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第八章 貴き血の義務

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 ニキタはまず、クロウも知っていることを話した。技術開発班の帝国大学への移譲。移る職員にはトリーンも含まれる。その設備やなんやかやの移設がすっかり終わったとのことだった。
「大変でしたが、引っ越しはまずまず順調に済みました。職員たちも到着し始めています」
「トリーンも?」
「ええ、当面は大学寮が提供されます。住むところは自由ですが、ここの物価を知ったら寮に居たがるでしょうね」
「帝国大学付属通信技術開発研究所、ですか。ほんとうに通信の研究だけですか。それに、トリーンは協力者だけではなく、研究対象でもある?」
 ニキタはうなずいた。この馬車のばねは特にいい。すべるようだ。
「移譲に関しては水面下でかなり強引な要求もあったと聞いています。トリーンについては絶対でした」
「わたしにそんな話をしていいのですか。巻き込まれたくないのですが」
 大きな笑いが返事だった。
「失礼。先ほどから本当に面白い方ですこと。波紋の中心にいらっしゃるのに、岸から眺めているようなおつもりとは」
 クロウは赤面した。たしかに自分の立場をわきまえるべきだ。
「では、通信技術開発を名目として自動演算呪文そのものの研究が進められるのですね。規制条約にかからない形で」
「そうです。さて、この情報と交換に、あなたの調査結果を教えてください。くだくだしい枝葉は結構です。結論を」
 すこし考えたが、話すことにした。
「規制条約は戦後に出来たものではありません。大戦前、いえ、魔王出現前から関係諸国間で組み上げられていたと、かなりの確度で申し上げられます」
 小さな口が震えた。
「飛躍が過ぎませんか」
「いいえ。戦争を自動演算し、関係諸国で優位を手に入れたら状況を変えられないように条約で力の集中を防ごうとしたのでしょう。しかしなにかの間違いで自動演算呪文は魔王と化した。なんとか退治したがどの国も目立った優位は得られなかった。かといって儀式がある程度進んだ条約締結は急に止められないので規制だけが走り出した。そんなところですか」
 ニキタは睨んだ。
「よくそこにたどり着きましたね」
「目的はなんですか。王室、貴族、関係各国はなにを目指しているのですか」
「平和です。争いのない平穏な世界を実現し、人類の発展を目指します。いまある国はいまのまま、です」
 クロウは短い髪を掻いた。目の周りのしわが深くなる。黒い瞳はニキタの方に向けられていたが見てはいなかった。
「今度は平和を自動演算するつもりですか」

 馬車が止まった。帝国大学の正門前だった。トリーンが立っていた。
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