輪廻

壺の蓋政五郎

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輪廻『弊風』

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 洋子が言うには「お茶くみもコピーもパワハラよ、そんなことをあたし達の世代がいつまでもやっているから女の立場が向上しないのよ。あたしだったら金玉蹴り上げてやるわ」
 尚子がこう言った「はいはいってやってあげればいいのよ。だってさ、昔からそうだし、私達世代がいくら頑張っても男と対等にならないよ。それより風習に従って、女がやるべき仕事は女がやるのが常識、家庭に入れば毎日よ」
 良子は冷静だった「その時の調子でいいんじゃない、気分次第で。いい男ならやってあげて、嫌いな奴なら断ればいいのよ。適当に考えていれば一日なんてすぐ終わるし」
 金玉も蹴り上げられないし、言い成りも嫌だし、適当にもあしらえない、そんな私の方がおかしいのでしょうか。入社十年、三十二歳、団体職員になってずっと立ち位置が変わらない。支部採用だから職員併せて十六人、これも十年変わらない。誰かが定年、或いは病気退職、そんな時に減った分だけ補充する。入社した時の席が定席となる。私も定年の補充である。その席にいた人がお茶汲みをしていた。それが自動的に私に回って来ただけである。そもそも入社してからこれまで忙しいことなどなかった。気を入れてやれば二時間もあれば終えてしまう。それをしたらいけないのが団体職員のいいとこでもあるし辛いとこでもある。二時間で終える仕事を九時から五時まで掛けて行う。その時間の長い事。ゲームをするわけにもいかないし事務所を出るわけにもいかない。ただじっと関連のあるデータを見つめている。固まって人差し指が動かない時がある。震える時もある。これから一生クリックが出来ないんじゃないかと考えられない不安が浮かび冷汗をかく。しかし失敗は許されない。字の誤りや変換ミス、句読点の使い方等々ミスは禁物。『どうして時間を掛けて確認しなかった』と叱責だけでは済まされない責任を負わされる。だからこんなに時間があるのかもしれない。
「時田さん、申し訳ない。本当に申し訳ないんですけど、コーヒーをお願い出来るでしょうか。あなたにお願いするのは実に心苦しい。すいません」
 私より二つ下のこの男は武田真治。いずれはここの支部長になっていくだろう。いつもこういう頼み方をする。お願い風である。頭を下げてのお願いはパワハラでないと考えているらしい。これなら気持ちよく淹れてくれるだろうし、周りからも好かれると思い込んでいる。
「俺も頼む、砂糖要らない」
 二つ上の西川紀夫が言った。武田が西川を横目で睨んだ。人にお願いするのにそういう言い方はないでしょと周囲に同調を求める首回し。でも私にとってはどちらも変わらない。西川の方が逆に面倒臭くない。それに休憩時には傍に来てエロ話もする楽しい男である。口の利き方イコールではない。
「あたしもお願いしていい?時田さん仕事早いし、もう終わってんでしょ。暇なんでしょ、暇な時間を所員に尽くしてくれる。羨ましいわ、そんな余裕を持ちたい。ブラックでいいから、その代わり熱くして、ポット95℃でお願い」
 この女だけは許せない。私より五つ上の吉木真理子。返事をしないで立ち上がる。
「時田さん返事は?」
「あっはい」
「返事してよ、通じたかどうか分からないじゃん。チームワークだから、ねっ武田さん」
 武田が立ち上がり吉木に会釈した。私はドア一枚隔てた厨房に行く。二つあるポットを確認すると二つとも湯が少ない。昼にカップヌードルを食べる奴が三人いて、注ぎ足しをていない。お茶用にはペットボトルの飲料水を使うが、カップヌードル用には水道水を使う暗黙の了解。だが三人はそんなことを気にせず残りの多い方から使う。空にすると注ぎ足しが面倒臭いので少し残してもう一方の湯を注ぐ。
