秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

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 その後、私の実家に行った。レストランを出た時に連絡を入れていたので、到着すると両親がすぐに玄関先で駿さんたちを迎え入れた。
 挨拶をし合い、リビングのソファに座ると、お父さんは少し緊張した面持ちで、お母さんは、予想はしていたが美男美女が揃った駿さん一家にやはり目を輝かせていた。
 改めてお互いの自己紹介が一通り終わると、駿さんが口を開いた。
 「本日、両親共々お伺いいたしましたのは、私と美沙絵さんは、12月24日に入籍をすることに決めまして、そのご報告とお許しをいただくためです」 
 「えっ? 24日って…来月…」
 さすがにお父さんは驚いていた。
 「…実は、もう1つお伝えしなければいけないことがありまして…。先日、美沙絵さんが学生にしつこく言い寄られて交際を迫られるということがありました。その学生というのが、私のいとこだったのです」
 駿さんのご両親が「えっ!」と目を見開いた。
 「駿、どういうことだ!? いとこって…正樹のことか?」
 駿さんが頷いた。
 お義母様は自分の妹の子どもと知って顔を青ざめた。
 「駿、ちゃんと説明しなさい!」
 「父さん、母さん、黙っていてすみませんでした。美沙絵さんのご両親の前できちんとお話をしたかったのです」
 「あの、駿さん、もう解決したんですから…」
 「いや、そういう訳にはいかない」
 駿さんがあの一件を最初から説明した。
 「正樹にはしっかりと灸を据えましたし彼も十分反省していましたが、美沙絵さんを危険な目に遭わせてしまいまして大変申し訳ございませんでした」
 深く両親に頭を深く下げると、
 「…っ、そんなことがあったなんて…。知らなかったとは言え、我々からも深くお詫びいたします。美沙絵さん、お父様、お母様、甥が大変失礼なことをいたしまして誠に申し訳ありませんでした。正樹本人や両親には我々からもきつく注意いたしますので、どうかお許しください」
 お義父様、お義母様まで同じように謝罪した。
 「あ、あの、皆様、頭を上げてください。お父さん、お母さん、そんな大したことじゃなかったの! 別に危害を加えられたわけでもないし、駿さんがきちんと諭してくれたから内田君も分かってくれたし、本当に解決したから安心して。お義父様、お義母様、そういうことですので先方には何もおっしゃらないでください、お願いいたします」
 私が必死に伝えると、両親が頷いた。
 「娘がそう言っているのだから、もうお終いにしましょう。先生、隠さずに正直に話してくれてありがとうございます」
 駿さんとご両親が少し表情を和らげた。
 「こちらこそ、お2人の寛大なお心に深く感謝申し上げます。実は、美沙絵さんに結婚を急がせてしまったのは、この件で私が不安になってしまい、彼女を他の男に取られてはならない、早く彼女の夫という立場になりたいという、私の勝手な独占欲とわがままからなのです」
 「駿さん、私、急かされたなんて思っていません。自分の意思で決めたんです。お父さん、お母さん、この前、結婚も好きにすればいい、って言ってくれたよね? お互いに仕事をしていて、駿さんは教師として忙しい毎日を送っているから思うように会えないことが多い。でも、結婚すれば忙しくても家で毎日顔が見られる、少しの時間だけでも一緒にいられる。これから駿さんと生活していくのがすごく楽しみなの。駿さんのご両親も快く私を歓迎してくれました。だから、結婚していいよね?」
 「美沙絵さんを必ず幸せにすると誓います。どうか、美沙絵さんと結婚させてください、お願いいたします」
 お母さんがお父さんに問いかけるような目を向けると、お父さんが静かに言った。
 「…分かりました。先生、お父様、お母様、娘をどうぞよろしくお願いいたします」
 「美沙絵、おめでとう…先生と幸せになるのよ」
 両親の言葉に私と駿さんは笑顔で顔を見合わせた。
 「ありがとうございます」
 「ありがとう、お父さん、お母さん!」  
 「こちらこそ駿をどうぞよろしくお願いいたします」

