秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

文字の大きさ
上 下
16 / 54

16

しおりを挟む
 
 食事が済んだので、ハーブティとチーズケーキをお願いした。
 先生はカモミールティーを飲むのは初めてだと言い、カップを顔に近づけると、飲む前にまず香りを堪能していた。
 「いい香りだな…。りんごに似た香りがする」   
 「そうですね。フルーティーな甘い香りですよね。少し苦みや渋みを感じるかもしれませんが、飲みやすいと思いますよ」 
 先生はカップに口をつけると、香りと味を口の中でじっくりと確かめるようにしながら飲んでいた。
 「うん、そんなにクセもなく飲みやすい。それにこの香りと味に癒される気がする…」
 「カモミールには、リラックス効果や安眠効果や、高ぶった気持ちを落ち着かせる効果があるんです」
 先生が苦笑いしてポツリと何か呟いた。
 「今の俺にピッタリのお茶だな…」
 「えっ?」
 「いや、何でもない。そっちはローズヒップだっけ?」
 「はい。これはバラの実のお茶で、少し酸味があって、ビタミンCが多く、美肌効果や免疫力向上の作用があって、食物繊維も豊富なので女性向きのお茶といわれています」
 「そうなのか。まあ結城はそれを飲まなくても十分綺麗だが」
 さらっと言われたその一言に、心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受け、ブワッと顔が赤くなった。咄嗟に俯いてチーズケーキを口に運んだが、味も分からなくなるくらい気が動転した。 
 すると、先生が静かな口調で言った。
 「…結城、後でおまえに伝えたいことがあるんだ。俺の話を聞いてもらえるだろうか…?」
 顔を上げると先生が真剣な顔で私を見つめている。余程何か大事な話なのだろうと思い、私は頷いた。

 デザートも食べ終わり、店を出る前にメイクを直そうと化粧室に行った。席に戻ると先生がいなかったので、先生もトイレかなと思い、その間に会計を済ませてしまおうとレジに行くと、もう支払いは済んでいて先生は外で待っているとのこと。驚いて慌てて金額を聞いてから「ごちそうさまでした」とあいさつをすると、マスターがカウンターの中から出てきて「ありがとうございました」と言いながらニヤニヤしながら意味ありげにウインクをした。もう、マスター、絶対面白がってる…。
 私は先生の元に急いだ。
 「お会計をしていただきましてありがとうございました。でも、これは私からのお礼なので全て私に支払わせてください」
 と言い、財布からお金を出すと、先生の大きな手が私の手を抑えた。
 先生はゆっくりと首を横に振った。
 「お礼ならもう十分過ぎるほど貰った。それに、これからお前の手料理をごちそうになるんだから、それはしまっておけ」
 そう言うと優しく微笑んだ。その微笑みに何も言えなくなってしまった。それに、こんなところで押し問答したくなかったので、素直にお金を財布に戻した。
 「分かりました。ありがとうございます。ごちそうさまでした」  
 「いや、俺の方こそ本当にありがとう」
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...