「中川君、ポット空よ。無くなったら注ぎ足しがルールでしょ」
 私は腹が立って朝昼とカップヌードルを食べる中川の前で注意した。
「あーら中川君、怒られた」
 吉木真理子が囃した。
「すいません、でもコーヒー一杯分ぐらい残っていたでしょ。だからその時の人が注ぎ足せばいいと思ったんです」
 子供みたいに口を尖らせた。
「あらー可愛い中川君、その可愛さに免じて許してあげる。ねえ時田さん」
 真理子が中川を見て微笑んでいる。悔しい、悔しい。もう嫌だ、こんな会社。出来るなら生まれ変わりたい、あの吉木真理子の席に座りたい。あの席に座って私の席に座る奴にコーヒーを入れさせたい。誰か私の思いを叶えてくれないかしら。私はポットにペットボトルを傾けながら叶う筈もない何かに縋った。
「ま~だ~」
 吉木の催促が聞こえた。
 その晩は眠れずにいた。コンビニでジンを買って炭酸割にして一本空けた。それでも悔しくて眠れない。『ま~だ~』と吉木のしゃがれた声が耳朶に張り付いているようだった。ドアベルが鳴った。こんな夜中に誰だろう、宅配の再配達にしても遅過ぎる。とぼけていたら二度鳴らされた。
「どなたですか?」
「金原です。金原武」
「はあっ、どちらの?」
「時田頼子さんでいいですか?」
「何の用ですか、警察呼びますよ」
「あなたに呼ばれました、生まれ変わって席を移動をしたいと。間違いなら帰ります」
 時田はチェーンを掛けたままドアを開けた。金原は二年前に二十二歳の自分に転生していた。意外とかわいい顔に頼子が微笑んだ。
 強盗には見えない。私はチェーンを外し中に入れた。
「どういうこと?私が席を移動したいとかなんとかって?」
 若いけど怪しい、何か企んでいるに違いない。
「確かに若くなりました。悪巧みはしていませんよ。あなたが私を思ったから駆け付けた、それだけです。もし考えが変わったなら帰ります。最近意外と忙しくなりましてね。やはり新型ウィルスのせいでしょうか」
 どうして私の思ったことを答えたのかしら。偶然でしょうけど勘がいいのは確か、詐欺師、そうだわ新手のインチキ商売。
「詐欺じゃありませんが勘がいいのは確かです」
 何、この男気味が悪い。霊媒師、恐山のいたことかその類かしら。
「恐山にも足を運びました。信じる人には降りる、信じない人には降りません。霊と言うのはそういうものです。神様もそうでしょ、信じる神しか救ってくれません。占いなんてその典型ですよね、都合のいい事だけ信じる」
「あなた誰なの?どうして私の思うことが読めるの?」
「そうです、あなたがオフィスで私を思った。『生まれ変わりたい』その思いがメーターを振り切ったので私に届きました。一度繋がるとあなたの思いはそのまま私に繋がります。ただし故意に思ってもそれは通じません」
 男は名刺を差し出した。『仙人 金原 武』カタカナでルビが振ってある。
「最近、若い人が多くて説明するのが面倒臭いので名刺を作りました。仙人の金原です。私が修行で得たのは輪廻転生です。自分自身なら何回も転生します。それも前世の記憶を全て残したままに。こうすれば良かったなと思うところに転生しその思いを叶えています」
「上がって」
 俄かには信じられませんが乱暴な男ではないことは確かなようです。
「もしご心配でしたらお友達を呼ばれた方がいいでしょう」
 読まれていた。私は炬燵に誘った。
「ストーブ無いの、エアコンだけ。空気乾燥するから点けないでいるの。寒ければ点けるけど?」
「いや、結構です。寒いのは我慢出来ます」
 どうしよう、お酒だとおかしなことになってもいけない。もう家に上げてしまえば私の責任である。
「酒癖はいい方ですよ。それに性欲もそれほどありません。まあ頼まれれば真似事ぐらいはしますけどね」
 憎たらしい小僧だこと、私が男日照りだと調査してから来たのかしら。
