秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

文字の大きさ
上 下
40 / 54

40

しおりを挟む
 
 カーテンの隙間から差し込む白い光を感じ、ゆっくりと目を開けた。
 んん…、えっ、もう朝…!? 顔が一気にボンッと真っ赤になる。うぁぁぁぁ~朝まで眠りこけてしまうとは…。うぅ…もう恥ずかしすぎる…。
 しばらく身悶えていると、寝室のドアがそっと開いた。
 「…美沙絵、起きたのか…?」
 駿さんが入ってきてベッドの脇に腰かけて私の頭を撫でる。
 「おはよう。体は大丈夫か…?」
 「おはようございます…。体は何ともありません。あの、そのまま眠ってしまってすみませんでした…」
 「謝ることないよ。正樹のことがストレスで疲れがたまっていたのかもしれないし、それに…お前をヘトヘトにさせて動けなくしたのは俺だからな」
 「…っ、後半の方は…当たっているかも…」  
 駿さんが笑った。
 「ハハッ! ごめん、次からは少し抑えるようにする…」
 赤くなって俯く私の頬に駿さんが手を添えるとそっとキスをした。
 「…ん」
 「さ、シャワー浴びたければ浴びてこい。その間に朝メシの用意をしておくから」

 シャワーを浴びた後、昨日コンビニで買っておいたサンドウィッチ類の他に、駿さんが目玉焼きとサラダを作ってくれた。後は牛乳をグラスに注げば立派な朝食の完成だ。
 こんなものしか用意できなくて申し訳ない、と謝られたが、普段朝はあまり食べられないのでこれで十分だった。それより、駿さんと朝から一緒に食卓を囲めるなんて幸せ…。思わず口元が緩む。駿さんも私を見つめて微笑んでいる。ああ、本当に素敵な笑顔…。
 他愛のないおしゃべりをしながらの食事は楽しく、こんな日々をずっと一緒に過ごせたらいいなと思った。
 
 食事の後、身支度を整えた私は駿さんに尋ねた。
 「今日、帰りは何時頃になりますか?」
 「そうだな…たぶん5時頃かな」
 「分かりました。実は、今日元々駿さんに何品かおかずを作って渡そうと思っていたんです。忙しくてもチンすれば食べられるものを」
 「えっ、そうだったのか。嬉しいけど、大変じゃないか…?」
 「いえ、よく休みの日にまとめて作り置きのおかずを色々作っているんです。1人分も2人分も手間は一緒ですから」
 「そうか…じゃあお言葉に甘えようかな。正直すごくありがたい。もちろん、材料費は俺が全部出すから、よろしく頼む」
 自分用にも作るのだからお金はいらない、と断っても、手間を掛けさせるんだから出させてくれ、と強く言われてしまったので、仕方なく受け入れた。ついでに夕飯も作ってごちそうすることにしたので、駿さんが帰りに直接私の部屋に来てくれることになった。よし、この前のリベンジじゃないけど、おいしいと言ってもらえるように頑張って作ろう。
 駿さん淹れてくれたコーヒーを美味しく味わいながら飲んでいると、駿さんが隣に座った。
 「ちょっと話したいことがあるんだ」
 「…? はい、何でしょうか」
 
 ……胸が一杯になった。
 同世代の男性が多くいる職場環境の中で私がもしまた他の男の人に目を付けられたり危険な目に遭ったりしたら、と想像するだけで居ても立ってもいられなくなるほど不安になってしまったことなどを、辛そうな表情で話す駿さん…。
 「急かすつもりはなかったしお前の意思を尊重しようと思っていたが…。できれば俺はすぐにでもお前の夫という公的な立場がほしい。そうすれば少しは不安がなくなるかもしれない。もちろん、理由はこれだけじゃない。今更言うまでもないが、心からお前を愛しているしこれからの人生を一緒に歩める相手はお前しかいないと思っているからだ」
 そこでふぅ…と軽く息を吐いてから私の手を握る。
 「俺の気持ちは全て話した。お前の気持ちを改めて聞かせてくれないか」 
 
 私の気持ち…。
 もちろん、駿さんと結婚する意志は変わってない。ただ、正直もう少し先のことだと思っていたのも事実だ。でも駿さんの不安な気持ちや、本当に私を人生の伴侶として求めてくれていることを改めて知って、心が大きく揺さぶられた。それに、さっき一緒に楽しく食事をしていた時、こんな日々をずっと過ごせたらいいなと思ったばかりじゃない…これって…。
 もう既に結論は出ていたのだ。
 私はニッコリと笑った。
 「駿さん…いつ婚姻届を出しに行きましょうか?」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...