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小頭はBL 17
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「うわわっ」
五十にしてこんな快感を味わうことがあるとは夢にも思わなかった。足を鉄男の胴に絡ませ奥まで挿し込んだ。
「ご主人、あたしの尻穴にローションを塗ってください。シトラスやミント系の液体だと沁みるのでクリーム状のにしてください」
「あいよ、適したのがあります。お子様用のでね、バナナの香りがするやさしいクリームです」
主人が指に取り鉄男の尻穴に塗り込む。肌を扱う商売だけにその技術は鉄男の身体をよじらせた。
「ご主人、入れて」
鉄男も我慢出来ない。
「ふうっわっ」
主人が鉄男の腹を抱え突っ込んだ。ローションがたっぷり回っているのですんなりと沈んで行く。主人が腰を振る度にバナナの甘い香りがする。
「ほら女将さん、ご主人が私の尻穴にモノを入れましたよ」
「ああっあんた~」
「ご主人、女将さんが私のモノを入れて悶えていますよ」
「おおっお前~」
二人の罪の意識が更に興奮度を上げた。鉄男もその狭間にあり直に伝わる。サインポールは回っていないが店に灯があるので客がドアを叩いた。
「すいません、裏の鈴木ですけど、まだやっていますか?実は明日通夜に参列することになりまして」
客は耳を澄ませて返事を待った。
「ああ、あんた鈴木さんだよ」
家族全員が利用客である。いつでもどうぞと伝えてある。
「今はちょっと~。三十分後にどうぞ~」
「はあ~い」
主人の口調に合わせて返事をして戻った。
もうじき夜が明ける。晃はまだ戻っていない。晶子も尚子も電話の前で一晩を明かした。健司は大工の棟梁と二人で心当たりを探っていたが柴田が立ち寄った形跡はない。
「棟梁、藤沢の新地でうちの後藤さんが張ってる。行ってみましょう」
新地には柴田の女がいる。もうここに来なければ捕まらないかもしれないと健司は焦っていた。晃はどうでもいい、晶子と尚子の行く末が気になった。
「この店です」
健司が車から降りて公衆電話に走った。
「俺です、頭から連絡は」
「ない」
尚子が泣きそうな声で言った。
「後藤さんからは?」
「ない」
「掛け直します」
健司はクラブの外周を回った。まだ開いている店もある。カラオケの声が道路にまで響いている。
「今日は貸切だ」
賑わうスナックから聞き覚えのある声がカラオケの合間に聞こえた。健司はそっとドアを開いた。
「すいません、お客さん、今晩貸切なの。また来てね」
ママらしき年増が満面の笑みで健司を追い払った。カウンターの後ろ姿に身覚えがある。
「小頭」
健司に気付いた後藤が口を開けまま固まっている。
「後藤さん、どうしました?柴田は見つかりましたか?」
返事をしない。健司がボックス席に目をやると住建の柴田が両腕を女の肩に回して笑っていた。健司が近付くと女の肩から手を下ろした。
「柴田さん、お話があります。表に出てくれますか?」
「俺はお前に用はない」
柴田は泥酔に近いが健司の出現で開き直った。
「ここじゃみなさんに迷惑が掛かる。お願いします」
健司が柴田の肩を掴んだ。
「触るんじゃねえよ、こ汚ねえ手でよ。美香行こう、ママタクシー呼んで」
「あらまだいいじゃない、これからよ柴田ちゃん」
ママは柴田の懐具合を察知している。搾り取ってやろうとサービスに余念がない。
「ねえあんた、帰りなさいよ」
ホステスが健司の胸を突いた。また突こうとした腕を払った。ホステスは泥酔で腕を払われた勢いで倒れてしまう。
「あんた、何すんのよ」
ママが怒鳴る。ホステスが電話をしている。
「すいません、触れただけなんだけど、大丈夫かい?」
健司が倒れたホステスを抱え上げる。
「大丈夫、ねえ、このままあたしを連れてって」
健司の容姿に一目惚れしたホステスが抱き付いて離さない。ドアが開いてサングラスの男が二人入って来た。
「おい、兄さん、表に出てくれ」