「日を改めましょうか、お友達とご一緒の方が安心でしょ」
 笑って立ち上がった。
「もう、あたしどうしたらいいの、何も思えないじゃない」
「あなたの思いが本当ならまた私を呼ぶでしょう。是非お友達と一緒にどうぞ。あなたの思い、聞かせてください」
 立ち上がって靴を履いた。笑って玄関を出た。もしかしたら本物の仙人。私はガウンを羽織り追い掛けました。階段にもエレベーターにも姿はありませんでした。
 昨晩は興奮して寝付けませんでした。若い不思議な男が来たのは夢でしょうか。不覚にも朝方の睡魔に負けて二度寝をしていまいました。間に合わない。連絡する間も惜しみ電車を降りて走りました。うちの会社こそリモートワークにすればいい。そう思いながらも急ぎました。
「すいません、遅れました」
 と一礼しながら席に着きました。
「あーそのままそのまま。時田さんのタイムカード押してあるから。あなたの無断欠勤考えられないから遅刻だって三井室長の計らい。いいわねえ信用ある人は。後で室長にお礼言っときなさい。席に着く前にコーヒーお願いしてもいい。飲む人手を挙げて。一、二、三・・・八杯。ありがとう時田さ~ん」
 吉木真理子が消しゴムを擦っている。椅子を下げ、ノートを逆さまにして机と脚の間にカスを落とした。
私は遅刻を反省した。
「手伝いましょう」
 新人の仲代が笑顔で言った。
「いいのよ、あなたこそ叱られるわよ」
「大丈夫です。真理子さんはコントロール出来るんです」
 そう言って仲代はコーヒーを作り出した。コントロールってどういうこと?まさか吉木真理子と寝たってことかしら。室長の次の次が真理子のポジション。新人喰いの噂は本当か、三年振りのこの新人も喰ってしまったのかもしれない。
「仲代君いいのよあなたは、室長も大型新人て推しているあなたがお茶くみなんて止めて、あたしが怒られる」
「はいはい、真理子さん」
 仲代はそこから先は真理子の耳元で囁きました。真理子は顔を赤らめコーヒーを啜りました。
「時田さ~ん、有望新人を道連れにしないでね~」
 真理子が大きな声で言いました。失笑する者、他人事ながら真理子の言い方に恥ずかしいと感じる者、私を見て同情する者、それぞれでした。私は悔しくて涙目になっていました。厨房に戻るまで零れる涙を我慢しました。あの女が入所する前に戻りたい、真理子の席に先について、私の席に真理子を座らせたい。お願い、転生したい、あの女に復讐したい。
 家に帰るとすぐに昨日の男が現れました。
「寒くなりましたね。昨夜より寒いですね」
 私は男をすぐに入れました。
「私の思いが通じたの?」
「ええ、通じましたよしっかりと、昨日より強い思いを感じました」
 私は昨夜もらった名刺を手に取りました。
「昨夜言ったことは本当なの?仙人なんて信じられないけど」
 男は抱えていた一升瓶を差し出した。
「出来れば熱燗が好みです」
 男は図々しくも熱燗を要求しました。酒に酔って変身するんじゃないかと心配です。
「安心してください。酒癖はいい方ですしあなたに乱暴なんてしません。それから私の好みじゃありません。何て言うか、その気にならないと言うか、まあ安心してください」
 憎たらしい奴、いくらなんでもそこまで言う?女心を悟れない仙人なんてろくなもんじゃないわ。
「まだ駆け出しです。これでも精一杯やってるんですがねえ。あなたの言う女心は恋心ですね、私は全般に人の思い、転生したい強い思いだけに反応します。でも憎たらしいとは参ったな」
 男は笑った。悔しいからジンジンに湧いた酒を徳利に入れた。「熱い」と言って徳利から手を放すだろうと思っていましたが男は何も言わずに猪口に注ぎました。そして口に運びました。
「待って」
 私は男の手から猪口を乱暴に取り上げました。酒が零れて私の手に掛りました。
「あつっ」
 男がそっと私の手を握りました。火傷になると覚悟しましたが男が目を瞑り念じると痛みが薄らいできました。手を放すと赤みも痛みも全て消えてなくなりました。
