凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第九章 トリストゥルム

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 帝国大図書館がオウグルーム市の建築として最も古いとすれば、帝国大学は記録に残る限り最古の教育機関だった。人類が魔法を発見し、体系化する中で研究とその成果の整理、保管を行い始めたのが起源である。そしていつしか常駐する魔法使いが師匠となって弟子に魔術を伝え、また、魔法の研究から派生した種種の学問が教育されるようになった。
 大学は、資産運用、帝国からの補助金、王室と貴族からの寄付を資金源としているが、それぞれの割合が偏らないようにされ、どこからの干渉も受け付けなかった。いまでは大学独自の警備組織もある。
 そして王室と貴族の暮らす領域を別にすればオウグルーム市で最も広い敷地を所有し、壁で囲まれた様子は街の中の街とも言えた。
 しかし、独立性をうたいながらも、教師は貴族であり、学生は王族、貴族の子女に限られていて、大学教育は貴き血でなければ与えることも受け取ることもできないという創立以来の理念を貫いていた。その点で街の私塾などとは異なっていた。

 帝国大学は日の昇る前から活動を始める。給食室から立ち上る湯気がこの季節は目立つ。香りが風にのって学生寮、講義棟、研究棟を巡る。忙しい勉強の間の交流は主に食堂で行われているので、もっと贅沢な食事ができる身分であってもここで食べる者が大半だった。
 ずっと変わらない朝。麦粥と干し肉か干し魚。起床したばかりで洗面や身づくろいがまだの学生たちは家紋と大学の紋をつけたマントをかぶるようにつけ、寝ぼけ眼で粥をすくう。味については、出されたものについてとやかく言うものではないと子供の頃から仕込まれてはいるが、表情が語っていた。
 椅子をずらす、匙が皿に触れる、話し声。食堂は音に満ちていた。その中で、ひとりの若者が隣を肘でつついた。
「変更ないな?」
 つつかれた方は食べるのか食べないのか、粥を混ぜてばかりいる。
「ない。頼んだぞ」
「分かった。初年生と二回生はそこそこ集まる。三回は……まあ、いろいろとしがらみが出来てるから、なかなかだ」
 肩をすくめた。粥を混ぜていた学生は手を止める。
「そうだろうな。卒業後が見えてくるからこういうのには参加したがらないだろうが、後悔するだろうよ」
「じゃ、きっかけ、頼んだぞ」
「おう。そっちもな」
 最初に話しかけた学生が空いた皿をもって出て行った。見送った方は自分の皿に目を落とす。まったく減っていない麦粥を見てため息をついた。
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