上 下
1 / 4

#1 謎めいたコンビニ

しおりを挟む
 この世界では、時に人知を超越する事件や事故が存在する。中でも、状況証拠に乏しい行方不明事件のことを、"神隠し"と言うこともある。

それに巻き込まれた人とは、一体どこへ行ってしまうのか。別空間?別次元?はたまたタイムスリップ?……真相は、実際になった者しか分からないが。

 今となっては何故自分があのような数奇な運命に飲み込まれたのか。いや、特に理由はないのかも知れない。

はたまた、もしもこの世界を創った神という者が居るのならば、創った世界の歪み調整というものかも知れない。

 こうして謎現象に考察出来ているのも、自身の体験あってこそである。

……今になって振り返って、一体何になるかは分からない。しかし、今思い返したいと感じるこの心を、信じてみたい。

 徐々に思い出していく。少なからず遠いあの……そう、高校一年の夏の、修業式があった日。あの鬱陶しい湿気に包まれた、雨の日——。












         ◎◎◎












「夏休み、羽目を外し過ぎないようにな。以上、号令」



 担任の教師が学級総代に号令を促す。その一声に総代が、号令、の一言で応える。

夏休みという長期休暇が始まる非日常感からか、いつもよりも起立時にざわざわと話し声が立つ。

流れるように挨拶をし、気だるげにお辞儀をして、会の終了。

 運動部の一部が足早に教室から出ていく。文化部も夏休みに入るからだろうか、集まりがあるという声が聞こえてくる。

クラスに残って友達と話す声が聞こえる中、自分に向かってくる人影が視界に入る。



「界人、もう帰るだろ?」

「おう、そのつもり。……もう用事も無いし、行くか」

「とっとと帰って、"マリーコレクション"進めねぇとなぁ」

「ソシャゲよりも本の方が面白いだろ」

「バッッカお前!ストーリーにボイスが乗るから良いんだろうが!全く、これだから素人は……」

「はいはい、小遣い削って限定逃したやつの言うことは違うな」

「うるせ!たくっ……次引けば確率収束で当たるんだよ……」



 一尺八寸 円かまつか まどか。最初の席で隣になった俺、咎島 界人とがじま かいとの友達だ。春から夏の間、学校ではほとんどコイツとしか話していない。

一尺八寸も俺以外と話している姿をほとんど見ない。クラス内で孤立している、という様子もないようだが……。

 学校を出て、帰路に着く。一尺八寸と家の方向も一緒であり、こうして毎日一緒に下校、時折登校もしている。



「いよいよ夏休みかぁ……なあ、夏休みに予定とか、あんの?」



 一尺八寸がそう聞いたので、自身の予定を振り返ってみたが特に何もない。その旨を、首を振ることで示す。



「そうか。なら、この夏休み中になんか面白いことしようぜ」

「……面白いことって、なんだよ」

「そりゃなにって……面白いことは面白いことだよ!何かは、知らないけど……」

「ふわふわしてて、全くわかんねぇな」

「なんか面白いこと、考えとけよ!私も考えとくから!」

「はいはい……あ、俺こっちだから」

「おう、じゃあな。面白いこと、思いついたら言ってくれよ」

「おう、じゃあな」



 一尺八寸と別れ、家へと帰る。

帰った後、特にやることもなかった俺は途中だった小説を読むことにした。いつも通り、面白い。

 一冊読み終わり、本棚に入れたままにしていた読んでない本を手に取る。そうしてまた、本の世界へと浸っていく。

そうしているといつの間にか、夜になっていた。そのことに少し驚きつつ、途中の本を閉じて寝る支度を始める。

 いつも通りの日。毎日となんら変わりのない日。そのはずだった。

いつだって日常が崩れて、非日常が顔を出すのは突然だ。その時に準備が出来ている者なんて、恐らくはいない。

そう、この時の俺もそうだった。いつも通りの日々が訪れることを、脳の片隅にも置いていないほどに当たり前だと思っていた。

あの"声"が、訪れるまでは——。











         ◎◎◎











"おいで"

"円環の上に立つ君"

"そんな君に送ろう、セレナーデを"

"在りし日に横たわる、ワタシのためにも"



"さあ!!!!!"