 私たちは、とりあえず先に入籍だけして、私の希望で式や披露宴はなしで後日ウェディング写真だけ撮った後にお互いの親族のみで食事会をする、新居は次の駿さんの転勤が決まるまでとりあえず駿さんのマンションに住むことにしたと双方に伝えた。いわゆる「地味婚」に、駿さんのご両親が私が遠慮してそう言っているのではないかと気にしていたが、私が派手なことが苦手だと知っている両親は特に何も言わなかった。最終的には、結婚するのはあなたたちなのだから2人が好きなようにすればいいと、どちらも私たちの気持ちを尊重してくれた。
 
 話がまとまってホッとしていると、「ただいま~」という声が玄関から聞こえ、リビングに入ってきたのは弟の剛だった。私たちを見ると驚いてその場で固まった。
 お母さんが慌てたように言った。
 「ちょっと! 帰ってくるなら連絡しなさいよ。…失礼いたしました、この子は美沙絵の弟の剛といいます。剛、こちらは美沙絵の婚約者の海堂駿先生とご両親よ。ちゃんとご挨拶しなさい」
 お母さんに促されて我に返った剛が緊張の面持ちで挨拶をした。
 「は、初めまして、弟の、つ、剛です」
 慌てて頭を下げた剛に、駿さんとご両親も頭を下げると、駿さんがにこやかに言った。
 「剛君、こんにちは。藤崎小学校でお姉さんの担任だった海堂です」
 剛はマジマジと駿さんを見つめた。
 「…やっぱり、海堂先生ですよね!? 俺、先生が藤崎小に来た時、3年生だったけど覚えています。女子がキャーキャー言ってたし。姉が卒業した後、4年2組の担任でしたよね? 俺は3組だったんですけど、クラスの女子が先生が担任じゃなくてガッカリしてましたから。でも、先生、なんでウチに…?」 
 そこで剛は、お母さんが駿さんを私の婚約者だと紹介したことに気づいて、
 「えっ、あの、どういうこと!? 先生が姉ちゃんの婚約者って…えっ、2人は結婚するの!」
 混乱した剛に駿さんがこれまでの経緯を簡単に説明した。剛は口をポカンとさせていた。
 「…ちょっと、いきなりすぎてまだ頭が追いついていないんだけど…。とにかく来月入籍するんだね…おめでとうございます…。姉のこと、よろしくお願いします」
 「ありがとう、剛君。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
 「…ってことは先生が俺の義理の兄になるんですよね…うわぁ…信じられない…」
 「俺は一人っ子だから、弟ができて嬉しいよ」
 そこでお母さんが満面の笑みで言った。
 「剛、よかったわね、私も嬉しくて! だってこんな素敵な人たちが私たちの親族になるのよ! さっきからもう言いたくてウズウズしていたんだけど、お父様とお母様も本当に美男美女で、ご家族全員芸能人みたい! 私、鼻が高いわ!」
 ああ…やっぱり言っちゃったか…。お母さんのはしゃぎっぷりにお父さんは恥ずかしそうに俯き、剛は呆れ、駿さんのご両親は目を丸くしていた…。
 駿さんが堪えきれなくなり吹き出した。
 「ハハハッ! 本当にお義母さんは楽しい人ですね! ありがとうございます、こんなに私たちを歓迎してくださいましてとても嬉しいです」
 「私、美沙絵ちゃんのお母様とももっと仲良くなりたいわ! 今度女同士3人でどこかに行きましょう!」
 「ええ! ぜひ、よろしくお願いします!」
 母親同士が初対面ながらすっかり意気投合していた。それを機に父親同士も会話が弾み、剛と駿さんも当時の話や剛の大学のことで盛り上がっていて、リビングがとても賑やかになった。
 
 私はそんな光景を微笑ましく見つめながら、お茶を入れ直そうと立ち上がりキッチンに向かった。

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