Sweet Kiss Story

宮里澄玲

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Secret Sweet Kiss

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「センセ~この単語の発音がうまくできないんですぅ~教えてくださ~い」
「私はここの文法が分からないんです~」
「私はこの英訳が正しいかどうか自信がないんで見てくれませんか~」
「せんせ~私と付き合って~~」
「はい、はい、分かったから、1人ずつ順番な。それから、最後の答えは"No way!"だ」
「えっ、どういう意味?」
「こんな簡単な意味も分からないのか…。後で自分で調べなさい。ほら、用のない生徒は帰った帰った!」 
 放課後、英語準備室の前を通るたびに繰り広げられている光景。
 今日も多くの女子生徒に囲まれているのは、去年赴任してきた英語教師の桜木俊樹先生。その甘くて爽やかなルックスに女子高生のハートが一気に鷲掴みされた。あれから1年以上経ったがその人気ぶりは未だに変わっていない。

 だがそんな見た目とは裏腹に、桜木の授業はとても厳しかった。
 森つぐみは、今でもあの時のことをしっかりと覚えている。
 なんと桜木は初日から授業を全て英語で行ったのだった。
 最初の自己紹介から始まり、これからは自分の授業は全て英語で行うこと、説明も質問なども英語しか使わないこと、生徒も可能な限り英語を使うこと、ただし、授業以外の時の英語に関する質問は特別に日本語でも受け入れること、などなど、ネイティブ並の発音でペラペラと話し始めたのだ。それもそのはず、自己紹介で桜木は父親の仕事の関係で7歳から14歳までカナダのトロントに住んでいてバイリンガルだと話していたからだ。
 このクラスで桜木が言っていることを完璧に理解しているのはおそらくたった1人。生徒たちは、最初ポカーンとした後、一斉につぐみに助けを求める視線を寄越した。なぜなら、つぐみがその「たった1人」だったから。
 つぐみは桜木の言葉をみんなに通訳すると、桜木に向かって英語で言った。
「先生、クラスメートのほとんどは今の先生の言葉をあまり理解できていないと思います。なので、最初はみんなが慣れるまでもう少しゆっくり話していただけませんか?」
 桜木はつぐみの英語に驚いていた。
「えっと、君は…ごめん、まだ名前が…。とにかく、君の英語の発音はとても素晴らしいね! 帰国子女なの?」
 桜木から英語で尋ねられたのでつぐみも英語で答えた。
「私は、森つぐみといいます。帰国子女ではありませんが、幼少のころから両親の方針で英会話を習っていました。カナダ人の先生にずっと教わっています」
「へえ~そうなんだ、カナダ人に!」
 桜木が嬉しそうな反応をした。
「はい。ハリファックス出身の方で、両親の友人なんです」
 そんな2人の会話のキャッチボールを他の生徒たちが唖然として見ていた……。


「相変わらずモテモテだよね…。若くてイケメンで英語がペラペラだし、女子校で他に異性がいないから、しょうがないのかもしれないけど。まあ、あたしのタイプじゃないけどね」
 一緒に歩いていた親友の新田真菜が半ば呆れたようにつぶやく。
「ところで、つぐみ、さっき桜木が英語で言ってたのってどういう意味?」
「"No way"? ああ『ありえない!』って意味」
「ブッ! ってことはあの子、完全にフラれてんじゃん!? あ~あ、かわいそうに、残念でした~」
「真菜、あんた全然かわいそうって思ってないよね」
「だってさ~そもそも先生が生徒を本気で相手にするわけないじゃん!」
「そうだね」
「そんなことより、ねえ! 誕生日プレゼント、ホントにパフェをご馳走するだけでいいの?」
 そう、今日はつぐみの18歳の誕生日なのだ。
「もちろん! パフェ大好きだし、真菜がご馳走してくれるだけで嬉しい」
 そう言いながら真菜に抱き着くと真菜もギュッとつぐみを抱きしめた。
「分かった! パフェがメチャクチャ美味しい店、ちゃんとチェックしてあるから、行こう!」
 
 つぐみはその時、気づいていなかった。自分をそっと見つめていた人物に。           
              
       
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