秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

文字の大きさ
上 下
15 / 54

15

しおりを挟む
 
 注文した料理が来た。
 料理を取り分けようとすると、俺がやるから、と手際よくそれぞれ私の分をお皿に載せてくれた。本当に優しい…。それに、料理をシェアするという、まるで恋人同士のような行為に幸せを感じた。
 料理はどれもおいしかった。先生も、うん、うまいな、と頷きながら嬉しそうに食べていた。
 食事をしながらその流れでお互いの食生活の話になった。先生は食べ物の好き嫌いはなく、基本的には何でも食べるという。
 「普段食事はどうしてるんですか?」
 「平日はほとんど外食だな。あとはスーパーやコンビニで弁当や総菜を買ったり。健康のことを考えると自炊した方がいいのは分かっているんだけど、帰りが遅くなることが多いから中々難しくてな…。まあ、栄養のバランスはそれなりに考えて、野菜を多く取るように心がけてはいるが」
 「そうですか…。いつも帰りは何時頃なんですか?」
 「早くて夜7時ぐらいだな。遅いときは9時過ぎることもざらにあるし。帰ってから家で仕事することもよくあるから尚更自炊なんてな」
 想像はしていたものの、やっぱりホントに忙しいんだな…。いくらベテランで慣れているとは言え、毎日やることが多いだろうし色々大変なんだろうな…。
 「そうなんですね…。小学校だと全教科担当しないといけないし、先生のお仕事ってただ勉強を教えるだけじゃないですもんね、授業以外にも色々な学校行事や保護者との関わりもありますしね。毎日長い時間生徒たちと関わりながら、他にもたくさんの仕事をこなさないといけないから本当に大変だと思います。それでも先生は10年間ずっと変わらず、当時の私たちにしてくださったことと同じように今の子どもたちに対してもたくさんの愛情を注いで成長を見守っているんですよね…。尊敬します。毎日いつもお疲れ様です」
 私の言葉に先生の表情が一変した。
 「あっ、すみません。なんか生意気なことを言ってしまって…」
 「いや、違うんだ、謝る必要はない」
 先生が横を向いて恥ずかしそうに目線を下げると、ボソッと何か呟いた。
 「?」
 「あ、いや…そんなこと今まで人から面と向かって言われたことなかったから。結城は教師の仕事をよく理解してくれているんだなって感心したんだ。ありがとう」
 気を悪くさせたのではなくてよかったと安心したが、その前に何を呟いたんだろう…。
 「ところで、結城は自炊してるのか?」
 「できるだけ自炊するように心がけてはいます。疲れていて作りたくないなぁという時は私もお弁当を買ったり、外食したりしますが」
 「仕事していて毎日自炊するのは大変だろう。それでもちゃんとしているんだから偉いよ。得意料理はあるのか?」
 「特にこれというのは…。あ、でも昨日はとても和食が食べたい気分だったので、頑張って肉じゃがとかひじきの炒め煮なんて作っちゃいました」
 和食という言葉に、先生が天井を見上げながら、はぁ…とため息をついた。
 「和食かぁ…あぁ…いいなあ、そういう家庭料理…最近全然縁がないな…」
 しみじみと心から恋しそうに呟く先生に、私はつい、とんでもないことを口走ってしまった。
 「私が作ったのでよろしければ、まだたくさんあるので召し上がりますか?」 
 だがすぐに、しまった! と自分の失言に気付き、今の言葉は忘れてください、と言おうとしたら、 
 「えっ! 本当に? いいのか? 1人暮らしだと和食を作るのは正直億劫で…。頼む、ぜひ食べたい。食べさせてくれ!」
 と、先生が身を前に乗り出してきた。
 私は先生のあまりの勢いに完全に飲まれてしまい、思わず「はい」と承諾してしまった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...