秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

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 「……ふーん、なるほどね…。お前は彼女がハッキリと断っているにも関わらず、後をつけてしつこく付き合いを迫ったって訳か…しかもそれだけじゃなく、彼女に触れたんだな…」
 駿さんの声がいつもより数段低く、殺気を帯びている…。いや、声だけじゃなく全身から殺気がみなぎっているような…。駿さんの部屋で内田はローテーブルの前で正座しながら気まずそうに身を縮めている。
 「…わ、悪かったよ…。あまりにもバッサリと断られたからちょっと悔しくなって…今まで女の子にフラれたことなかったし…。それにこんな綺麗な結城さんの彼氏ってどんな奴なのか興味があって…。でもまさか駿兄だとは…」
 駿さんがテーブルをバンッと叩いた。内田がビクッと肩をすくめる。
 「ハァッ!? フラれて悔しかったからだと? ふざけるな! お前のしたことは犯罪に近いんだぞ! 訴えられてもおかしくないんだ、分かっているのか!? とにかく、まずは美沙絵にきちんと謝れ!」
 駿さん、メチャクチャ怖いです…。6年生の当時も、クラスの男子がふざけて何かやらかすと駿さんが雷を落としていたが、ここまで怖くなかったかも…。 
 項垂れていた内田がゆっくりと顔を上げた。
 「結城さん、ごめん、悪かったよ…。相手が駿兄なら俺に勝ち目はないし、スッパリ諦める…。でも結城さんを好きだったのは本当だから…」
 「おい、もっときちんと謝罪しろ! それから、こんな行為は二度としないと約束しろ。もしまたやったら、お前の親に全部伝えて大学も退学させる。いいな?」
 「分かったよ、もう二度としないよ…。結城さん、本当に申し訳ありませんでした」
 内田が深く頭を下げた。
 「美沙絵、俺からも謝る。俺の身内が本当に申し訳ないことをした」
 駿さんも一緒に頭を下げたので慌てた。 
 「あ、あの、お2人共、頭を上げてください。内田君からちゃんと謝罪を頂きましたし、二度としないと誓ってくれましたから、もうこれで終わりにしましょう」
 私がそう言うと、ようやく2人は頭を上げた。
 「…分かった。ありがとう、美沙絵」
 「ありがとう、結城さん」
 私が笑顔を見せると、やっと怒りを収めた駿さんがすぐさま内田に告げた。
 「じゃあ、もうお前はさっさと帰れ」
 「えぇ~っ!? 久しぶりに駿兄と会ったのに…。それに、俺、腹減ってるから何か食べさせてよ。2人のことももっと聞きたいし。ねぇねぇ、出会いはどこで? いつから付き合ってるの?」
 「お前に言う必要はないし、メシは家に帰ってから食え。とにかくもう帰れ」
 にべもない駿さんの素振りに内田は口を尖らせた。
 「ちぇっ、冷たいな…。分かったよ…帰ればいいんだろ帰れば」
 「いいか、大学で美沙絵に聞くんじゃないぞ。もしそんなことしたら…」
 「もう、分かってるよ! 聞かないよ!」
 私は内田に言った。
 「内田君、これからも遠慮しないで図書館を利用してね。せっかくうちの大学に編入してくれたんだし、勉強に関することならできる限りサポートするから。それも司書の仕事の1つだから」
 「…っ、結城さん、ありがとう…! また利用させてもらいます。よろしくお願いします」
 「じゃあ、気を付けて帰れよ」
 「…駿兄にも迷惑かけてごめん…。駿兄がこんなに怒ったの初めて見たし…」
 殊勝な態度を見せた後、内田がニヤッとした。
 「そ・れ・に、ホントに結城さんのことが大・大・大好きなんだね~!」
 「…っ!」
 駿さんが赤くなって一瞬言葉に詰まると、
 「わぁ、すげー顔が真っ赤! じゃあね!」
 駿さんにまた怒られないうちに、内田は部屋から飛び出して行った。
 
 全くあいつは…と駿さんが呟くと、ギュッと抱きしめられた。ああ、駿さんの香りがする…ホッとする…。
 「ああ…美沙絵が無事で本当によかった…」
 「駿さんのおかげで助かりました…。ありがとうございました。お忙しいのに心配かけてすみませんでした…。でも、まさか内田君が駿さんのいとこだったなんて本当にビックリです。こんなことってあるんですね」
 「俺だって、お前と正樹が一緒にいるのを見て驚いたよ。あいつが聖智大にいることも全く知らなかったし」
 「今年編入したって言っていました」
 「そうだったのか…まあ、その話は近いうちにあいつから詳しく聞くよ」
 「駿さん…私のためにあんなに怒ってくれてありがとうございました」
 「当たり前だろう。話を聞いてあいつをぶん殴ってやろうかと思ったよ…。俺の大事な恋人がストーカーのようなことをされて、しかもそんなことをしたのが自分の身内だなんて…本当に恥ずかしい…」 
 駿さんが額を私の額にコツンとつけた。
 「ところで美沙絵、どうして俺に報告しなかった? 電話でも何も言ってなかったよな。俺はちょっと怒ってるんだぞ」 
 さっきほどじゃないが、駿さんの顔が怖い。
 「…っ、ごめんなさい! 忙しい駿さんに余計な心配をかけさせたくなかったんです…」
 「こっちの身にもなってくれ…。逆に、もし俺が事件や事故に巻き込まれたとして、俺が何も言わずに後でお前がそれを知ったらどう思う?」
 「……どうしてすぐに知らせてくれなかったのって悲しくなります…」
 「だろう? 俺も一緒だよ」
 「本当にごめんなさい…これからは何かあったらちゃんと言います」 
 「約束だぞ。正樹はあれだけ油を絞ったからもうバカなマネをしないと思うが、この件に限ったことじゃない、もしまた何か危険な目にあったらとにかく誰でもいいから助けを求めて警察を呼ぶか、すぐに俺に連絡するんだぞ」
 「はい、分かりました」
 駿さんがふっ…と表情を和らげた。そして大きな手で私の頬を包み込むと、身を屈めて優しく口付けをした。
 私は駿さんの温かい大きな腕の中でようやく心から安心することができた。
 そして今回の件で駿さんに大きな心配をかけさせてしまったが、同時に本当に心から愛されていることを改めて感じ、幸せに思った。

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