。

あの忌まわしき高校生活から数年。あの後も、それぞれの人生に多大な影響を及ばし続けていたのだ。中には自殺へと追い込まれたものまでいた。それなのに。

松宮は生きている。流石に自分の罪の重さは分かっているだろうが、それでも生きているのだ。そのことに、拳が震える思いである。



 そして、今こうして松宮と再会し吉田祐樹の家の前にいるのは、彩芽の四十九日が終わったからである。



「祐樹……」

「……久しいね、真也」

「どうしてここに……」

「どうして、か……。それは俺が知りたいさ。なんでその魔女・・と一緒にいるのか」

「……」



 沈黙を貫く。正確には何も答えられなかった。松宮も何も言わない。

しばらくすると、祐樹の方から口を開いた。



「……すまないが、帰ってくれ。何も話すことはない」

「ちょ、待って——」



 バタン。



 閉ざされた扉の向こうから、咆哮。そして何かが壊れる音が、続け様に聴こえる。その音に何も、反応することが出来なかった。













         ◎◎◎













 泊まる予定も立てていなかった俺は、そのまま今の家へと帰ることにした。松宮は何か言いたそうにしていたが、特に何も言わなかった。

やがて駅へと着き、終わりを迎える。



「それじゃあ俺はここで」

「……ねぇ、相葉くん。過去の罪は、どうやっても消せないのかな」

「……しらねぇよ。少なくとも、過去は消せない」

「……そうだよね。そりゃそうだ……ごめん、引き留めて。じゃあね」

「ああ……もう二度と、会うことは無いだろうよ」



 そう捨てて、駅構内へと入っていく。

 自身の罪。大小あれど、消えないという点では変わりないだろう。

だけど本質はそこじゃない。その罪を反省し、贖罪しなければならない。生きて生きて、生き続けて。どんな形であろうとも。

死をもって償おうなどということは許されないのだ。            《了》
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

浴槽海のウミカ

ベアりんぐ
ライト文芸
「私とこの世界は、君の深層心理の投影なんだよ〜!」  過去の影響により精神的な捻くれを抱えながらも、20という節目の歳を迎えた大学生の絵馬 青人は、コンビニ夜勤での疲れからか、眠るように湯船へと沈んでしまう。目が覚めるとそこには、見覚えのない部屋と少女が……。  少女のある能力によって、青人の運命は大きく動いてゆく……! ※こちら小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。

ターフの虹彩

おしゃんな猫_S.S
ライト文芸
この作品は史実の歴史に基づいていますが、実名馬の登場や実在の人物及び関係者、団体様とは一切関係がありません。全て架空の人物、動物で構成されています 7人のジョッキー達が担当馬と共に成長する物語です。競馬とは何かを筆者自身も考えながら書いています 第1話の主人公は新米ジョッキー。父が天才ジョッキーと云われ、そのギャップに悩みながら人馬共に成長する物語です 短編集の集まりと思って、気軽に読めるような作品を心がけています

二兎に追われる者、一兎に絞るのは難しい。

イカタコ
ライト文芸
 ある日突然、ごくごく普通の高校生・石口至のもとにクラスメイトの今見まみが泊まることとなる。  その数日後、至とクラスメイトの相坂ミユは、至とまみの関係を疑うようになり、急接近する。  その後に知り合ったミユの姉、マヤによって関係はさらに捻じれてゆく。  果たして、至は最終的にまみとミユのどちらを選ぶのか? それとも、違う女子に目移りしてしまうのか?  日常かつドロ沼なラブコメここにある。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕を待つ君、君を迎えにくる彼、そして僕と彼の話

石河 翠
現代文学
すぐに迷子になってしまうお嬢さん育ちの綾乃さん。 僕は彼女を迎えにいくと、必ず商店街のとある喫茶店に寄る羽目になる。そこでコーヒーを飲みながら、おしゃべりをするのが綾乃さんの至福の時間なのだ。コーヒーを飲み終わる頃になると、必ず「彼」が彼女を迎えに現れて……。 扉絵は、遥彼方さんのイラストをお借りしています。 この作品は、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

ベアりんぐ奇譚詩編集

ベアりんぐ
ライト文芸
 小さな結晶でも、それが大きな力を持っている時がある。  私は、ハッキリしたものが苦手だ。  常に曖昧さのさらに中間のような物の中にいる。  そんなことを考えていると、視界が晴れて、新たなる出会いの予感がした。  ーベアりんぐ詩編集ー  そう書かれたこの物体は、新たな視点を与えるようだ。どんな解釈であっても情景や感受も良しとする。  私は、一つの詩に手を伸ばす。  : 開かれし、感受を求めし少女の手記        @  これまで上げた詩や、これから上げる詩をここでまとめておきます!文章群とも繋がっているので、是非感受を求めて読んでみて下さい!

お隣さんはゲテモノ食いの高校生

タタミ
ライト文芸
30過ぎても自由で自堕落なフリーター・竹原一臣は、ある日隣に住む高校生・本願祈に「醤油を貸してほしい」と頼まれる。 流れでご飯をご馳走になろうとする竹原だったが、出てきたのはカエルのスープとセミの素揚げだった── ゲテモノ大好きな本願と、なんだかんだ一緒に食卓を囲む竹原のゲテモノグルメストーリー。

バカな元外交官の暗躍

ジャーケイ
ライト文芸
元外交の音楽プロデューサーのKAZが、医学生と看護師からなるレゲエユニット「頁&タヨ」と出会い、音楽界の最高峰であるグラミー賞を目指すプロジェクトを立ち上げます。ジャマイカ、NY、マイアミでのレコーディングセッションでは制作チームとアーティストたちが真剣勝負を繰り広げます。この物語は若者たちの成長を描きながら、ラブコメの要素を交え山あり谷なしの明るく楽しい文調で書かれています。長編でありながら一気に読めるライトノベル、各所に驚きの伏線がちりばめられており、エンタティメントに徹した作品です。

処理中です...