70 / 90
第七章 覺めて見る夢
十
しおりを挟む
しわが増え、疲れているようだった。それでもトリーンを見ると笑う。
「よう、元気か」
魔法使いが座っていた椅子に腰かけた。近くで見ると白髪があった。
「うん。食事はまだどろどろだけど」
「言っといてやる。ちゃんと噛み応えのあるもの出せって」
「干し肉とか、またみんなで食べたいね」
「ああ、いまごろ大陸の西の方かな。ぐるっと回って帰ってくる」
「早く仕事したいな」
「もう退屈? トリーを待ってる仕事、たくさんあるぞ」
いま行われているという中継通信の実験の話を例えをまじえて教えてくれた。祠の改修をもっと急がなくてはならない。トリーの手伝いがいると言った。
「じゃあ、手紙とか回さなくてもよくなるの?」
「すぐにはそうならないんじゃないかな。それに心配もある。のぞき見されるかも」
「のぞき見?」
「盗み聞きかな。伝言に例えただろ? 途中で聞かれるかもって心配がある。まだまだ封をした手紙の方がいい」
「なら軍みたいに暗号使えばいい」
「考えたな。でも通信用の魔宝具に暗号化と復号処理を入れるともっと大きくなるし扱いも難しくなる」
「わたしの能力があるよ」
驚いた顔をしたままクロウさんは一瞬固まった。そしてまた笑った。
「トリー、よかったらエランデューア家に紹介してやろうか。あそこの技術開発班に加わるといい」
心の中ではじける感じがした。広い道に出た気分。
「うん。おねがい。わたし、いまなんでもしたい」
「トリーン・トリストゥルム、すべてを喰らう、か」
黒い目を見た。深くて吸い込まれそうだった。
「なんだい?」
「すべてを喰らうって気に入った。わたし欲張りになる。クロウさんもでしょ」
しわが寄った。
「俺もか」
「これからなにするの。クロウさんは」
黙ってしまった。時々こうなる。すぐに返事してくれない。考えているのだろうか、それともなにも考えていなかったんだろうか。
「俺はね、することをしてしまった。もう未来を考えたくないんだ」
「なにをしたの」
「魔王との戦争、いろいろあった。死にかけたし、人の死ぬところを見たし、人を死に追いやった。死に関わる経験をたくさんした。だから未来はもうどうでもいい。こういうの、いまのトリーなら分かるな」
うなずいた。
「それに、自分の片割れにも死ぬよう命令したのよね」
言ってもいいか一瞬迷ったが、言ってしまった。しわがさらに深くなり、まるで睨んでいるかのようだ。いや、わたしに向けられているのは怒りだ。
「おまえはなにもかもはっきり言いすぎる。刃物は鞘に納めとけ」
「いいえ、納めません。斬って斬って斬りまくるつもり。わたしの親を殺し、能力を利用しようと閉じ込め、魔宝具にした。そんなこと出来る考え方を斬り捨てるんだから」
「それは勝手だが、刃を見せびらかすな」
「ありがと。言う通りにする。斬る瞬間まで隠しとく。でも納めはしない」
クロウさんは立ち上がりながら言う。
「トリー、君は大人になったな。こんなに早くとは思わなかったけど」
「時間はたっぷりあった。中で黒麦作りながら自分がどこからどうやって来たかを繰り返し見続けて考えたから」
「そりゃ夢だ。本当の世界じゃ経験は起きて味わうもんだ」
「でもあの魔法使いもわたしが大人だって認めた。夢かもだけど、覺めて見る夢。そう思わない?」
「よう、元気か」
魔法使いが座っていた椅子に腰かけた。近くで見ると白髪があった。
「うん。食事はまだどろどろだけど」
「言っといてやる。ちゃんと噛み応えのあるもの出せって」
「干し肉とか、またみんなで食べたいね」
「ああ、いまごろ大陸の西の方かな。ぐるっと回って帰ってくる」
「早く仕事したいな」
「もう退屈? トリーを待ってる仕事、たくさんあるぞ」
いま行われているという中継通信の実験の話を例えをまじえて教えてくれた。祠の改修をもっと急がなくてはならない。トリーの手伝いがいると言った。
「じゃあ、手紙とか回さなくてもよくなるの?」
「すぐにはそうならないんじゃないかな。それに心配もある。のぞき見されるかも」
「のぞき見?」
「盗み聞きかな。伝言に例えただろ? 途中で聞かれるかもって心配がある。まだまだ封をした手紙の方がいい」
「なら軍みたいに暗号使えばいい」
「考えたな。でも通信用の魔宝具に暗号化と復号処理を入れるともっと大きくなるし扱いも難しくなる」
「わたしの能力があるよ」
驚いた顔をしたままクロウさんは一瞬固まった。そしてまた笑った。
「トリー、よかったらエランデューア家に紹介してやろうか。あそこの技術開発班に加わるといい」
心の中ではじける感じがした。広い道に出た気分。
「うん。おねがい。わたし、いまなんでもしたい」
「トリーン・トリストゥルム、すべてを喰らう、か」
黒い目を見た。深くて吸い込まれそうだった。
「なんだい?」
「すべてを喰らうって気に入った。わたし欲張りになる。クロウさんもでしょ」
しわが寄った。
「俺もか」
「これからなにするの。クロウさんは」
黙ってしまった。時々こうなる。すぐに返事してくれない。考えているのだろうか、それともなにも考えていなかったんだろうか。
「俺はね、することをしてしまった。もう未来を考えたくないんだ」
「なにをしたの」
「魔王との戦争、いろいろあった。死にかけたし、人の死ぬところを見たし、人を死に追いやった。死に関わる経験をたくさんした。だから未来はもうどうでもいい。こういうの、いまのトリーなら分かるな」
うなずいた。
「それに、自分の片割れにも死ぬよう命令したのよね」
言ってもいいか一瞬迷ったが、言ってしまった。しわがさらに深くなり、まるで睨んでいるかのようだ。いや、わたしに向けられているのは怒りだ。
「おまえはなにもかもはっきり言いすぎる。刃物は鞘に納めとけ」
「いいえ、納めません。斬って斬って斬りまくるつもり。わたしの親を殺し、能力を利用しようと閉じ込め、魔宝具にした。そんなこと出来る考え方を斬り捨てるんだから」
「それは勝手だが、刃を見せびらかすな」
「ありがと。言う通りにする。斬る瞬間まで隠しとく。でも納めはしない」
クロウさんは立ち上がりながら言う。
「トリー、君は大人になったな。こんなに早くとは思わなかったけど」
「時間はたっぷりあった。中で黒麦作りながら自分がどこからどうやって来たかを繰り返し見続けて考えたから」
「そりゃ夢だ。本当の世界じゃ経験は起きて味わうもんだ」
「でもあの魔法使いもわたしが大人だって認めた。夢かもだけど、覺めて見る夢。そう思わない?」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる