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#1 謎めいたコンビニ
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この世界では、時に人知を超越する事件や事故が存在する。中でも、状況証拠に乏しい行方不明事件のことを、"神隠し"と言うこともある。
それに巻き込まれた人とは、一体どこへ行ってしまうのか。別空間?別次元?はたまたタイムスリップ?……真相は、実際になった者しか分からないが。
今となっては何故自分があのような数奇な運命に飲み込まれたのか。いや、特に理由はないのかも知れない。
はたまた、もしもこの世界を創った神という者が居るのならば、創った世界の歪み調整というものかも知れない。
こうして謎現象に考察出来ているのも、自身の体験あってこそである。
……今になって振り返って、一体何になるかは分からない。しかし、今思い返したいと感じるこの心を、信じてみたい。
徐々に思い出していく。少なからず遠いあの……そう、高校一年の夏の、修業式があった日。あの鬱陶しい湿気に包まれた、雨の日——。
◎◎◎
「夏休み、羽目を外し過ぎないようにな。以上、号令」
担任の教師が学級総代に号令を促す。その一声に総代が、号令、の一言で応える。
夏休みという長期休暇が始まる非日常感からか、いつもよりも起立時にざわざわと話し声が立つ。
流れるように挨拶をし、気だるげにお辞儀をして、会の終了。
運動部の一部が足早に教室から出ていく。文化部も夏休みに入るからだろうか、集まりがあるという声が聞こえてくる。
クラスに残って友達と話す声が聞こえる中、自分に向かってくる人影が視界に入る。
「界人、もう帰るだろ?」
「おう、そのつもり。……もう用事も無いし、行くか」
「とっとと帰って、"マリーコレクション"進めねぇとなぁ」
「ソシャゲよりも本の方が面白いだろ」
「バッッカお前!ストーリーにボイスが乗るから良いんだろうが!全く、これだから素人は……」
「はいはい、小遣い削って限定逃したやつの言うことは違うな」
「うるせ!たくっ……次引けば確率収束で当たるんだよ……」
一尺八寸 円。最初の席で隣になった俺、咎島 界人の友達だ。春から夏の間、学校ではほとんどコイツとしか話していない。
一尺八寸も俺以外と話している姿をほとんど見ない。クラス内で孤立している、という様子もないようだが……。
学校を出て、帰路に着く。一尺八寸と家の方向も一緒であり、こうして毎日一緒に下校、時折登校もしている。
「いよいよ夏休みかぁ……なあ、夏休みに予定とか、あんの?」
一尺八寸がそう聞いたので、自身の予定を振り返ってみたが特に何もない。その旨を、首を振ることで示す。
「そうか。なら、この夏休み中になんか面白いことしようぜ」
「……面白いことって、なんだよ」
「そりゃなにって……面白いことは面白いことだよ!何かは、知らないけど……」
「ふわふわしてて、全くわかんねぇな」
「なんか面白いこと、考えとけよ!私も考えとくから!」
「はいはい……あ、俺こっちだから」
「おう、じゃあな。面白いこと、思いついたら言ってくれよ」
「おう、じゃあな」
一尺八寸と別れ、家へと帰る。
帰った後、特にやることもなかった俺は途中だった小説を読むことにした。いつも通り、面白い。
一冊読み終わり、本棚に入れたままにしていた読んでない本を手に取る。そうしてまた、本の世界へと浸っていく。
そうしているといつの間にか、夜になっていた。そのことに少し驚きつつ、途中の本を閉じて寝る支度を始める。
いつも通りの日。毎日となんら変わりのない日。そのはずだった。
いつだって日常が崩れて、非日常が顔を出すのは突然だ。その時に準備が出来ている者なんて、恐らくはいない。
そう、この時の俺もそうだった。いつも通りの日々が訪れることを、脳の片隅にも置いていないほどに当たり前だと思っていた。
あの"声"が、訪れるまでは——。
◎◎◎
"おいで"
"円環の上に立つ君"
"そんな君に送ろう、セレナーデを"
"在りし日に横たわる、ワタシのためにも"
"さあ!!!!!"
「うわあぁぁ!!!」
なんだ、これ……?誰かが呼んでる?
