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しおりを挟む「…今夜、このまま泊っていったら?」
唇が離れると、私の髪を撫でながら駿さんが言った。
「えっ…でも何も泊まる準備が…」
「必要なものは買えばいいし、着替えはまた俺のを貸す。正樹のせいで心労をかけさせてしまったし、今夜だけはお前を1人にさせたくないんだ。明日は午後から学校に行かなければならないんだが、午前中はゆっくりできるから…」
内田君のことは駿さんのせいじゃないのに…。でもその気持ちが嬉しかった。それに私もまだ駿さんのそばにいたかったし、少しでも長く一緒に過ごしたかった。
「…分かりました、泊まります」
「よかった…! ああ…安心したら腹が減ったな…。どこかに食べに行くか?」
「私もお腹ペコペコです。材料があれば、簡単なものでしたら作りますよ」
ちょっと待って、と駿さんがキッチンに行って冷蔵庫を開けて中身を確認する。
「ネギと卵、残ってるご飯があるから、俺がチャーハンを作るよ。それでいいか?」
「それなら私が作ります」
「いや、俺に任せろ。チャーハンは得意なんだ」
「そうなんですか。では駿さんにお任せします。あ、じゃあその前にそこのコンビニで買い物してきます」
「俺も一緒に行くよ」
「大丈夫ですよ。すぐそばだし、この時間ならまだ人通りも多いですから。ちゃんとスマホも持っていきますから」
「…そうか、すぐ戻って来いよ」
「はい。では行ってきます」
コンビニに入ると、まずはこの前買ったのと同じトラベルセットを手に取る。そして女性用下着が置いてあるコーナーに目を向けた。コンビニで下着を買うのは初めてだし恥ずかしかったが、ブラはまだ我慢できても、さすがに下着は翌日も同じものを穿くのは抵抗があった。シンプルで可愛げのないデザインばかりだが仕方がない。泊まるってことは、今夜もきっと、す、するよね…? 急にドキドキしてきた。1人で顔を赤らめていると、スマホから着信音がしたので見ると駿さんからだった。ついでに明日の朝食用に適当に何か買ってきてほしいとのこと。了解です、と返事をすると、サンドウィッチや総菜パンやヨーグルト、牛乳などを買った。
部屋に戻ると、サラダがテーブルに用意されていて、駿さんがちょうどフライパンからチャーパンをお皿に分けているところだった。
「お帰り。いいタイミングで戻ってきたな。さ、できたぞ」
「ありがとうございます。わぁ、美味しそう!」
「朝メシ用も頼んで悪かったな。冷蔵庫に入れとくから」
「はい。…あっ、待って!」
駿さんがレジ袋から中身を出そうとしたので、慌てて止めたのだが、一歩遅かった。
「あ…悪い、見ちゃった…」
一緒に入っていた下着を見られてしまった…。恥ずかしくなって俯いた。
「…あの、さすがに今日と同じものをまた身に着けるのはちょっと、と思いまして…。素っ気ないデザインしかなかったのですが…」
すると、駿さんが私の耳元に口を寄せた。
「…どうせすぐ脱がせるし、デザインなんて全く気にしないよ…」
「…っ!」
ブワッと真っ赤になった私の頬にキスをした。
「ほら、冷めないうちに食べよう」
駿さんが作ってくれたチャーパンはご飯がパラパラで味も絶妙で本当に美味しかった。感心しながら食べていると、昔からチャーハンだけは自信があるんだ、と得意顔になった。
食べながら、内田君の話題になった。彼は駿さんのお母さんの6つ下の妹さんの子どもで、妹さんは内田君を産んだのが遅かったため、いとこ同士でも駿さんとは年が離れているのだ。内田君が小さい頃はよく面倒を見たり遊びに連れて行ったりしたが、駿さんが教師になってからは中々会う機会がなく、ここ数年は顔を合わせるのはお正月の時くらいだそうだ。それでも、お互い一人っ子ということで、本当の兄弟のような関係なのだという。だから内田君は「駿兄」と呼んでいるのか…。
「そういえば、美沙絵には弟がいるって言ってたよな。3つ下だっけ? 俺、お前たちの後、4年2組の担任になったんだけど、結城っていう苗字の生徒はいなかったな…。その翌年に別の学校に転任になったから、残念ながらお前の弟とは縁がなかったな。そのうち機会があったら会わせてほしいな」
「確か剛は4年生の時は3組だったような…。でも、たぶん剛は駿さんのこと覚えていると思いますよ。ぜひ会ってやってください」
「うん、楽しみにしてる。それから…もし美沙絵がよければ、近いうちにお前を両親に紹介したいんだ」
ハッとした。そうだ、まだ駿さんのご両親にご挨拶をしていない…。
「実は、美沙絵のことは既に電話で伝えてある。結婚を前提に付き合っていて、美沙絵のご両親にはもう挨拶して認めてもらっていると。両親は、美沙絵のご両親が公認済みなら何も言うことはないが、とりあえずご両親にきちんと挨拶だけはしなければと言っている。で、先にお前に会いたいと。特におふくろから早く会わせろとせがまれていて…」
「え…そうなんですか!? あの…ご両親は私のこと…反対とかしていなんですか…?」
「さすがに最初は俺の元教え子って聞いて色々と問い詰められたが、きちんと経緯を説明したら納得してくれた。何も反対なんてしていないから心配しなくても大丈夫だ」
「そうですか…。分かりました、駿さんの仕事の方が落ち着いたらご挨拶に行かせてください」
「ありがとう。両親に伝えておくよ。おふくろが喜ぶと思う」
食事を終えて、後片付けも済ませると、駿さんがお風呂の用意をした。お風呂が沸くと先に駿さんに入ってもらった。その間に私は涼子さんにトークアプリで内田君のことを伝えた。内田君が駿さんのいとこだったと知った涼子さんからビックリ顔のスタンプが何個も届いた。
『もう全て解決しました、涼子さんを含め職員の皆さんにご迷惑とご心配をお掛けして申し訳ありませんでした、週明けに改めてご報告します』と送ったら、
『解決してよかった! 詳しい話は週明けに聞くから』という返信の後に、大きなハートと共に、
『今、先生と一緒なんでしょ? ラブラブな一夜を過ごしてね!』というメッセージが届いた…。
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