秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

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 コンロとレンジをフル稼働させて、何とか料理を作り上げた。揚げ出し豆腐、ほうれん草の胡麻和え、野菜のマリネ、茹豚と長ネギの中華ドレッシング和え、大根と手羽先の煮物、焼き鮭、そして駿さんのリクエストでひじきの炒め煮を作った。駿さんに渡す分は粗熱を取ってからそれぞれタッパーに詰めた。今夜出す分は食べる前に温め直せばいい。時計を見るともうすぐ18時。先ほど駿さんから連絡が来て、一旦戻って着替えてから来るとのことなので到着は18時半頃かな。
 
 ああ、来月結婚か…。この夢のような展開に驚くばかりだ。あんなカッコよくて優しくて素敵な人が私の旦那様になるなんて…。
 入籍のみといっても、話し合って決めなければならないことや、やることがたくさんあるだろう。これから忙しくなりそうだ。何日か有休を申請しよう。
 それよりもまず明日のことだ。うちの両親はともかく、駿さんのご両親に初めてお会いする…緊張で胸が痛い…。お父様はもう定年退職されているが、駿さんと同じく小学校の教師だったと聞いている。お母様は結婚前は保育士をしていたそうだが、結婚を機に専業主婦になったそうだ。私たちの結婚には全く反対していないと駿さんは言っていたが、本当にまだ社会人になりたてのこんな私を受け入れてくれるかな…。それに、相手が元教え子ということでまた駿さんがうちのお父さんに言われたようなことをご両親にも言われたのではないだろうか…。もしそうなら、駿さんの名誉のために私の口からちゃんとご両親に説明しなければ。
 
 そんなことを考えていると、ピンポーンとチャイムが鳴ったので、急いでドアを開けた。
 「おかえりなさい。お仕事お疲れさまでした」
 笑顔で迎え入れると、駿さんが一瞬固まった後、最大級の笑みを浮かべたので、思わす見惚れてしまった…。
 「ただいま。…ああ、すごく嬉しい…美沙絵に笑顔で『おかえりなさい』って言ってもらえて…。仕事の疲れが吹き飛ぶよ」
 「私も『ただいま』って言って帰ってきてくれて嬉しいです。夕飯の支度はもうできていますのですぐに出しますね」
 
 おかずを温め直してテーブルに並べ、最後に具沢山の味噌汁と炊き立てのご飯を置くと、駿さんが目を見張った。
 「…すごいな、メチャクチャ旨そうだ…。これ、帰ってきてから全部作ったのか…?」
 「はい、何とかできました。でもお渡しするおかずもほとんど同じものなんです…すみません」
 「何で謝るんだ。またこれが家で食べられるなんて感激だよ。大変だっただろうに、本当にありがとう」
 
 食べ始めると、駿さんがおかずを口に入れる度に美味しい、美味しいを連発する。嬉しかったが気恥ずかしくもあった。そして前回同様、全て残さずきれいに食べてくれた。  
 「…ああ、今日も旨かった…ごちそうさまでした」
 駿さんが手を合わせて頭を下げると、立ち上がって食器類をキッチンのシンクに運び始めた。慌てて立ち上げると、
 「後片付けは俺がやるからお前はゆっくりしてろ」 
 「いえ、私がやりますので」
 「結婚したら家事を分担する約束だろ。俺は料理のレパートリーが少ないし美沙絵の料理は本当に旨いから、できれば料理は美沙絵にメインにしてもらいたい。その代わり後片付けは俺がする。それでも構わないか?」
 「…はい。ではお願いします…」
 
 食後にお茶を飲みながら、今後のことを再び話し合った。
 私は結婚後も今までと変わらず仕事を続ける。子どもは時機を見て考えることにして、しばらくの間は2人だけの生活を楽しむ。新居は、最初は駿さんのマンションに住むが、また2、3年後に駿さんが別の学校に赴任になるタイミングで家を買うことが決まった。家事の分担は、とりあえず料理は私で後片付けは駿さんとなったが、共働きなのでお互いにやれることは自分でやり、最初からキッチリと決めすぎずに臨機応変にやろうということになった。
 「美沙絵、俺のつまらない嫉妬や不安で結婚を急がせて、これから色々と面倒や負担をかけさせてしまうことは本当に申し訳なく思っている。それに、式もすぐに挙げられずに新婚旅行も当分先になってしまう。それでも俺はお前が結婚を受け入れてくれたことに心から感謝している。本当に後悔しないか…?」
 「謝らないでください。後悔なんてしません。最初にプロポーズされた時から気持ちは変わっていませんし、それに…今朝一緒に朝ごはんを食べていた時、ああ、毎日こうして駿さんと過ごせたら幸せだろうなって思ったんです。あと、実を言うと、元々私は晴れがましいことが苦手でして…なので私自身は式を挙げなくても構わないんですが…。例えばフォトウェディングにして親族だけで食事会にするとかでも。旅行だって行ける時に行けばいいですし。駿さんと毎日楽しく笑いあって、お互いに助け合いながら支え合いながら、ささやかに暮らせれば十分です」
 黙って聞いていた駿さんが、私の頬を手で包み込んだ。
 「…ああ…美沙絵…ありがとう…俺は本当に幸せ者だ…」
 駿さんにそっと抱き寄せられる。そして、体を離して私の手を握ると表情を引き締めた。
 「改めてもう一度言わせてくれ。…結城美沙絵さん、あなたを心から愛しています。俺を選んでくれて本当にありがとう…あなたを生涯幸せにすると誓います。俺と結婚してください」
 「っ…!」
 またこんなプロポーズをされてしまったら、涙が溢れてしまう…。
 声を詰まらせながら私も言った。
 「…海堂駿さん…私は、あなたと再会できたことを、心から神様に感謝、しています。そして、私の願いが叶って、初恋のあなたと、結ばれて、とても、幸せです…。こちらこそ、本当に、ありがとうございます。私も、心から、愛しています…。私も、あなたを、幸せにすると、誓います。私と結婚、して、ください…」
 駿さんがまたさっきのような心を蕩けされるような笑顔になった。
 「はい。一緒に幸せになろうな」

 私たちは、互いの愛や存在の大切さ、尊さをしっかりと噛み締めながら、いつまでも抱き合っていた。

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