「……外?」
誰かが呼ぶ声。その声に吸い寄せられるようにベットから起き、まず時計を見た。時刻は午前2時。
不思議に思いながらも、そのまま玄関の扉を開ける。服はそのまま寝巻きで、それに似合わない靴を履いて。
"……こっち"
「こっち、って……そもそも誰、なんだ?姿も見当たらないし……」
幽霊?それとも何か別の……
特に興味があるわけではない、オカルトの類。しかしその存在を否定出来るほど知識を有しているわけではないから、あまり考えないようにしていたが……。
そんな信じられないようなものの、しかしどこか懐かしいような雰囲気を感じるその声に、吸い寄せられるように彷徨い続ける。
"そうそう、こっちだよ……"
「こっちで合ってる、ってこと、だよな……?」
通っている高校とは反対方向の、普段自分が行かないような所へと来た。ここまで来てしまって自力で帰れるかどうか……いや、スマホを持ってきているはずだ。これがあれば家まで——、しかし。
「おいおい、ここ圏外じゃん……」
まさかの圏外。さっきまで繋がっていたはずなのだが……。
とにかく、後のことは考えずに声を頼りに進んでいく。歩いて、歩いて、暗闇と街灯を尻目にひたすら歩く。
曲がり角を曲がると、何やら煌々と辺りを照らす建物が薄ら見える。思わずその建物の辺りを見渡すが、ひたすら平らな暗闇が横たわっているだけであった。
「どうなってんだ、ここ……ていうか、あれなんだ?」
"怖くない。おいで"
「……本当かよ。信じていいのか、これ」
その言葉に戸惑いながらも、一歩、また一歩と進んでいく。辺りに闇が広がっているので、脚元に注意しながら進んでいく。
近づくにつれて、建物が何であるかがハッキリしてきた。あれは、そう——
「……コンビニ?」
立て看板等はなく、ただポツンと平坦な闇に佇む、コンビニである。しかしどこか古めかしい印象を持つコンビニだ。
外観はボロボロ。所々禿げてしまっているような、そんな状態。
そして、遂に自動ドアが反応する前まで来てしまった。するとあの声が、その店の中から、小さくしかし、確かに言った。
「いらっしゃい。入りなよ」
その声にビクつきながらも、覚悟を決め、生唾を飲み込んで、コンビニへと踏み入った。
それに巻き込まれた人とは、一体どこへ行ってしまうのか。別空間?別次元?はたまたタイムスリップ?……真相は、実際になった者しか分からないが。
今となっては何故自分があのような数奇な運命に飲み込まれたのか。いや、特に理由はないのかも知れない。
はたまた、もしもこの世界を創った神という者が居るのならば、創った世界の歪み調整というものかも知れない。
こうして謎現象に考察出来ているのも、自身の体験あってこそである。
……今になって振り返って、一体何になるかは分からない。しかし、今思い返したいと感じるこの心を、信じてみたい。
徐々に思い出していく。少なからず遠いあの……そう、高校一年の夏の、修業式があった日。あの鬱陶しい湿気に包まれた、雨の日——。
◎◎◎
「夏休み、羽目を外し過ぎないようにな。以上、号令」
担任の教師が学級総代に号令を促す。その一声に総代が、号令、の一言で応える。
夏休みという長期休暇が始まる非日常感からか、いつもよりも起立時にざわざわと話し声が立つ。
流れるように挨拶をし、気だるげにお辞儀をして、会の終了。
運動部の一部が足早に教室から出ていく。文化部も夏休みに入るからだろうか、集まりがあるという声が聞こえてくる。
クラスに残って友達と話す声が聞こえる中、自分に向かってくる人影が視界に入る。
「界人、もう帰るだろ?」
「おう、そのつもり。……もう用事も無いし、行くか」
「とっとと帰って、"マリーコレクション"進めねぇとなぁ」
「ソシャゲよりも本の方が面白いだろ」
「バッッカお前!ストーリーにボイスが乗るから良いんだろうが!全く、これだから素人は……」
「はいはい、小遣い削って限定逃したやつの言うことは違うな」
「うるせ!たくっ……次引けば確率収束で当たるんだよ……」
一尺八寸 円。最初の席で隣になった俺、咎島 界人の友達だ。春から夏の間、学校ではほとんどコイツとしか話していない。
