秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

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 家に向かいながら、この展開に改めて緊張が増してきた。私があんなことを口走ってしまったせいだが…。
 
 昨日の残り物だけでは申し訳ないので他にも何品か作ろうと、途中でスーパーに寄った。家の冷蔵庫にあるものを思い出しながら、最初に野菜売り場に行った。昨日作ったのは、肉じゃが、ひじきの炒煮、わかめときゅうりの酢の物。そうだな…あとは、だし巻き卵、揚げ出し豆腐、ほうれん草のお浸し、大根の味噌汁に、ご飯を炊けばいいかな…。 
 それにしても、私が他にも何か作ると言った時の先生の喜びようといったら…。目を輝かせて、飛び上がらんばかりのほどだった。そんなに手料理に飢えていたとは…。涼子さんが言っていた通りだ。でも、それって、手料理を作ってくれる彼女が今はいないっていうこと…!? 隣を歩く先生をチラッと見上げた。それなら、私にも少しは望みがある…?
 結局、冷蔵庫にあるものでほとんど間に合うことが分かり、買ったのは、ほうれん草と豆腐、あとせっかくだからと先生がチョイスした和食にも合うという白ワインとチーズだけだった
 ここでも先生が支払おうとしたので、これだけは譲れないと私が先生のお財布を強引に引っ込めると苦笑して「分かった、じゃあここは任せるよ」と折れてくれた。でも品物が入った私のエコバッグはすぐに先生に奪われてしまった。 
 
 部屋に着いた。
 先生が捻挫した私を車で送ってくれてからまだ2週間近くしか経っていない。それに、あの時は部屋の前までだったけど、今日は中に上がってもらう…。さっきからドキドキが止まらない。でも、ここまで来てしまったのだからもう後戻りはできない。
 「あの、狭いですけど、どうぞ」
 「おじゃまします」
 私は先生からエコバッグを受け取ると中身をキッチンに出して、買ったものを冷蔵庫に入れた。
 「どうぞ楽になさっててください。今、コーヒーを入れますので」
 「いいよ、お構いなく」
 先生は部屋をサッと見渡した。
 「へぇ…スッキリした部屋だな。ちゃんときれいに片付いているし」
 「あまり余計は家具類は置かないようにしているんです。部屋が狭くなってしまうので」
 私の部屋は1DKで、ダイニングと寝室がそれぞれ約8帖と広めの造りにはなっているものの、大きい家具類を置くとやはり狭くなってしまうし圧迫感もあるので、ダイニングテーブルやソファは置かずに、ローテーブルとクッションにして、他の家具も低いもので統一している。ただ、どうしても本棚だけは大きめのにせざるを得ず、寝室の方に大きいのを、ダイニングの方に低いものを置いている。そしてダイニングと寝室の間のスライド式の扉を外して、ワンルームのようにして使っている。
 来客用のクッションを出して先生に座ってもらうと、すぐにコーヒーを入れた。
 「インスタントで申し訳ありませんが、どうぞ」
 「ありがとう。俺も普段はインスタントだ」
 そして、早速食事の準備に取り掛かった。まずはお米を研ごうと、お米や調味料を入れてある棚の扉を開けた時だった。
 「あっ…しまった!」
 私ってば…! なんてドジなんだろう…。そうだ、昨日お醤油と出汁を使い切っていたんだ! なんでさっきスーパーで気が付かなかったんだろう。
 「どうしたんだ?」
 「実は…お醤油と出汁を切らせていたのに今気付きまして…」
 「そうなのか。なら、いいよ、昨日のおかずだけでもちっとも構わない」
 先生はそう言ってくれたものの、私の気が済まなかった。私はバッグに先ほどのエコバックを突っ込んだ。
 「あの、今から買いに行ってきます! 申し訳ありませんが、すぐに戻りますので!」
 「えっ、わざわざまたスーパーに!?」
 「はい、先生はゆっくりなさっててください。すみません、行ってきます!」
 私は部屋を飛び出した。
 先生を1人にさせるなんて失礼だと思ったが、それでも私はあんなに楽しみにしてくれた先生の為にどうしても作りたかった。
 とにかくスーパーまで走った。 


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