秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

文字の大きさ
上 下
37 / 54

37

しおりを挟む
 
 「…今夜、このまま泊っていったら?」
 唇が離れると、私の髪を撫でながら駿さんが言った。
 「えっ…でも何も泊まる準備が…」
 「必要なものは買えばいいし、着替えはまた俺のを貸す。正樹のせいで心労をかけさせてしまったし、今夜だけはお前を1人にさせたくないんだ。明日は午後から学校に行かなければならないんだが、午前中はゆっくりできるから…」  
 内田君のことは駿さんのせいじゃないのに…。でもその気持ちが嬉しかった。それに私もまだ駿さんのそばにいたかったし、少しでも長く一緒に過ごしたかった。
 「…分かりました、泊まります」
 「よかった…! ああ…安心したら腹が減ったな…。どこかに食べに行くか?」
 「私もお腹ペコペコです。材料があれば、簡単なものでしたら作りますよ」
 ちょっと待って、と駿さんがキッチンに行って冷蔵庫を開けて中身を確認する。
 「ネギと卵、残ってるご飯があるから、俺がチャーハンを作るよ。それでいいか?」
 「それなら私が作ります」
 「いや、俺に任せろ。チャーハンは得意なんだ」
 「そうなんですか。では駿さんにお任せします。あ、じゃあその前にそこのコンビニで買い物してきます」
 「俺も一緒に行くよ」
 「大丈夫ですよ。すぐそばだし、この時間ならまだ人通りも多いですから。ちゃんとスマホも持っていきますから」
 「…そうか、すぐ戻って来いよ」 
 「はい。では行ってきます」

 コンビニに入ると、まずはこの前買ったのと同じトラベルセットを手に取る。そして女性用下着が置いてあるコーナーに目を向けた。コンビニで下着を買うのは初めてだし恥ずかしかったが、ブラはまだ我慢できても、さすがに下着は翌日も同じものを穿くのは抵抗があった。シンプルで可愛げのないデザインばかりだが仕方がない。泊まるってことは、今夜もきっと、す、するよね…? 急にドキドキしてきた。1人で顔を赤らめていると、スマホから着信音がしたので見ると駿さんからだった。ついでに明日の朝食用に適当に何か買ってきてほしいとのこと。了解です、と返事をすると、サンドウィッチや総菜パンやヨーグルト、牛乳などを買った。
 部屋に戻ると、サラダがテーブルに用意されていて、駿さんがちょうどフライパンからチャーパンをお皿に分けているところだった。
 「お帰り。いいタイミングで戻ってきたな。さ、できたぞ」
 「ありがとうございます。わぁ、美味しそう!」
 「朝メシ用も頼んで悪かったな。冷蔵庫に入れとくから」
 「はい。…あっ、待って!」
 駿さんがレジ袋から中身を出そうとしたので、慌てて止めたのだが、一歩遅かった。
 「あ…悪い、見ちゃった…」
 一緒に入っていた下着を見られてしまった…。恥ずかしくなって俯いた。
 「…あの、さすがに今日と同じものをまた身に着けるのはちょっと、と思いまして…。素っ気ないデザインしかなかったのですが…」
 すると、駿さんが私の耳元に口を寄せた。
 「…どうせすぐ脱がせるし、デザインなんて全く気にしないよ…」
 「…っ!」
 ブワッと真っ赤になった私の頬にキスをした。
 「ほら、冷めないうちに食べよう」

 駿さんが作ってくれたチャーパンはご飯がパラパラで味も絶妙で本当に美味しかった。感心しながら食べていると、昔からチャーハンだけは自信があるんだ、と得意顔になった。
 食べながら、内田君の話題になった。彼は駿さんのお母さんの6つ下の妹さんの子どもで、妹さんは内田君を産んだのが遅かったため、いとこ同士でも駿さんとは年が離れているのだ。内田君が小さい頃はよく面倒を見たり遊びに連れて行ったりしたが、駿さんが教師になってからは中々会う機会がなく、ここ数年は顔を合わせるのはお正月の時くらいだそうだ。それでも、お互い一人っ子ということで、本当の兄弟のような関係なのだという。だから内田君は「駿兄」と呼んでいるのか…。 
 「そういえば、美沙絵には弟がいるって言ってたよな。3つ下だっけ? 俺、お前たちの後、4年2組の担任になったんだけど、結城っていう苗字の生徒はいなかったな…。その翌年に別の学校に転任になったから、残念ながらお前の弟とは縁がなかったな。そのうち機会があったら会わせてほしいな」
 「確か剛は4年生の時は3組だったような…。でも、たぶん剛は駿さんのこと覚えていると思いますよ。ぜひ会ってやってください」
 「うん、楽しみにしてる。それから…もし美沙絵がよければ、近いうちにお前を両親に紹介したいんだ」
 ハッとした。そうだ、まだ駿さんのご両親にご挨拶をしていない…。
 「実は、美沙絵のことは既に電話で伝えてある。結婚を前提に付き合っていて、美沙絵のご両親にはもう挨拶して認めてもらっていると。両親は、美沙絵のご両親が公認済みなら何も言うことはないが、とりあえずご両親にきちんと挨拶だけはしなければと言っている。で、先にお前に会いたいと。特におふくろから早く会わせろとせがまれていて…」
 「え…そうなんですか!? あの…ご両親は私のこと…反対とかしていなんですか…?」
 「さすがに最初は俺の元教え子って聞いて色々と問い詰められたが、きちんと経緯を説明したら納得してくれた。何も反対なんてしていないから心配しなくても大丈夫だ」
 「そうですか…。分かりました、駿さんの仕事の方が落ち着いたらご挨拶に行かせてください」
 「ありがとう。両親に伝えておくよ。おふくろが喜ぶと思う」 
 
 食事を終えて、後片付けも済ませると、駿さんがお風呂の用意をした。お風呂が沸くと先に駿さんに入ってもらった。その間に私は涼子さんにトークアプリで内田君のことを伝えた。内田君が駿さんのいとこだったと知った涼子さんからビックリ顔のスタンプが何個も届いた。
 『もう全て解決しました、涼子さんを含め職員の皆さんにご迷惑とご心配をお掛けして申し訳ありませんでした、週明けに改めてご報告します』と送ったら、
 『解決してよかった! 詳しい話は週明けに聞くから』という返信の後に、大きなハートと共に、
 『今、先生と一緒なんでしょ? ラブラブな一夜を過ごしてね!』というメッセージが届いた…。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...