凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第七章 覺めて見る夢

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 翌日はしとしとと降り続いた。移動が遅くなり、泥だらけになったが鬼は見つからなかった。翌日も、翌々日も気は感じられなかった。
 そろそろかと思っていた時、合図があった。集合地点に帰還すると任務の完了を告げられた。他の隊に別れを告げてマダム・マリーの所に戻る。結局あれ以降、大魔法使いからの呼び出しは無く、トリーンの様子も教えてくれなかった。

「ご苦労様。報酬が届いてる」
 マダム・マリーの言葉とともに、ニキタがそれぞれの前に小袋を置いた。クロウは手のひらにのせる。思ったより重い。
「割り増しが入ってる。大魔法使い個人から。頭覗かれたんだって?」
 信じられないという仕草をすると装身具がじゃらじゃら音を立てた。クロウは小袋から当座の金をつかみだすと残りを渡した。
「投資にまわしといてくれ」
「ほう、クロウさん、わたしの商売を見込んでくれるとはありがたいね」
 二人はまた柄頭を合わせた。見ている三人は言葉には出さないがあきれているようだった。
「じゃあついでに教えといてやろう。この投資、無駄じゃないよ。新しい商売を始める」
 クロウは興味をそそられたようだったが、他の三人はすでに聞き流す顔になっていた。
「まあ聞きな。運送業は変わらないが、運ぶものに情報が加わる。郵便じゃないよ。通信さ」

 分からないという顔の四人を見、マダム・マリーはニキタの方を見た。引き継いで説明を始める。

「伝言遊び、子供の頃にやったでしょう? 何人かで組になり、ある子が次の子に伝言をささやく、その子はまた次の子にささやいて、正確に伝わった組が勝ち。これを帝国でやります。子供の代わりが鬼除けの祠で、情報を中継するんです。速度でも安全面でも郵便物を運ぶより優位性があります。いまはここと飛び領地、および中央間で試験が行われています」
 いったん言葉を切り、分かったかと言うように見まわした。
「我々は出入り口となります。通信内容を祠を伝わる信号に直し、逆に伝わってきた信号を復元して受取人に届けます。その手数料が収入です」
 クロウが口を挟む。
「祠の改修ってのはそれもやってたのか」
「そうです。その意味でもトリーンの存在は重要でした」
「どのくらいで届く? 例えばここから飛び領地なら」
 かなり興味をそそられたらしいクロウを、ディガンがいぶかしげに横目で見る。
「朝出して昼過ぎから夕方までには。情報の量は通常の商用契約書程度として」
「でも、祠が壊れたら?」
 だれもが浮かぶ疑問を口にしたのはペリジーだった。
「ええ、そのため皆さんに新たな仕事が加わります。輸送以外に通過する祠の点検と可能であれば応急修理です」
 顔をしかめたのはディガンとマールだった。それぞれの傷痕が歪む。
「それと、出入り口で通信を行う魔宝具が、自動演算荷札とおなじ理屈で最短経路の算出も行います。祠が壊れるなど、どこかで情報伝達経路が途切れるような異常が発生した場合、壊れた祠の手前の祠から信号が届き、通信魔宝具が迂回路を算出して設定します。状況によって直接運んだ方が早いとなればそのような指示が出ます」
「そんな魔宝具、作れるのか」
「エランデューア家の数学技術者は優秀です。それだけの演算を行ってもなお規制にかからない魔力消費です。しかし、残念ながら小型化はなりませんでした。大型の机で二つ分くらいあります。小さくするのはこれからの課題ですね。なのでもっと数学技術者が必要です。我らは私塾として養成校を開きます。そのためにクロウさんのような投資者を募っています。皆さんもいかがですか」

 三人は首を振った。ニキタは仕方ないかと笑った。
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