凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第九章 トリストゥルム

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 目が覚めるとやわらかいベッドに寝かされていた。光からすると昼らしいが、部屋にはなにもなくそれ以上は分からなかった。
 横になったまま自分の体の様子を探る。あちこち痛み、雷の火傷がひりひりする。

 そして、手足を拘束されていた。鎖や革ではなく、包帯でだった。引きちぎろうと思えばできるが、事情が不明なうちはそのままにしておいた。
 また眠くなったので寝た。

 起きるとベッドの周りに人がいた。知ってる顔はニキタとトリーン、それにケストリュリュム家の大魔法使いだった。ほかは知らない者が数人だった。

「元気か」
 ニキタが枕もとで話しかけた。そちらを向く。
「元気だ。いまいつだ? なぜ生きてる?」
 それには大魔法使いが返事した。
「五日たちました。ここは学内の病院です。あなたは貴族の子弟を三人殺害し、一人を脅迫した。事情はあったにせよ極刑はまちがいない。で、そう処せられたのですよ」
 トリーンが口を出す。
「おじさんは死刑。で、戦時特例法により実験素材となり……」
「わたしが引き取った。あなたはわたしの実験素材です」
 笑う気にもなれなかった。
「この人たちは? それと、なぜ縛られてる?」
「大学関係と、貴族議会、王室の方、と申し上げておきます。あなたの様子を見届けたいとのご要望です。それと詳細な状況を確認したいとのことです。縛ったのは目覚めたときにあなた自身にご自分の立場を分からせるためでした。よく分かっていただけたようですが。ところで、すみませんが、記憶を読みますよ」
「断れないんだろ」
「はい。いまのあなたは。しかし、この場で消去すると名誉にかけて誓っておられます」
「ならどうぞ」

 ひとりひとりクロウの額に手を当て、納得したようにうなずくと部屋を出て行った。ニキタが包帯をほどいてくれた。

「ありがと。で、大魔法使い様。どのような実験をお考えですか」
「さあ。それより、あなたが実力を行使した四人についてその後を知りたくないのですか」
「いらん。あれは俺にとって戦争だ。鬼や賊を倒したのと同じ。トリーンを無事救助するという任務を果たした以上もう興味はない」
 疲れていた。言葉づかいに気をつけるのは面倒だった。トリーンがおずおずとそばにきた。
「ごめんなさい。あいつらの言うこと、もっともに思えたの。おじさんの言った、あたし自身が無用になるなんて考えもしなかった」
「そういうところは子供だな。でも仕方ない。ああいう駆け引きは経験積まなきゃな」
「あんなのは積みたくないけど」

「ひとつ、お伺いしてもいいですか」
「なんでもどうぞ。俺はあなたの素材だし」
「それは置いておきましょう。それにしてもなぜ竜の息を使ったのですか。火球を誘導するだけで十分だったでしょうに」
「怒りだ。あそこのすべてを焼き尽くしたかった」
「それも果たされましたよ。あの倉庫、建て直しになります。あんな高熱であぶられた煉瓦は危なくてしょうがありませんからね」
 クロウは三人を見まわした。
「いろいろ迷惑かけたんだな。すまん。それと、ありがとう」
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