小頭はBL

壺の蓋政五郎

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小頭はBL 12

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「俺のことはしっかりとけじめを付けます。それより頭。柴田さんとのことはもう一度考え直したてください。お願いします」
 そう言い残して健司は食堂を出た。表に出ると尚子を慰めている晶子と目が合った。健司は一礼してバンに乗り込んだ。
「小頭」
 尚子が晶子から離れてバンの助手席に乗った。
「尚子さん」
「走って、どこまでも走って」
 尚子が静かに言った。晶子が走り出すバンをじっと見つめている。
「姐さんが心配してますよ」
 健司が尚子に優しく言った。
「ねえ、小坪マリーナに行きたい」
 尚子の希望に頷いた。海岸線を走る。人気がある魚屋の前を通過してマリーナ先端の駐車場に停めた。尚子が下りて防波堤に寄り掛かる。健司も隣に並んだ。
「日に焼けるよ、ほら」 
 健司が手拭いを渡した。尚子が姉さん被りで日除けをした。
「ねえ小頭、さっきのこと本当なの?」
 尚子は確認したかった。もしそうであればどうにもならない問題である。尚子が悩んでも性の対象でなければ幸せな家庭など築けるはずもない。父親から健司と一緒になることを望まれ、尚子もそうなるものと信じて待っていた。
「頭の言うことは本当なんだ」
 健司から直接聞く言葉は強烈だった。
「あたしはどうすればいいの?小頭を待っていてどうにかなるの?」
「ごめん」
「ごめんて、あたしの十年はそれで終わり?」
「小松組に来たのが十六の時で、その時ははっきりと分からなかった。ただ女より男に興味があった。実は先代の粋な姿に興奮していた。それから段々若い男に興味が湧いた。若い男を抱きたいと思うようになった。それでもずっと我慢していたんだ。いずれ先代の跡目を継いで尚子さんと一緒になることが現実として見えてくると同時に自分の性壁も鮮明になって来た。もっと早く打ち明ければ尚子さんを苦しめなくて済んだ。だけど小頭と言う立場で町の人達と交流しているうちにそこから逃げ出せなくなってきたんだ。そしてみんなから怪しく思われた。それでも必死に誤魔化して男の稼業を売っていた。馬鹿だよなあ、いつまでも誤魔化せるわけがないのにさ。後藤さんは目聡いし勘もいいから俺のことはずっと疑っていたんだと思う」
 健司は防波堤に上り海を見て座った。
「あたしも座りたい」
 健司が引き上げた。二人で並んで座った。
「あたしの学生時代の友達にレスビアンの子がいた。その子もすごく悩んでいた。でもあたしはその子がおかしいなんて感じなかった。むしろその子といるのが楽しかった。もし小頭が初めからホモだと知っていればあたしは普通に付き合えた。ただ、ずっと自分の旦那さんになる人と決めていたからショックは大きいわ。でももういいの。小頭からはっきり言われてなんかすっきりした」
 尚子はさっきまでの落ち込んだ気持ちが潮風に溶けていくのを感じた。ここに来てよかった。
「俺は今泉を出て行くよ。子供達も近寄らないだろうし、年寄りには刺激が強過ぎる。それに神輿同好会のメンバーも俺がこれじゃ集まらないだろう。どこか他の町で生きていくよ。尚子さんは?」
 太陽が頭のてっぺんに昇った。二人は車に戻った。エアコンを強にして走り出した。
「小頭、変な質問だけど本当に男にしか性欲が湧かないの?あたしが求めても駄目なの?」
「多分」
「多分じゃ分からない、それで駄目ならあたし諦める。ねえあたしを抱いて下さい。もし、もしもよ、あたしで性欲が少しでも湧いたなら結婚しよう。結婚しなくてもいい、小頭の子が欲しいの。小頭との子を育てたいの。絶対いい子になると思うの。弱い者虐めを助ける子、年寄りに席を譲る子、そんな子が自分の子でいると思うだけで嬉しくなるの」
 尚子は照れて車窓に目を移した。