「あなたも思い切ったことをなさる」
「ごめんなさい、飲んだら口の中を火傷すると思って」
「そうですか、それはありがとう」
「でもどうして火傷しなかったの?」
「二秒前に転生したからです。本来は覚えていないでしょうが二秒という一瞬ですから現在と転生後が無かったように錯覚しているんです」
「私の意地悪に気付いた?沸いたお酒を仕込んだこと?」
「全く気付きませんでした」
 私を責めるでもなく笑った。
「金原さん、あなた本当に仙人なの?」
「そうです、名刺に書いてある通りの仙人です。あなたも疑り深い」
 金原は「ふーふー」と息で冷まして酒を啜った。
「何か食べる?」
「実は大の蕎麦好きです。蕎麦に拘りはありませんがもりかざるを啜りながら日本酒を飲むのが最高の楽しみです」
 私は乾麺を茹でて金原に出しました。嬉しそうに啜る姿は普通の若者にしか見えませんでした。
「ところであなたの思いですが急ぎますか?」
「もう今すぐにでも転生したい」
「ちょっといいですか、額を出してください」
 私が額を出すと金原は人差し指をおでこの生え際に当てました。その指先をゆっくりと皺の出入りを読み取りながら目と目の真ん中、鼻の窪みまで撫で下ろした。
「皺を数えたの?」
「人相学では額の真ん中『天中』から鼻の窪み『山根』と言いますがあなたの寿命を読み取る私の技でもあります」
「それで私の寿命は?」
「困りましたね、意外と長い運命を約束しています」
「幾つ?」
「それは秘密です、神の領域ですから。でも普通にあります」
「そんなに待てない、早く出来ないの。苦しいのよ毎日あの席に着くのが、昔から伝わる風習が私を虐めるの」
 私は縋る以外にない、この男がおかしなことを要求してもそれでも試してみたい。
「別に私はおかしなことをしませんよ。ただもったいない、折角神がセットしてくれた運命を変えてまで転生したいなんて。先日こんなことがありました。女性で二十八歳、娘が二歳、その人の寿命は五十五歳でした。その人は早く孫が見たい、娘の子を早く見たいその一心で転生しました。転生したのは五十四歳、孫が生まれる三月前に運命を全うしました」
「可哀そう、それ何とかならないの。思いが叶わずに死んでしまうなんて」
「私はたかが仙人です、神に逆らうことは出来ません」
 私はどうしても十五年前、吉木真理子が入社する前に転生したい。でも十五年前と言うとまだ私は十八歳高校三年生。それじゃ意味がない。別の人に生まれ変わるしかないのか。
「あなたの具体的な希望は何でしょうか?その目的に一番近い位置、時間に転生出来るよう頑張りますよ」
 熱燗のお替りを催促した。蕎麦は食べ切ってしまった。頑張りますよって失敗しないのだろうか。さっきの話じゃないけど転生しても希望が叶う前に死んでは意味がない。
「このままの私で十五年前、場所は同じ、今の会社に勤めている事、それが希望。叶う?」
 金原はじっと私を見つめている。蕎麦猪口のネギをしゃぶって酒を飲んだ。
「可能です、ですが神から授かった寿命はどうすることも出来ません。十五年前に戻ればその時間が差し引かれます」
「命が十五年縮まるってこと?」
「ええそうなります。一瞬で十五年が泡となりますよ。神のセットした寿命はどうにもなりません」
「他の人に転生出来るの?」
「あなたの希望に叶う時、場所で既に亡くなっている方で四十九日以内、又はこれから誕生する命であれば可能です」
 赤子じゃどうしようもない。死んだ人ってどんな人だろう、選択肢はあるんだろうか。
「選択は出来ません、あなたの一番思いに近い時間、位置に近い人に転生します」
「難しいわ答えを出すのは、もう少し考えてもいいかしら」
「ええ、あなたの人生ですから私も賛成です。一時の感情だけで転生を考えるのは危険です。冷静になると実は改善方法が複数あったりするもんです」