この店の用心棒を務めるやくざである。みかじめ料はこう言うところで発揮する。仕方なく健司は表に出た。
「困るんだよ兄さん、俺等の立場がねえんだ。このまま引き上げてくれ」
兄い分が健司に凄んだ。
「あんた等に文句はない。だがあの男を許すわけにはいかない」
健司は一歩も引かずに対峙した。
「兄さんはとびか?」
「鎌倉今泉の小松組、その小頭を務める佐藤健司です」
「ほう、しっかりと仁義を切るじゃねえか。その小松組の小頭だろうが俺等の縄張りで暴れる奴は放っておけねえ、それぐらいのことは男を売る商売なら分かるな。兄さんが帰らなきゃ送ってやるよ、暫くは立てねえ身になってよ」
舎弟分が健司の頬を殴った。健司が飛び掛かった。舎弟分に体当たりして倒した。馬乗りになり舎弟分の頬を殴る。その刹那頭に衝撃を受けた。一升瓶で兄い分に叩かれたのである。痛みはあるが我慢強い。頭から血を吹き出しながら兄い分に飛び掛かる。組み付いて腕を捩じ上げた。舎弟分が起き上がり健司の腹部に膝蹴り入れた。健司が蹲る。二人で健司を蹴飛ばした。
「分かったか小松組の小頭よ」
大工の棟梁が車から降りて三人を見ている。
「おいあんた、小頭連れて行け」
兄い分が棟梁に言った。二人が立ち去ろうとした時健司が後ろから跳び蹴りをした。兄い分が弾き飛ばされた。舎弟分に頭から体当たりする。そのまま電柱にぶつかる。兄い分が起き上り健司のダボシャツを掴んだ。
「てめえ」
シャツが千切れて背中の昇り龍が露わになった。
「てめえ筋もんか?」
「俺はとびだ、鱗もんは落ちない、とびには縁起もんだ、そんなことも知らねねのか。わーっ」
健司は兄い分に飛び掛かる。喧嘩の経験はない。ただ仕事で鍛えた力と根性だけはやくざに負けない。殴られ、蹴られても向っていく。
「おい」
着流しの男が声を掛けた。
「会長」
二人は健司から離れて会長に頭を下げた。
「おい兄さん、根性あるな。これだけやるには相当な事情があるんだろ。話しを聞いてやろうじゃねえか」
健司は血だらけの顔を振って起き上がった。
「小頭」
大工の棟梁が健司を支えた。
「私はここいらの店を管理している者だが、暴力は好きじゃない。それに客より店側が悪い時もある。そんな時は仲介してナアナアで誤魔化す。後で店にも注意をする」
会長は健司に近付いて言った。
「店にはなんの用もありません、探している者がいたので慌ててしまい迷惑掛けたと反省しています。その男はうちの不動産を担保にした金を持ち逃げしたんです。それで昨日から必死になって心当たりを捜していたんです。偶然ですがその店にいたんです」
「持ち逃げ、いくらだい?」
健司は金額を言えば横取りされないか不安になった。しかしそんなチンケな男じゃないような気がした。もし横取りされたら死ぬまで抵抗するのみと覚悟をした。
「五千万です。うちの頭が騙されていたんです」
「ほう、そりゃ大金だな」
「その金を失えば、小松組は路頭に迷うことになります」
「そうかい、よく話してくれたな。どうだい、私が仲介に入ろうじゃないか」
棟梁が小さく首を横に振った。増々取り返しが付かないことになると予想したのである。
「お願います」
健司はこの男を信用した。とびとやくざ、稼業は違えど命を張る商売。二人の若い衆も筋を立てた上で健司に暴行した。仁義を弁えていると思った。
「ごめんよ」
会長が店に入る。
「あらま、会長、いらっしゃい」
ママが調子よく出迎えた。
「ママ、盛況のとこ悪いが女の子を帰してやってくれないか」
「そりゃ会長の言い付けじゃそうしますが」
口をとがらせてホステスを帰した。
「ほら、少しだがタクシー代だ」
会長はホステス一人一人に一万円を渡した。
「そこの姐さんは?」
「これは俺の女だ」
柴田が答えた。
「あんたは」
カウンターの後藤に訊いた。
「失礼します」
後藤は店を出た。今晩は最後まで柴田に付き添って警察沙汰にすると脅し半分ほど巻き上げるつもりでいた。
「おい」
会長は若い衆に健司を入れるように声を掛けた。健司の腫れた顔を見て柴田の酔いが一気に醒めた。
