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しおりを挟む翌朝、いつも通り6時半に起きると、駿さんからメールが来ていた。
『おはよう。寝坊していないか? しっかり朝食を食べるんだぞ。
忘れ物しないように、戸締りもちゃんとしてから出るんだぞ』
思わず笑ってしまった。駿さん…私はもう小学生じゃないんですよ…。
『おはようございます。もう起きていますよ。朝から完全に「先生」モードなんですね、海堂先生』
わざと「先生」を強調して返信をした。すると、電話が来た。
「おはようございます。先生」
「おはよう。済まない、心配になってつい…」
「私はいつまで小学生なんですか。もう大人なんですよ」
私が笑うと、駿さんがいたずらっぽく言った。
「そうだな。美沙絵が大人なのは昨夜しっかりと確認したから間違いないな」
「…? …っ!」
その意味に思い当たって顔がボンッと一気に真っ赤になった。すると、クックッと笑う声が聞こえた。
「…真っ赤になっている顔が目に浮かぶよ…可愛いな…」
「朝から何言っているんですか! からかわないで下さい、もう…」
「ゴメン、ゴメン。でも、美沙絵の可愛い声を聞いたから今日からまた頑張れるよ」
「…私も駿さんの声を聞けて嬉しいです。ありがとうございます」
「また連絡するから」
「私も連絡します。ではまた」
「じゃあな。愛してる」
「…っ、私も愛しています…」
電話を切った後もまだ顔が熱い…。もう、朝からサラッとあんなことを…。それに…駿さんのせいで昨夜のことを思い出しちゃったじゃないの…! ああ、もう、ダメダメ! 頭を振って何とか気持ちを切り替えると、洗顔をして朝食の準備に取り掛かった。
駿さんから貰ったネックレスを着け(指輪は傷つけるといけないからしないことにした)、家を出る前に駿さんの香水を少し着けてみた。ああ…いい香り…駿さんに包まれているよう…。よし、私も今日からまた仕事頑張ろう。
早めに出勤すると、他の職員さんたちと談笑している涼子さんがいた。私に気づいた涼子さんが手を振った。
「おはようございます。おかえりなさい、涼子さん」
「おはよう! お休み中は色々とありがとうね! あっこれ、お土産」
ドイツの伝統的なお菓子の詰め合わせと、向こうの本屋さんで見つけたという美しい花柄の刺繍が施されたブックカバーを渡された。
「わぁ~素敵、ありがとうございます! どうでした、ドイツは?」
「哲哉さんの仕事のお供だったからベルリン中心だったし、実質ちゃんと滞在できたのは4日間だけだったから、あまり色々な所には行けなかったけど、でもやっぱり秋のドイツは最高ね~。紅葉がすごく綺麗だったし、ビールやワインは美味しいし!次は100%観光で行きたいわ~」
嬉しそうに語る涼子さんを見て私も顔が綻んだ。
「美沙絵ちゃんは? 私がいない間、何か変わったことはなかった?」
不意に聞かれて、一瞬言葉に詰まってしまったが、応援してくれていた涼子さんにはちゃんと報告しないといけないと思い、こそっと耳打ちした。
「…あの…実は、駿さん、いえ、先生と、お付き合いすることになりまして…」
涼子さんが驚いて目を見開く。
「えっ!? いつから!? どういうこと!?」
涼子さんの声に他の職員さんたちが、一体何事? と一斉に私たちを見る。涼子さんがみんなに「すみません、何でもありません」と謝ると、後でじっくり聞かせてもらうからね、と小声で言った。
終業後、私たちは大学近くのカフェに行った。
「さて、私がいない間、何があったのかじっくり聞かせてもらうわよ~」
興味津々の涼子さんに、送ってもらったお礼の品を買った後にメールをして会う約束を取り付けたこと、おとといの土曜日に会った時に、話の流れから私の部屋で手料理をご馳走することになった話をした。
「へぇ~美沙絵ちゃん、頑張ったわね! えらい! それで?」
「残り物だけじゃ申し訳ないから他にも何か作ろうと思ったんですが、肝心のお醤油と出汁を切らせていたことに気づいて、先生を残してスーパーに買いに走ったんです。その間に、先生が私の本棚から小学校の卒業アルバムを見つけて懐かしさのあまり見てしまったんです…。実は、その中に私が当時書いた先生宛の手紙が挟んであって…」
「…もしかしてそれを読まれた?」
頷くと、初めて涼子さんにその手紙の内容を簡単に話し、その後の展開について伝えた。さすがに夜のことは恥ずかしくて言えなかったが…。すると涼子さんが感極まったように手を口元に当てた。
「…わぁ…何てロマンチックなの…本当に10年後に再会して…告白して…初恋が実って…。それにやっぱり思った通り先生も美沙絵ちゃんのこと意識してたのね~。しかも翌日に美沙絵ちゃんの両親に挨拶って…それだけ美沙絵ちゃんとのことを真剣に考えていることが伝わってくるわ…。展開のあまりの早さにさすがに驚いたけど」
涼子さんが私の手を握った。
「おめでとう。本当によかった…美沙絵ちゃんの想いが通じて私も嬉しい…。幸せになるのよ」
私は感極まって涙が込み上げてきた。
「…ありがとうございます。涼子さんがずっと励まして応援してくれたから一歩踏み出せたんです…涼子さんのおかけです…」
「何言ってるの、美沙絵ちゃんが頑張ったからに決まってるじゃない! あ、結婚式にはちゃんと呼んでね!」
「えっ、いや、そんなのまだ先の話ですから…」
赤くなって俯くと、
「え、そうなの? プロポーズされたんでしょ? もう、さっさと結婚しちゃいなさ~い。あ、できれば仕事は続けてほしいけど」
「涼子さん、気が早いです…。もちろん仕事は辞めませんから」
「そう、よかった! そうだ、今度みんなの都合が合ったらダブルデートしようよ! 先生に会いたいし、2人のラブラブぶりをちゃんと確認しないと!」
涼子さんはすっかりノリノリになっている。私は苦笑した。
「…分かりました、先生に伝えておきます」
「絶対よ! あぁ、楽しみ!」
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