凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第七章 覺めて見る夢

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 もう母茸のような希少な大物はいなかった。ほとんどが犬鬼、たまに蜘蛛鬼であり、大戦からの月日の経過を感じさせた。四人は掃討任務に戻り、他の隊と同様に着々と受け持ち区域内の鬼を退治していた。
「まさか、鬼との戦闘が流れ作業みたいになっちまうとはねー」
 ペリジーは焚火に枝をくべた。ちょっと湿っていて白い煙が昇っていく。そのせいではないのだろうが、夜空には雲がかかっていた。明日あたり雨らしい。
「小僧、退屈か」
「うん、強化のおかげでいっつもこっちが先に見つけるし、向こうが気づく前に火球で蒸発だし」
 マールは笑ったが、おなじように思っていた。戦闘において常に先手を取れ、優位のままに攻撃できるなど大戦時には考えられなかった。
「奇襲は受けるもの、だったからな」
 ディガンも笑った。
「あんたら、大戦時はどこにいた? 俺は東の川を上ったり下ったり」
 珍しくクロウが雑談を始めた。ディガンから答える。
「ザラス川か。なら俺も川下りした。どこかで会ってたかもな。で、大陸中を転転としてた。主には西の公国領との境。こいつと組んだのもそこ」
 マールを指さす。
「俺はあんまり移動しなかった。ずっと国境。隊長と組んでからは一緒に戦ってた」
 ペリジーが首を傾げた。
「えっ? おやじ、そんな前から隊長と組んでたの? 戦後かと思ってた」
「そりゃ思い違いだろう。おまえはなにしてた? 初期訓練か」
「たしかに俺が軍に入ったのは終わりごろだけど、訓練は終わってたさ。国境のこっち側で二番手やってた」
「残敵掃討、だな。要は俺らのおこぼれを食ってたわけだ」
「そうさ、一番手が頼んないから取りこぼしを二番手が引き受けなきゃならない。隊じゃいっつも愚痴ってた」
 からかうマールにやりかえし、隊で流行っていたという一番手をからかう唄を披露する。

 鬼に出会って一番手
 ひっくり返って大慌て
 魔王それ見て嘲って
 逃げて隠れて一番手
 鬼の闘う相手は二番手

 四人とも火が揺れるほど笑った。
「おいおい、ひどい唄もあったもんだな」
「もちろん、ほんとは分かってたよ。俺たちのところまで来る鬼で無傷はいなかった」

 クロウがぽつりと言う。
「魔王か、結局なにしたかったんだろうな」
 マールが答える。
「そりゃ支配だろ? 現世も霊界も魔界もこの世丸ごと」
「支配したいのにいきなり殴りつけるものか? 交渉とかなしで」
「知るかよ。魔王の頭の中なんて。大砲はどう思ってんだ?」
 手なぐさみにして揉んでいた虫よけの葉っぱを焚火に投げ込む。きつい香りが漂った。
「変な話だが、理屈とか無かったんじゃないかって。暴れたかっただけで」
 ディガンは火傷痕を掻き、目を細めた。
「おまえ、本気で言ってるのか。ちゃんと弔ってやれないほどの死人を出し、いまでも邪法まみれの破壊しつくされた土地だらけ。それを目的無しに暴れたかっただけって、魔王はガキか」
 マールとペリジーは二人のやり取りを見ている。クロウの目が火を宿した。
「そうだ。それがぴったりくる。ガキか。魔王のやり方にしっくりこないものを感じてたけど、ガキって考えたら筋が通るな。隊長こそ、魔王の戦い方に疑問を持たなかったのか。ただただ力で押すばかりだった。小さい子が駄々こねて手足振り回してんのと変わらないじゃないか」
「なに考えてんだ?」
「魔王の正体。見た者はいない。絵にもなってない。退治したのに姿は伝わってこない」
「だからなんだ? 姿そのものに害があるから一般公開は差し止めになった。そうじゃないのか」
「そうかも知れないけど、噂もない。角があるとかしっぽが生えてるとか、なにもない」

「二人ともよしなよ。そういうの戦後皆あちこちで言ってたけど、いっつも最後は喧嘩になるんだ。結論出ない思いつきだらけの言い争いなんかやめて寝ようぜ」
 口を挟んだのはペリジーだった。我に返った二人は笑う。それがきっかけになって寝支度をし、火は自然に小さくなるにまかせた。
 見張りはもういいだろうとなり、四人とも朝まで途切れ無しに寝た。
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