 鉄男は店で商品を補充していた。健司のモノが目に焼き付いている。
「すいません」
 レジに客が並んでいたのに気が付かないでいた。慌ててレジに入り対応した。
「何か悩み事でもあるのかな」
 店長の土井が鉄男を心配した。
「いえ、何でもありません」
「そう、それならいいけど、小松組が廃業するって話で持ち切りだから。小頭と遅くまで君が一緒だと聞いたからつい心配になって」
「えっ、私は知りません」
 鉄男はとぼけた。
「こんなちっちゃな町だからさ、すぐに情報は入るんだよ。それにとび小松組と言えばこの町の代表的な存在だからさ。それが急に廃業するなんて何かあったに違いない」
 土井は鉄男が健司と深夜までいた事実を配達先の宅から聞いていた。自治会館の斜向かいの家である。
「小頭と車の前で抱き合っていたそうじゃないか。もしそれが事実なら君を雇っていることは出来なくなる」
「そんなことありません」
「見た人から聞いたんだ」
 土井の言葉は確証を掴んでいる。鉄男は反論出来なかった。
「もし、私が小頭を愛していたらいけないんですか?」
 鉄男は開き直って訊ねてみた。
「私は君の性についてとやかく言うつもりはないんだ。ただこの町の小頭とそう言う関係になられては困る」
「どうしてですか?お互いが愛し合っていれば男同士でもいいじゃありませんか。店長は私のことを理解してくれた上で雇ってくれました。私も好きな人が出来れば性欲も湧きます。おかしいでしょうか?」
 鉄男は土井が理解者であると信じていた。
「君が他の男と関係を持つのは一向に構わないさ。君の人生だ、私にとやかく言う権利はない。でも小頭は駄目なんだよ」
「どうしてですか?」
「町で生きていく上での約束事みたいなもんさ。自分の家族と町の主要な人物とは関わらないで欲しい。波風を立てたくない。それがちっぽけな店主の生きる術だよ」
 土井は体裁を気にしていた。鉄男と小頭の関係が発覚すれば店の売り上げに大きく影響する。『気持ち悪い』ホモの店員と触れたくない。そんな風評が広がれば村八分になる。
「分かりました。私、今日限りで辞めさせていただきます。ありがとうございました」
「おい、鉄男君」
 呼び止める土井を背に店を飛び出した。アパートに戻れば土井が訪ねて来るだろう。今は誰とも話したくなかった。目を瞑れば健司のモノが浮かぶ。歩いているといつの間にか健円寺に来ていた。
「どうかなされましたかな?」
 鉄男が山門を跨ぐと尼僧に声を掛けられた。鉄男は逃げるように尼僧から離れた。
「まあ茶でもどうです。落ち着きますよ」
 尼僧に呼び止められた。柔らかく優しい深い気が声から染み出ているように感じた。
「何も話さなくてもいいんですよ、じっと尼僧の所作や茶の味わいを感じてくれればいいのです」
 鉄男が立ち止まると「さあ」と尼僧が歩き始めた。その後を鉄男がついて歩く。小さな門には妙義庵と書かれていた。鉄男に声を掛けた尼僧は小松組で裏の山切を請け負った健円寺塔頭妙義庵の安寿だった。安寿はこの男の性に興味を持って声を掛けた。容姿だけでは男女どちらとも思われる。悩みがあれば聞き出して仏の力で解決させる。と思わせて手懐けてしまおうと考えた。
「さあどうぞ」
 鉄男は頷いて框を跨いだ。
「私、無作法で何も分かりません」
 初めて鉄男が喋った。安寿は声で男であることを確信した。
「作法なんてそれほど重要じゃないの。生きることを見出すことが作法になるのよ」
 安寿が本尊の前に一礼した。鉄男もそれに倣った。
「ほら、ちゃんと作法が分かっているじゃない。尼僧が礼をすればあなたも真似る。そうやって仏様に近付いて行くのよ。あなたは何か仏教のことを考えたことがありますか」
「鎌倉に越して来て半月が経ちました。色々理由はあるんですけど、鎌倉のこんな雰囲気が好きで越して来ました。古本屋に般若心経があったのでそれを読んでいます。一語一語の意味なんかよくわからないけど、読んでいるうちに落ち着くので続けています」
 何故か安寿の前だと躊躇わずに話せた。
「そう、素晴らしいわ」
「すいませんけど、ここはお寺なんでしょうか?」
 鉄男の質問に微笑んだ。
「ここは庵でお寺じゃないのよ、でも大きなお寺の中にあるでしょ、仏に仕える身としては同じだと思います。狭いけどお寺と同じ造りにしているの。尼僧の位置が内陣、あなたの座っているところが外陣、小さな千手観音が見えるでしょ、ここの本尊なの」
 寺の中に足を踏み入れたことのない鉄男は不思議な顔で頷いた。
「そうだ、般若心経を読経しましょう。繰り返し続けますからあなたも加わってください」
 安寿が読経を始める。ただ読み上げるのではなく、一語一音の意味を唱えている。安寿の滑らかな発声方に鉄男は船酔いに似た感覚を覚えた。

