凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第九章 トリストゥルム

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 翌日の朝食後、食堂に学長からの通達が掲示された。まず昨日の演説にあった通信技術以外の自動演算呪文の研究開発を明確に否定していた。通信の中継における経路算出のため自動演算呪文は利用されるが、それはすでに広く実用とされている自動演算荷札の応用に過ぎず、また規制条約の存在下で意図しない動作は起こり得ないと述べていた。その研究開発の拠点を大学に設け、前進させることを名誉とせよ、とも書かれていた。
 その上で、昨日のような貴族にあるまじき短絡的かつ粗暴な行為は帝国大学生として恥ずべきであり、参加した学生に大いに反省を促したいとしていた。
 その後は関係者の処分だった。ヨウハー・エップネンを始めとする中心人物に対し、自室謹慎五日が言い渡された。その他として、行儀作法の正しい励行を目的として、食堂および講義室、研究棟での私語が禁じられた。
 そして、これは通達にはなかったが、密かに警備規則が改訂され、学長の指示の下で学生に対する実力行使が容認されるようになった。

「これは強硬だな」
 クロウは研究所で茶を飲みながらニキタ・エランデューアに言った。今朝の通達はいたるところで話題になっていた。
 調査の合間に時々トリーンの様子を見に訪れると、ニキタは茶に誘うのだった。大魔法使いの仕事に興味があるらしい。所長室はいまだに荷物の整理が終わっていないので、執務用の机をはさんで休憩する。図書館で飲食はできないし、ここは騒がしくない。そう思っていたらこの騒動だった。
「仕方ない。若者の青臭さはいまに始まったものじゃないけど、昨日のはやりすぎ。学長に出てこいなんて乱暴にも程がある。後、主張するならそれなりの根拠を突きつけないと」
「根拠?」
 トリーンは菓子をつまみながら口を挟んだ。
「うん。学生たちの主張って、そう言われてるからそうなんだ、の域を出てなかった。もうちょっとましかと思ってたけど、学生の質も落ちたもんだね」
 クロウがトリーンの方を向く。
「トリー、演説してる学生に近寄ったんだって? もうそんな危ないまねするんじゃないぞ」
 トリーンは菓子をほおばったまま横を向く。その件に関してはずっと子供扱いされていて不満だった。聞きたいことを聞きたいと言ってなにが悪いのだろう。
「だけど、あの学長の通達って、ぼかしてたよね。魔王については」
 クロウとニキタは同時にトリーンの顔を見た。子供扱いした次の瞬間にこれだった。
「まあ、そうだな。そこは公然の秘密だからな」
「公然って貴族だけでしょ? 紋無しにはほんとに秘密にしてる」
「トリーン、そんな言葉どこで覚えた? 使ってはいけません。まったく、学生に混じるとこれだから困る」
 ニキタがあきれたように手を振る。クロウは分からなかったが、文脈から推測はできた。そうか、紋無しと言うのか。

「さてと、おいしいお茶だった。そろそろ戻るよ。また書類の山だ。トリー、知りたいって思うのはいいけど、そのために周りが見えなくなるのはいけない。流れを見たけりゃ岸に上がるんだ」
 立ち上がりながら言った。
「だって、知りたいの。起きた出来事に振り回されてるだけは嫌」
 クロウはトリーンの頭をなでようとしたがやめ、その手で肩を叩いた。ニキタはその様子をカップ越しに見ていた。
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