「また来てくれるのかしら?」
「思いが強ければいつでも寄りますよ。お願いがあります。酒と蕎麦、思い込む前に用意しておいてください」
 金原は笑って立ち上がりました。廊下を歩く金原を見送りました。エレベーターのボタンを押したようには見えませんでしたが立ち止まることなく乗り込みました。金原仙人が言っていた。十五年前に戻るとその十五年は寿命から差し引かれる。吉木真理子に恨みを晴らすために十五年も寿命を減らすのはいや、何かいい方法はないかしら。そうだ真理子を殺そう、殺してすぐに金原仙人を思う。そして転生する。そうすれば一石二鳥だわ。どうやって殺そうかしら、その前にコーヒーを淹れさせようか、「温い、作り直して」なんて床に溢して駄目だししちゃおうかな。私は翌日普通に出社しました。席について二時間、そろそろ吉木真理子が声を掛けて来る時間。あれ、自分でポットを持って来ている。私はほぼノルマを終えている。後は五時まで無駄な時間を過ごす。グラフを見たり、少し直したり、意味のない作業を続ける。暇だ、お尻も痛い。
「吉木さん、コーヒー淹れましょうか?」
「ありがとうでも彼がポット持たせてくれたの。三杯分のコーヒー」
 彼何て嘘よ、誰があんたと付き合うひとなんているわけないでしょ。きっと自分で用意したんだわ。
「誰かコーヒー飲む人いませんか?」
 みんな手を挙げない。私の作るコーヒーに問題でもあったのでしょうか。
「どうして、どうしてコーヒー飲まないの?」
「時田さん、時田さんらしくありませんよ。何時も美味しいコーヒーに感謝していますよ。でもみんな我慢しているわけじゃありません。お願いする時はお願いしますから。ありがとうございます」
 武田がいつもの調子で言った。
「西川さんコーヒーは?」
「今要らない」
 西川らしいずっけんどん、でもどうして、こんなことは私がこの席について初めてのことだわ。十年間耐えてきたこのポジション、嫌で嫌でもう退社まで考えたこの席、でもなぜかコーヒーを頼まれないと気になる。頼んでよ誰か、コーヒーを入れてくれって命令でもいいからさ、お願い頼んで、もうこんなの嫌、お願い私を転生させて。
「心が決まりましたか?」
 金原仙人が訪ねて来ました。レンジでお酒をチンしました。蕎麦も冷蔵庫に作り置きしています。さっと冷水で梳いて盛り付けました。
「足りなきゃいくらでもあるから」
「どうしたんですか、膨れっ面して、いい女が台無しですよ」
「金原さんさ、年の割におやじっぽいよね台詞回しとか」
 今夜どうなってもいい、見た目可愛いこの仙人とベッドインもいい。
「その気になれません。実は僕は五十年の修行の末に仙人になりました。ですから人間でいれば六十五です。アッチもその感覚ですから若い人みたいにズコーンとはいかない」
 がっかり、道理で喋りが親父臭いと思った。
「それは失礼しました。ところで今夜は決心されましたか。実は思いが二つ届いていましてそちらも急がなければならない」
「あたしを三か月前に戻して欲しいの。いままで嫌々入れていたコーヒーを美味しく飲ませて上げたいの、生涯悔いが残りそうだから」
 金原仙人は頷いた。
「三か月なら私のプレゼントで何とかしましょう、寿命から差し引きはないよう誤魔化しましょう」
 そう言って私の額に指を広げて掌をあてがいました。そっと当てているのに逃げられない。脳の中に指が侵入する感じ。
「船酔いを感じますよ」
 
「おはようございます」
 私は頼まれないのに全員にコーヒーを入れた。
「美味しい」
「美味い」
 お昼休みにメモ書きが机にありました。
『今夜、食事に付き合ってください。仲代』
 そして二年が過ぎました。
「おめでとう時田さん、仲代君」
 私達の結婚を祝して吉木さんが花束贈呈をしてくれました。


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