「この人から話は聞いた。その鞄にはパクった五千万が入っているそうじゃないか。その金が無ければ困る人がいると聞いたがどうなんですか?」
口調は柔らかいが凄みがある。
「何を馬鹿なことを、これは準備金だ、預かっているだけだよ」
会長は健司を見た。
「柴田さん、黙って小松組の姐さんに返してくれれば俺はそれでいいんだ。頭が考えた夢みたいな話を俺は信じちゃいなかったが、男が決めたことだからそれでいいとも思った。騙された頭が悪いのは仕方ない。だけど残された家族は住むところも失う。どうかお願いだ、返してやってくれ」
健司が土下座して頭を下げた。千切れたダボシャツの下の昇り龍が今にも飛び出しそうだった。柴田が鞄を投げた。
「あんた」
柴田の女が鞄を拾った。
「返すもんかい」
女が胸に抱えた。柴田がそれを毟り取ると女はテーブルに突っ伏して大泣きした。会長が鞄を受け取り健司の腕を掴んで立ち上がらせた。
「小頭、はいよ」
鞄を健司に渡した。健司は受け取り頭を下げた。店を出ると棟梁と後藤が話していた。
「後藤さん、これを姐さんに渡してください」
「小頭、俺のことを」
健司は後藤が柴田と飲んだくれていたことを告げる気はない。
「お願いします。俺は会長に挨拶してタクシーで帰るから、棟梁、後藤さんに付き添ってやってください」
「ああ、小頭、任せてくれ」
後藤だけでは不安があった。二人はバンで小松組に向かった。健司は会長の前に出て改めて一礼をした。
「会長、ありがとうございます。この御恩は決して忘れません」
「ああいいさ、だけど証が欲しいな、一生忘れないって言うさ、お前等帰れ」
二人の若い衆は事務所に戻った。
「どう言うことでしょうか?」
会長の笑みが厭らしい、もしや同類だろうかと感じた。
「ねえ、こっち来て」
会長の口調が変わり健司を路地の裏に誘った。
「あんたカッコいいねえ、男前だしいい身体付きしてるし。ねえダボシャツ脱いで昇り龍をしっかりと見せてちょうだい」
健司は恩ある男に従った。ダボを脱いでも龍の尻尾までは見えない。
五十にしてこんな快感を味わうことがあるとは夢にも思わなかった。足を鉄男の胴に絡ませ奥まで挿し込んだ。
「ご主人、あたしの尻穴にローションを塗ってください。シトラスやミント系の液体だと沁みるのでクリーム状のにしてください」
「あいよ、適したのがあります。お子様用のでね、バナナの香りがするやさしいクリームです」
主人が指に取り鉄男の尻穴に塗り込む。肌を扱う商売だけにその技術は鉄男の身体をよじらせた。
「ご主人、入れて」
鉄男も我慢出来ない。
「ふうっわっ」
主人が鉄男の腹を抱え突っ込んだ。ローションがたっぷり回っているのですんなりと沈んで行く。主人が腰を振る度にバナナの甘い香りがする。
「ほら女将さん、ご主人が私の尻穴にモノを入れましたよ」
「ああっあんた~」
「ご主人、女将さんが私のモノを入れて悶えていますよ」
「おおっお前~」
二人の罪の意識が更に興奮度を上げた。鉄男もその狭間にあり直に伝わる。サインポールは回っていないが店に灯があるので客がドアを叩いた。
「すいません、裏の鈴木ですけど、まだやっていますか?実は明日通夜に参列することになりまして」
客は耳を澄ませて返事を待った。
「ああ、あんた鈴木さんだよ」
家族全員が利用客である。いつでもどうぞと伝えてある。
「今はちょっと~。三十分後にどうぞ~」
「はあ~い」
主人の口調に合わせて返事をして戻った。
もうじき夜が明ける。晃はまだ戻っていない。晶子も尚子も電話の前で一晩を明かした。健司は大工の棟梁と二人で心当たりを探っていたが柴田が立ち寄った形跡はない。
「棟梁、藤沢の新地でうちの後藤さんが張ってる。行ってみましょう」
新地には柴田の女がいる。もうここに来なければ捕まらないかもしれないと健司は焦っていた。晃はどうでもいい、晶子と尚子の行く末が気になった。
「この店です」
健司が車から降りて公衆電話に走った。
「俺です、頭から連絡は」