「うわあぁぁ!!!」



 なんだ、これ……?誰かが呼んでる?



「……外?」



 誰かが呼ぶ声。その声に吸い寄せられるようにベットから起き、まず時計を見た。時刻は午前2時。

不思議に思いながらも、そのまま玄関の扉を開ける。服はそのまま寝巻きで、それに似合わない靴を履いて。



"……こっち"

「こっち、って……そもそも誰、なんだ?姿も見当たらないし……」



 幽霊?それとも何か別の……

特に興味があるわけではない、オカルトの類。しかしその存在を否定出来るほど知識を有しているわけではないから、あまり考えないようにしていたが……。

そんな信じられないようなものの、しかしどこか懐かしいような雰囲気を感じるその声に、吸い寄せられるように彷徨い続ける。



"そうそう、こっちだよ……"

「こっちで合ってる、ってこと、だよな……?」



 通っている高校とは反対方向の、普段自分が行かないような所へと来た。ここまで来てしまって自力で帰れるかどうか……いや、スマホを持ってきているはずだ。これがあれば家まで——、しかし。



「おいおい、ここ圏外じゃん……」



 まさかの圏外。さっきまで繋がっていたはずなのだが……。

とにかく、後のことは考えずに声を頼りに進んでいく。歩いて、歩いて、暗闇と街灯を尻目にひたすら歩く。

曲がり角を曲がると、何やら煌々と辺りを照らす建物が薄ら見える。思わずその建物の辺りを見渡すが、ひたすら平らな暗闇が横たわっているだけであった。



「どうなってんだ、ここ……ていうか、あれなんだ?」

"怖くない。おいで"

「……本当かよ。信じていいのか、これ」



 その言葉に戸惑いながらも、一歩、また一歩と進んでいく。辺りに闇が広がっているので、脚元に注意しながら進んでいく。

近づくにつれて、建物が何であるかがハッキリしてきた。あれは、そう——



「……コンビニ?」



 立て看板等はなく、ただポツンと平坦な闇に佇む、コンビニである。しかしどこか古めかしい印象を持つコンビニだ。

外観はボロボロ。所々禿げてしまっているような、そんな状態。

 そして、遂に自動ドアが反応する前まで来てしまった。するとあの声が、その店の中から、小さくしかし、確かに言った。



「いらっしゃい。入りなよ」



 その声にビクつきながらも、覚悟を決め、生唾を飲み込んで、コンビニへと踏み入った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ファーナーティクスへの福音

ベアりんぐ
ライト文芸
なにかを信じることは、弱いことか? なにかを求めるのは、卑怯なことか? 望むことは傲慢か?見捨てることは薄情か? 人は何かに縋らなければ生きていけない。 これは、なにかを信じ、崇め、絶望する話。 05 ※こちらの作品は「アルファポリス」以外にも「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載されています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】違い、埋まらなくとも。

佐藤朝槻
ライト文芸
大学の冬休み前、普段明るいトモが憔悴しきっていることが心配になった。俺は思わずレポートを口実にトモの家に泊まりたいと頼むと、大晦日に来るよう言われる。当日、トモの部屋でレポートに取り組んでいると、突如彼が自分は死んでいると言い出す。どう見ても生きている彼がなぜそんなことを言うのか、俺は話を聞くことにした(違い、埋まらなくとも。)。 高校で人気者の摺木先輩をすごいと思った。しかし、先輩に関する噂や文化祭直後のイベントなど、僕が見聞きするものすべてが眩しかった。一年後、僕は先輩を目撃する(僕がトモと名乗った日)。 なろう、ノベルデイズ、カクヨムにも掲載しています。 © 2023 Asatsuki Sato

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」 寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。 クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。 第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、

人間工房

沼津平成
ライト文芸
人間をつくることができる工房があるらしい。ちょっと覗いてみよう。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...