一尺八寸も俺以外と話している姿をほとんど見ない。クラス内で孤立している、という様子もないようだが……。
学校を出て、帰路に着く。一尺八寸と家の方向も一緒であり、こうして毎日一緒に下校、時折登校もしている。
「いよいよ夏休みかぁ……なあ、夏休みに予定とか、あんの?」
一尺八寸がそう聞いたので、自身の予定を振り返ってみたが特に何もない。その旨を、首を振ることで示す。
「そうか。なら、この夏休み中になんか面白いことしようぜ」
「……面白いことって、なんだよ」
「そりゃなにって……面白いことは面白いことだよ!何かは、知らないけど……」
「ふわふわしてて、全くわかんねぇな」
「なんか面白いこと、考えとけよ!私も考えとくから!」
「はいはい……あ、俺こっちだから」
「おう、じゃあな。面白いこと、思いついたら言ってくれよ」
「おう、じゃあな」
一尺八寸と別れ、家へと帰る。
帰った後、特にやることもなかった俺は途中だった小説を読むことにした。いつも通り、面白い。
一冊読み終わり、本棚に入れたままにしていた読んでない本を手に取る。そうしてまた、本の世界へと浸っていく。
そうしているといつの間にか、夜になっていた。そのことに少し驚きつつ、途中の本を閉じて寝る支度を始める。
いつも通りの日。毎日となんら変わりのない日。そのはずだった。
いつだって日常が崩れて、非日常が顔を出すのは突然だ。その時に準備が出来ている者なんて、恐らくはいない。
そう、この時の俺もそうだった。いつも通りの日々が訪れることを、脳の片隅にも置いていないほどに当たり前だと思っていた。
あの"声"が、訪れるまでは——。
◎◎◎
"おいで"
"円環の上に立つ君"
"そんな君に送ろう、セレナーデを"
"在りし日に横たわる、ワタシのためにも"
"さあ!!!!!"
「うわあぁぁ!!!」
なんだ、これ……?誰かが呼んでる?
「……外?」
誰かが呼ぶ声。その声に吸い寄せられるようにベットから起き、まず時計を見た。時刻は午前2時。
不思議に思いながらも、そのまま玄関の扉を開ける。服はそのまま寝巻きで、それに似合わない靴を履いて。
"……こっち"
「こっち、って……そもそも誰、なんだ?姿も見当たらないし……」
幽霊?それとも何か別の……
特に興味があるわけではない、オカルトの類。しかしその存在を否定出来るほど知識を有しているわけではないから、あまり考えないようにしていたが……。
そんな信じられないようなものの、しかしどこか懐かしいような雰囲気を感じるその声に、吸い寄せられるように彷徨い続ける。
"そうそう、こっちだよ……"
「こっちで合ってる、ってこと、だよな……?」
通っている高校とは反対方向の、普段自分が行かないような所へと来た。ここまで来てしまって自力で帰れるかどうか……いや、スマホを持ってきているはずだ。これがあれば家まで——、しかし。
「おいおい、ここ圏外じゃん……」
まさかの圏外。さっきまで繋がっていたはずなのだが……。
とにかく、後のことは考えずに声を頼りに進んでいく。歩いて、歩いて、暗闇と街灯を尻目にひたすら歩く。
曲がり角を曲がると、何やら煌々と辺りを照らす建物が薄ら見える。思わずその建物の辺りを見渡すが、ひたすら平らな暗闇が横たわっているだけであった。
「どうなってんだ、ここ……ていうか、あれなんだ?」
"怖くない。おいで"
「……本当かよ。信じていいのか、これ」
その言葉に戸惑いながらも、一歩、また一歩と進んでいく。辺りに闇が広がっているので、脚元に注意しながら進んでいく。
近づくにつれて、建物が何であるかがハッキリしてきた。あれは、そう——
「……コンビニ?」
立て看板等はなく、ただポツンと平坦な闇に佇む、コンビニである。しかしどこか古めかしい印象を持つコンビニだ。
外観はボロボロ。所々禿げてしまっているような、そんな状態。
そして、遂に自動ドアが反応する前まで来てしまった。するとあの声が、その店の中から、小さくしかし、確かに言った。
「いらっしゃい。入りなよ」
その声にビクつきながらも、覚悟を決め、生唾を飲み込んで、コンビニへと踏み入った。
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