「ない」
尚子が泣きそうな声で言った。
「後藤さんからは?」
「ない」
「掛け直します」
健司はクラブの外周を回った。まだ開いている店もある。カラオケの声が道路にまで響いている。
「今日は貸切だ」
賑わうスナックから聞き覚えのある声がカラオケの合間に聞こえた。健司はそっとドアを開いた。
「すいません、お客さん、今晩貸切なの。また来てね」
ママらしき年増が満面の笑みで健司を追い払った。カウンターの後ろ姿に身覚えがある。
「小頭」
健司に気付いた後藤が口を開けまま固まっている。
「後藤さん、どうしました?柴田は見つかりましたか?」
返事をしない。健司がボックス席に目をやると住建の柴田が両腕を女の肩に回して笑っていた。健司が近付くと女の肩から手を下ろした。
「柴田さん、お話があります。表に出てくれますか?」
「俺はお前に用はない」
柴田は泥酔に近いが健司の出現で開き直った。
「ここじゃみなさんに迷惑が掛かる。お願いします」
健司が柴田の肩を掴んだ。
「触るんじゃねえよ、こ汚ねえ手でよ。美香行こう、ママタクシー呼んで」
「あらまだいいじゃない、これからよ柴田ちゃん」
ママは柴田の懐具合を察知している。搾り取ってやろうとサービスに余念がない。
「ねえあんた、帰りなさいよ」
ホステスが健司の胸を突いた。また突こうとした腕を払った。ホステスは泥酔で腕を払われた勢いで倒れてしまう。
「あんた、何すんのよ」
ママが怒鳴る。ホステスが電話をしている。
「すいません、触れただけなんだけど、大丈夫かい?」
健司が倒れたホステスを抱え上げる。
「大丈夫、ねえ、このままあたしを連れてって」
健司の容姿に一目惚れしたホステスが抱き付いて離さない。ドアが開いてサングラスの男が二人入って来た。
「おい、兄さん、表に出てくれ」
この店の用心棒を務めるやくざである。みかじめ料はこう言うところで発揮する。仕方なく健司は表に出た。
「困るんだよ兄さん、俺等の立場がねえんだ。このまま引き上げてくれ」
兄い分が健司に凄んだ。
「あんた等に文句はない。だがあの男を許すわけにはいかない」
健司は一歩も引かずに対峙した。
「兄さんはとびか?」
「鎌倉今泉の小松組、その小頭を務める佐藤健司です」
「ほう、しっかりと仁義を切るじゃねえか。その小松組の小頭だろうが俺等の縄張りで暴れる奴は放っておけねえ、それぐらいのことは男を売る商売なら分かるな。兄さんが帰らなきゃ送ってやるよ、暫くは立てねえ身になってよ」
舎弟分が健司の頬を殴った。健司が飛び掛かった。舎弟分に体当たりして倒した。馬乗りになり舎弟分の頬を殴る。その刹那頭に衝撃を受けた。一升瓶で兄い分に叩かれたのである。痛みはあるが我慢強い。頭から血を吹き出しながら兄い分に飛び掛かる。組み付いて腕を捩じ上げた。舎弟分が起き上がり健司の腹部に膝蹴り入れた。健司が蹲る。二人で健司を蹴飛ばした。
「分かったか小松組の小頭よ」
大工の棟梁が車から降りて三人を見ている。
「おいあんた、小頭連れて行け」
兄い分が棟梁に言った。二人が立ち去ろうとした時健司が後ろから跳び蹴りをした。兄い分が弾き飛ばされた。舎弟分に頭から体当たりする。そのまま電柱にぶつかる。兄い分が起き上り健司のダボシャツを掴んだ。
「てめえ」
シャツが千切れて背中の昇り龍が露わになった。
「てめえ筋もんか?」
「俺はとびだ、鱗もんは落ちない、とびには縁起もんだ、そんなことも知らねねのか。わーっ」
健司は兄い分に飛び掛かる。喧嘩の経験はない。ただ仕事で鍛えた力と根性だけはやくざに負けない。殴られ、蹴られても向っていく。
「おい」
着流しの男が声を掛けた。
「会長」
二人は健司から離れて会長に頭を下げた。
「おい兄さん、根性あるな。これだけやるには相当な事情があるんだろ。話しを聞いてやろうじゃねえか」
健司は血だらけの顔を振って起き上がった。
「小頭」
大工の棟梁が健司を支えた。
「私はここいらの店を管理している者だが、暴力は好きじゃない。それに客より店側が悪い時もある。そんな時は仲介してナアナアで誤魔化す。後で店にも注意をする」
