凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第九章 トリストゥルム

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 昼食はとる者もいれば抜く者もいる。献立は日替わりの具を麦餅で包んでふかしたものだった。食堂でもいいし、持って帰って庭園や寮の自室でも、研究しながら食べてもいい。さすがに講義の最中はいけないが、そのあたりの行儀悪さは勉強に忙しい学生だからと大目に見られていた。

 その包み麦餅を手にした学生が行きかう研究棟の一角に、元は倉庫だった大き目の建物があり、急いで作った手書きの看板が取り付けられていた。帝国大学付属通信技術開発研究所とある。

 忙しくしている人々を横目に、正装した男がやってきた。朝、話しかけられていた学生だった。やせた体は棒のようで、手足もそうだった。明るい茶色の髪がかぶっている茶色の目は細く。神経質な印象だった。まっすぐ通った鼻の下には色味のない薄い唇。研究所を背にし、一息吸い込むと、その口を大きく開いた。
「わたくしはヨウハー・エップネン。魔法史学部に所属している。諸君に意見申し上げる」
 研究員や、通りがかりの学生たちがなにごとかと見たり振りかえったりする。ヨウハー・エップネンと名乗った男はまた一息吸うと、さらに通る声で演説を始めた。
「わたくしは、一部の利己的目的を持つ家による破滅的研究の即時停止を求めるものである。それはこの研究所において行われている自動演算呪文開発に隠蔽されているが、事実は異なり、戦争の自動演算を行う呪文を研究していると、わたくしは告発するものである……」

 扉がわずかに開き、少女が顔を出したが、すぐに誰かが引き込んだ。

 学生たちが集まり始めたが、エップネンを囲むように円弧になり、顔は研究所の方を向いていた。たまたまそこにいて演説を聞いているという感じではなかった。話の間に声を出したり拳を振り上げたりするが、それらはきれいにそろっていた。所員たちは正体の知れない圧力を感じていた。

「……戦争の自動化は過去にも行われ、失敗し、魔王を生み出した。これは公に口にされはしないが、歴史を学ぶ者にとってはなかば常識である。わたくしも本来であればこれをおおっぴらにはしないだろう。世には伏せておいたほうがいいことがあるくらい承知している」

 警備員がやってきたが、学生集団に阻まれ、手を出せないでいた。

「しかし、いままさにその過ちが繰り返されようとしている。しかも、この学問の府である帝国大学においてである。まったくもって許しがたいでないか」

 賛同の大声があがる。警備員はなんとか演説者に近寄ろうとしている。

「ここに、わたくしは自動演算呪文の研究開発の即時、永久の停止を求める。また、学長には帝国大学をその場として提供した愚行の謝罪と説明を求める。出てきたまえ!」

 集まった学生たちは、「学長、出てきたまえ!」と大声で繰り返し、拳を突き上げた。警備員はようやくエップネンのそばに行き、演説の中止と解散を求めたが無視された。貴族の子弟だけに手を出せない。説得を続けるのみだった。

 不意に、学生たちが静まり返った。一点を見ている。エップネンもそちらを見た。

 少女だった。よせという声を無視して近づいてくる。止めようとする警備員を押しのけ、そばに立って見上げた。

「話を聞きたい。もっと静かなところでどう?」
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