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しおりを挟むこれから行く店は一駅隣の街にある、カフェレストラン。大通りから外れた路地裏のさらに細い通りを入ったところにある隠れ家的な店だ。食事やドリンクのメニューが豊富で、特にハーブティーが売りだ。もちろんコーヒーもとてもおいしい。多い時で週2、3回行くこともある。先生とメールでやり取りした際、どこか希望の店はあるかと聞いたら、特にないから任せる、と言われたので、ここに決めた。
隣の駅に着き、店に向かう。先生は最初に家まで送ってくれた時もそうだったが当たり前のように車道側を歩いてくれている。たったそれだけのことで胸があったかくなる…。
「すみません、駅から歩くし、ちょっと分かりづらい場所にありまして…」
「いいじゃないか、そういうの。隠れ家的で」
あ…先生もそういう店好きなんだ…気に入ってくれるかな。
そして、カフェレストラン『古時計』に着いた。レンガ造りの外壁にツタが綺麗に這っていて、店内には大小さまざまなアンティークの古時計が壁や棚にたくさん飾られている。全体的にレトロで落ち着いた雰囲気でテーブルや椅子などの家具類もすべてアンティークだという。
すっかり顔見知りになった店のマスターが、私が珍しく誰かと、しかも男性と一緒に入ってくるのを見て、一瞬「おや?」という顔をしたが、すぐににっこり笑って「いらっしゃいませ」と言って、一番奥の窓際の席に案内してくれた。
メニューを見ながら先生が言った。
「へぇ~いろいろあって目移りしちゃうな…。どうだ、一品料理を何種類か頼んでシェアしないか?」
「そうですね。さすがにまだ全種類食べたことはありませんが、どれもハズレはないと思います」
「よし、じゃあ結城がまだ食べたことないやつで気になるのを頼むか」
「えっ、先生が食べたいものでいいですよ」
「じゃあ、お互い気になるやつにしよう」
そして、先生は、豚ヒレ肉の香草焼き、私は白身魚のレモンバターソース掛け、それから話し合って、エリンギとバジルのマリネ、古時計オリジナルサラダ、コーンポタージュスープ、パンに決まった。ドリンクはハーブティで、先生はカモミール、私はローズヒップ。それそれチーズケーキとセットにした。
先生が店内をじっくり見渡しながら言った。
「いい店だな、ここ…。時間がゆったりと感じられてすごく落ち着く。どうやって見つけたんだ?」
「今年の初めにこの先の大通りにある本屋さんに行った時に、帰りに駅に戻る途中でこの路地裏に気が付いたんです。何となく気になって歩いていたら、さらに細い通りが左手にあったのでちょっと覗いてみたら、この店に目に留まったんです。店名と外観に惹かれて入ってみたら、店内もこの通り素敵で雰囲気がいいし、料理やドリンクもおいしいし、マスターもいい人なので、よく通うようになったんです」
「そうか。でも俺を連れてきてもよかったのか? こういう店って自分だけの秘密にしておきたいものなんじゃないのか」
「いえ…。先生と一緒に行きたかったのでとても嬉しいです…」
言ってから、あっ、と焦った。つい本音が無意識に口から出てしまった…。
「結城…」
先生が何か言いかけた時、恥ずかしさのあまり「あの!」と遮ってしまった。
「実は、お渡ししたいものがありまして…。これ、ほんの気持ちなんですが、先日送っていただいたお礼です」
紙袋からラッピングした箱を出して先生に渡した。
「えっ!? わざわざこんなことしなくてもよかったのに…。悪かったな、逆に気を使わせてしまって」
「いいんです。本当に助かりましたし、私の気が済まないので」
「ありがとう。それにしても随分立派な箱だな。開けてもいいか?」
「はい…」
先生は丁寧にラッピングを剥がし、箱の蓋をそっと開けた。そして中身を見ると目を見開いた。
「これ…ガラスペンか」
ペンを手に取り、しげしけと眺める。
「…すごく綺麗だな…細工も見事で…目が離せなくなる…。こんな芸術品のようなペン、初めて見た…」
「イタリアの職人さんの手作りで、一目見て、これだ!って思ったんです。先生のイメージにピッタリだなって…」
先生は一旦ペンから目を離すと、じっと私を見つめた。その熱の籠った眼差しにドキッとする。
「…感動しすぎてうまい言葉が出てこない…。でもこれ、相当高かっただろう? 無理したんじゃないのか…?」
「いえ、意外とそうでもありません。無理なんて全然していませんから大丈夫ですよ」
「…それならいいが。こんな素晴らしいものを、本当にありがとう」
嬉しくなって、にっこりして頷いた。
こんなにも感激してくれるとは思わなかった。このガラスペンに出合えた幸運に感謝した。
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