会長は健司に近付いて言った。
「店にはなんの用もありません、探している者がいたので慌ててしまい迷惑掛けたと反省しています。その男はうちの不動産を担保にした金を持ち逃げしたんです。それで昨日から必死になって心当たりを捜していたんです。偶然ですがその店にいたんです」
「持ち逃げ、いくらだい?」
健司は金額を言えば横取りされないか不安になった。しかしそんなチンケな男じゃないような気がした。もし横取りされたら死ぬまで抵抗するのみと覚悟をした。
「五千万です。うちの頭が騙されていたんです」
「ほう、そりゃ大金だな」
「その金を失えば、小松組は路頭に迷うことになります」
「そうかい、よく話してくれたな。どうだい、私が仲介に入ろうじゃないか」
棟梁が小さく首を横に振った。増々取り返しが付かないことになると予想したのである。
「お願います」
健司はこの男を信用した。とびとやくざ、稼業は違えど命を張る商売。二人の若い衆も筋を立てた上で健司に暴行した。仁義を弁えていると思った。
「ごめんよ」
会長が店に入る。
「あらま、会長、いらっしゃい」
ママが調子よく出迎えた。
「ママ、盛況のとこ悪いが女の子を帰してやってくれないか」
「そりゃ会長の言い付けじゃそうしますが」
口をとがらせてホステスを帰した。
「ほら、少しだがタクシー代だ」
会長はホステス一人一人に一万円を渡した。
「そこの姐さんは?」
「これは俺の女だ」
柴田が答えた。
「あんたは」
カウンターの後藤に訊いた。
「失礼します」
後藤は店を出た。今晩は最後まで柴田に付き添って警察沙汰にすると脅し半分ほど巻き上げるつもりでいた。
「おい」
会長は若い衆に健司を入れるように声を掛けた。健司の腫れた顔を見て柴田の酔いが一気に醒めた。
「この人から話は聞いた。その鞄にはパクった五千万が入っているそうじゃないか。その金が無ければ困る人がいると聞いたがどうなんですか?」
口調は柔らかいが凄みがある。
「何を馬鹿なことを、これは準備金だ、預かっているだけだよ」
会長は健司を見た。
「柴田さん、黙って小松組の姐さんに返してくれれば俺はそれでいいんだ。頭が考えた夢みたいな話を俺は信じちゃいなかったが、男が決めたことだからそれでいいとも思った。騙された頭が悪いのは仕方ない。だけど残された家族は住むところも失う。どうかお願いだ、返してやってくれ」
健司が土下座して頭を下げた。千切れたダボシャツの下の昇り龍が今にも飛び出しそうだった。柴田が鞄を投げた。
「あんた」
柴田の女が鞄を拾った。
「返すもんかい」
女が胸に抱えた。柴田がそれを毟り取ると女はテーブルに突っ伏して大泣きした。会長が鞄を受け取り健司の腕を掴んで立ち上がらせた。
「小頭、はいよ」
鞄を健司に渡した。健司は受け取り頭を下げた。店を出ると棟梁と後藤が話していた。
「後藤さん、これを姐さんに渡してください」
「小頭、俺のことを」
健司は後藤が柴田と飲んだくれていたことを告げる気はない。
「お願いします。俺は会長に挨拶してタクシーで帰るから、棟梁、後藤さんに付き添ってやってください」
「ああ、小頭、任せてくれ」
後藤だけでは不安があった。二人はバンで小松組に向かった。健司は会長の前に出て改めて一礼をした。
「会長、ありがとうございます。この御恩は決して忘れません」
「ああいいさ、だけど証が欲しいな、一生忘れないって言うさ、お前等帰れ」
二人の若い衆は事務所に戻った。
「どう言うことでしょうか?」
会長の笑みが厭らしい、もしや同類だろうかと感じた。
「ねえ、こっち来て」
会長の口調が変わり健司を路地の裏に誘った。
「あんたカッコいいねえ、男前だしいい身体付きしてるし。ねえダボシャツ脱いで昇り龍をしっかりと見せてちょうだい」
健司は恩ある男に従った。ダボを脱いでも龍の尻尾までは見えない。
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