17 / 54
17
しおりを挟む家に向かいながら、この展開に改めて緊張が増してきた。私があんなことを口走ってしまったせいだが…。
昨日の残り物だけでは申し訳ないので他にも何品か作ろうと、途中でスーパーに寄った。家の冷蔵庫にあるものを思い出しながら、最初に野菜売り場に行った。昨日作ったのは、肉じゃが、ひじきの炒煮、わかめときゅうりの酢の物。そうだな…あとは、だし巻き卵、揚げ出し豆腐、ほうれん草のお浸し、大根の味噌汁に、ご飯を炊けばいいかな…。
それにしても、私が他にも何か作ると言った時の先生の喜びようといったら…。目を輝かせて、飛び上がらんばかりのほどだった。そんなに手料理に飢えていたとは…。涼子さんが言っていた通りだ。でも、それって、手料理を作ってくれる彼女が今はいないっていうこと…!? 隣を歩く先生をチラッと見上げた。それなら、私にも少しは望みがある…?
結局、冷蔵庫にあるものでほとんど間に合うことが分かり、買ったのは、ほうれん草と豆腐、あとせっかくだからと先生がチョイスした和食にも合うという白ワインとチーズだけだった
ここでも先生が支払おうとしたので、これだけは譲れないと私が先生のお財布を強引に引っ込めると苦笑して「分かった、じゃあここは任せるよ」と折れてくれた。でも品物が入った私のエコバッグはすぐに先生に奪われてしまった。
部屋に着いた。
先生が捻挫した私を車で送ってくれてからまだ2週間近くしか経っていない。それに、あの時は部屋の前までだったけど、今日は中に上がってもらう…。さっきからドキドキが止まらない。でも、ここまで来てしまったのだからもう後戻りはできない。
「あの、狭いですけど、どうぞ」
「おじゃまします」
私は先生からエコバッグを受け取ると中身をキッチンに出して、買ったものを冷蔵庫に入れた。
「どうぞ楽になさっててください。今、コーヒーを入れますので」
「いいよ、お構いなく」
先生は部屋をサッと見渡した。
「へぇ…スッキリした部屋だな。ちゃんときれいに片付いているし」
「あまり余計は家具類は置かないようにしているんです。部屋が狭くなってしまうので」
私の部屋は1DKで、ダイニングと寝室がそれぞれ約8帖と広めの造りにはなっているものの、大きい家具類を置くとやはり狭くなってしまうし圧迫感もあるので、ダイニングテーブルやソファは置かずに、ローテーブルとクッションにして、他の家具も低いもので統一している。ただ、どうしても本棚だけは大きめのにせざるを得ず、寝室の方に大きいのを、ダイニングの方に低いものを置いている。そしてダイニングと寝室の間のスライド式の扉を外して、ワンルームのようにして使っている。
来客用のクッションを出して先生に座ってもらうと、すぐにコーヒーを入れた。
「インスタントで申し訳ありませんが、どうぞ」
「ありがとう。俺も普段はインスタントだ」
そして、早速食事の準備に取り掛かった。まずはお米を研ごうと、お米や調味料を入れてある棚の扉を開けた時だった。
「あっ…しまった!」
私ってば…! なんてドジなんだろう…。そうだ、昨日お醤油と出汁を使い切っていたんだ! なんでさっきスーパーで気が付かなかったんだろう。
「どうしたんだ?」
「実は…お醤油と出汁を切らせていたのに今気付きまして…」
「そうなのか。なら、いいよ、昨日のおかずだけでもちっとも構わない」
先生はそう言ってくれたものの、私の気が済まなかった。私はバッグに先ほどのエコバックを突っ込んだ。
「あの、今から買いに行ってきます! 申し訳ありませんが、すぐに戻りますので!」
「えっ、わざわざまたスーパーに!?」
「はい、先生はゆっくりなさっててください。すみません、行ってきます!」
私は部屋を飛び出した。
先生を1人にさせるなんて失礼だと思ったが、それでも私はあんなに楽しみにしてくれた先生の為にどうしても作りたかった。
とにかくスーパーまで走った。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる