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第八章 貴き血の義務
二
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古びてはいるが、まあまあ手は入っている家だった。周囲には畑が広がっている。遠くにはローテンブレード城の塔がかすんでいた。
「いいところじゃないか」
クロウが言うとペリジーも同意するようにうなずいた。ディガンとマールは腕を組んで得意気だ。仕事は明日からなので、二人を招いてくれたのだった。一通り中を見せてくれる。柱や梁は太く、風通しも良くて快適そうだった。
「さあ、茶にしよう。天気もいいし、外でどうだ?」
ウッドデッキには手作りらしい椅子と卓があった。座るとがたがたし、ディガンが苦笑いする。
「すまん。なかなかうまくいかない。もっと練習しなきゃ」
手伝いに来てくれている近在の農家の老婆が茶と菓子を運んできた。マールが指示を与え、書き付けと小遣いを渡した。
「管理をまかしてるんだ。ここと畑の」
いかにも田舎らしく、茶は濃い目で、菓子は形より中の木の実の量が自慢のようだった。
「砂糖、たっぷり使えるようになったんだ」
ペリジーが大きくかじりとる。行儀作法にこだわらなくていい田舎のお茶会に満足している。
「俺たちのおかげでもあるな。道が安全になってきて輸送費が下がってる」
マールがおなじように幅広の口を大きく動かして食べながら言った。
「賊はまだ出るんだろ?」
クロウが言うが、本気で心配している口調ではない。ディガンが笑い飛ばす。
「奴らは鬼じゃないからな。いずれどこかで休んだり、奪ったものを処分しなきゃならない。その時捕まるさ。この間も処刑あったろ?」
嫌な顔をしたのはマールだった。いま処刑と言うのは正規の法に基づく絞首刑ではなく、魔法使いの実験素材になることだった。戦時特例法はまだ適用中だった。
「いつまで戦時のつもりなんだ? もう特例法は止めるべきだろう」
「おやじ、優しいね。賊なんかどうなってもいいじゃん」
「俺は見たんだよ。脱走兵のを。魔王相手の戦争でもなけりゃあんなの正当化できん。近頃正義とか倫理とかどこ行っちまったんだ? 戦時の混乱はもう言い訳にゃならんぞ」
倫理、という言葉で、クロウは大魔法使いを思い出していた。トリーンの記憶を読んでいればもっと早く解決しただろうに、倫理によって行わなかった。立派に思えるが、一方で、もし解決が遅れたために回復不能になるなど取り返しのつかない事態が起きていたら? それでも良い行いだったと言えるだろうか。
「正義と倫理、か。いまのうちに聞いときたいんだがいいか? こんなのんびりしたお茶会での話題にはふさわしくないかもしれないけど」
三人はクロウの言葉にうなずいた。
「俺が中央の大図書館で調べたいのは魔王の正体についてなんだ。いまだになんの発表もない。敵の首領なのに絵姿すらない。ちょっと事情を知ってそうな偉いさんはこの話題は避けるし、だれも追求しない。不思議だろ?」
「やめとけ」
「隊長、謎に納得できなかったらずっと考え続けるのはいいんじゃ? そういう兵士は生き残るんでしょ?」
「戦争は終わったし、俺たちゃ兵士じゃない」
ディガンが白髪を掻いた。マールが茶をすすって言う。
「大砲さんよ、ある程度は目星つけてるんだろ? 大図書館で調べるってのは、そこならなんとかなるって思ってるわけだ。仮説あるなら言ってみろ」
クロウはマールを見、ディガン、ペリジーと目を移した。三人とも目をそらさなかった。
「魔王って結局は自動演算荷札や通信装置とかと同類なんじゃないかって。そこを確かめたい」
「いいところじゃないか」
クロウが言うとペリジーも同意するようにうなずいた。ディガンとマールは腕を組んで得意気だ。仕事は明日からなので、二人を招いてくれたのだった。一通り中を見せてくれる。柱や梁は太く、風通しも良くて快適そうだった。
「さあ、茶にしよう。天気もいいし、外でどうだ?」
ウッドデッキには手作りらしい椅子と卓があった。座るとがたがたし、ディガンが苦笑いする。
「すまん。なかなかうまくいかない。もっと練習しなきゃ」
手伝いに来てくれている近在の農家の老婆が茶と菓子を運んできた。マールが指示を与え、書き付けと小遣いを渡した。
「管理をまかしてるんだ。ここと畑の」
いかにも田舎らしく、茶は濃い目で、菓子は形より中の木の実の量が自慢のようだった。
「砂糖、たっぷり使えるようになったんだ」
ペリジーが大きくかじりとる。行儀作法にこだわらなくていい田舎のお茶会に満足している。
「俺たちのおかげでもあるな。道が安全になってきて輸送費が下がってる」
マールがおなじように幅広の口を大きく動かして食べながら言った。
「賊はまだ出るんだろ?」
クロウが言うが、本気で心配している口調ではない。ディガンが笑い飛ばす。
「奴らは鬼じゃないからな。いずれどこかで休んだり、奪ったものを処分しなきゃならない。その時捕まるさ。この間も処刑あったろ?」
嫌な顔をしたのはマールだった。いま処刑と言うのは正規の法に基づく絞首刑ではなく、魔法使いの実験素材になることだった。戦時特例法はまだ適用中だった。
「いつまで戦時のつもりなんだ? もう特例法は止めるべきだろう」
「おやじ、優しいね。賊なんかどうなってもいいじゃん」
「俺は見たんだよ。脱走兵のを。魔王相手の戦争でもなけりゃあんなの正当化できん。近頃正義とか倫理とかどこ行っちまったんだ? 戦時の混乱はもう言い訳にゃならんぞ」
倫理、という言葉で、クロウは大魔法使いを思い出していた。トリーンの記憶を読んでいればもっと早く解決しただろうに、倫理によって行わなかった。立派に思えるが、一方で、もし解決が遅れたために回復不能になるなど取り返しのつかない事態が起きていたら? それでも良い行いだったと言えるだろうか。
「正義と倫理、か。いまのうちに聞いときたいんだがいいか? こんなのんびりしたお茶会での話題にはふさわしくないかもしれないけど」
三人はクロウの言葉にうなずいた。
「俺が中央の大図書館で調べたいのは魔王の正体についてなんだ。いまだになんの発表もない。敵の首領なのに絵姿すらない。ちょっと事情を知ってそうな偉いさんはこの話題は避けるし、だれも追求しない。不思議だろ?」
「やめとけ」
「隊長、謎に納得できなかったらずっと考え続けるのはいいんじゃ? そういう兵士は生き残るんでしょ?」
「戦争は終わったし、俺たちゃ兵士じゃない」
ディガンが白髪を掻いた。マールが茶をすすって言う。
「大砲さんよ、ある程度は目星つけてるんだろ? 大図書館で調べるってのは、そこならなんとかなるって思ってるわけだ。仮説あるなら言ってみろ」
クロウはマールを見、ディガン、ペリジーと目を移した。三人とも目をそらさなかった。
「魔王って結局は自動演算荷札や通信装置とかと同類なんじゃないかって。そこを確かめたい」
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