 バンが大船の連れ込みホテルに入った。健司は初めてである。バンには小松組の看板があるので恥ずかしかったが尚子の誘いを断れなかった。
「休憩でお願いします」
 健司がフロントに金を渡した。二階の部屋に上がると窓の外は大船の飲み屋街である。
「シャワー浴びて来る」
 尚子が顔を赤くして言った。健司は尚子に恥をかかせたくなかった。しかし尚子の裸体を見ても感じることはない。尚子にモノを握られても興奮することはないだろう。期待を持たせずに自宅まで送り届ければよかったと反省した。尚子がバスルームから出て来た。健司が交代で入る。シャワーを浴びながらしごいた。尚子のことを考えて集中したが気はモノへ伝わらない。健司はバスロープを羽織ってベッドに横向きに寝ている尚子の横に入った。尚子が寝返りを打って健司に抱き付いた。興奮している。健司に触れられるだけで果ててしまいそうである。
「お願い、好きにして」
 健司は女と同じベッドに上がったのは初めてである。先日、安寿の悪霊払いで女の秘部を生まれて初めて目の前にした。その時は康介の尻穴と勃起に興奮していたから自分のモノも元気だった。あれが安寿一人ではやはり何も感じなかった違いない。
「尚子さん、触るよ」
 いかにも自分が経験者であるかのように言った。尚子には経験がある。高校時代の同級生と経験した。それから複数回あったが健司が許嫁になってからは我慢していた。自慰に耽るも健司の容姿を思い浮かべていた。その健司が乳首に触れた。のけ反る尚子に健司が驚いた。
「もみもみ」 
 死にはしないだろうかと心配になり笑わそうと口に出した。笑うどころか尚子ののけ反りは増々激しくなった。宇宙人のような言葉を発している。そう言えば安寿が康介に股間を舐めさせていた。安寿が腰を振って喜んでいた。やってみようか。康介は尚子を仰向けに寝かせた。足を広げて股間に顔を埋めた。女の構造はよく分からない。尻穴と割れ目の真ん中にあるとしか知識がない。
「ここ?」
「そこ」
「これは?」
「それも」
 舐める度に確認する。
「じゃここね?」
 尚子の背の反りが一番激しくなるところを舐め続ける。湿地が嵩を増して沼になった。尚子の声は窓から飛び出して大船の繁華街まで届いたと思った。
「尚子さん」
 全身の震えが収まらない尚子が心配になった。呼吸が正常になるまで五分掛った。
「大丈夫?」
 尚子が頷いた。
「今度は私」
 健司のモノをしごいた。健司も尚子に恥をかかせてはいけないと集中するがモノには通じない。今度は健司を仰向けに寝かせてモノを咥えた。だらしないモノは幾らか反応するだけだった。それでも必死にしゃぶり続ける。十五分が経った。
「ごめん」
 健司が謝ると尚子は頷いた。
「いいのよ、これで小頭の性が分かった。でも私は小頭に触れられるだけで感じるの。十年分の罪として私を楽しませて」
 尚子は健司の手や舌だけでオルガスムスを楽しめる。健司はそれだけならお安いご用と何度も尚子の性欲を満足させた。
「ありがとう、これで小頭から吹っ切れる」
「何て答えたらいいか」
 尚子が健司に寄り添う。テレビのスイッチを入れた。
「アダルト放送がある。観てもいい?」
「ああ、俺も初めてだ」
「どれがいい?」
 タイトルに『薔薇の噴水』とあるのを健司が目にした。おかまは薔薇族と聞いたことがある。もしかしてと思いそれを再生する。健司の予想が当たった。高校生と教師の関係がテーマのドラマである。教師はおかま、教え子を予習だと嘘を吐いて自宅に連れ帰る。
『どうしてあんな問題が解けないのかね』
 教師がか細い生徒を叱る。
『あれが解けなければ今夜は返さないぞ、ご両親に電話をしておく』
 実際に電話をして大学進学のためと親を納得させた。
『先生、暑いんですけど』
 エアコンがない自宅アパート、額に汗を貯める生徒が言った。
『脱ぎなさい』
 学生は素肌にワイシャツである。べとついたワイシャツをハンガーにかけた。
『よし、私も脱ごう』
 教師はシャツを脱ぎベルトを外しズボンまで脱いだ。黄色い染みが付いたブリーフ一枚になる。その窓から教師のモノが顔を出し始める。生徒がそれを見て慄いた。
 
  
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