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第六章 夢覺ませ
四
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ローテンブレード家の本領地に帰還してからは振りまわされてばかりだった。王室派遣官による尋問、さらに中央から派遣された役人と魔法使いによる再尋問。マダム・マリーにはほとんど会えず、顔を何回か見たくらいだった。
クロウたち四人は王室派遣官の管理下に置かれ、行動の制限を受けていた。常に見張りがつき、街の外へは出られず、商取引は禁じられ、郵便物はすべて検閲された。学習を中断させられたペリジーは落ち込んでいる。
意外だが、そうなってしまうと尋問も悪いことばかりではない。幾度も繰り返されるたびに尋問官とは雑談ができる関係となり、始まる前や合間の会話で外の状況を知った。
トリーンはいまも生きている。魂の抜けた体で眠っているようだが脈はあり、呼吸も安定していた。水や流動食を押し込むと飲み込むし、発汗や排泄もあった。しかし、閉じられたまぶたの裏で瞳は動かず、話しかけてもなにも返ってこなかった。
呪術文様の調査のため、オウルークの庵が接収され、天幕が繋がれた。そこには大魔法使いを含む調査団が入り、すぐにトリーンが再移送された。調査対象を一か所にまとめておく意図だった。
文様は設計通りの機能を発揮している。中央の円の左の円に邪法耐性を持つ黒麦を置き、右の円に袋いっぱいの通常の麦を置くと、一時刻も経たないうちに黒麦に変わった。魔力はほとんど消費されない。
しかし、調査団はおろか、視察に来た王室の大魔法使いでも再現はできなかった。この呪術文様は雨水の侵入で痛めつけられ、ぎりぎりの薬品で起動させられ、超越能力者の魂を取り込んでいる。あまりに条件が特殊だった。この文様が、蓄積された魔力の瞬時の解放と言った破滅的な事象を引き起こさずに起動したのは奇跡だった。
いや、負の事象はあったのかもしれない。オウルークとマルゴットが心を失ったのは起動時の歪んだ気を至近で浴びた影響と思われた。二人はトリーンとは違い自分の意志を見せないが、話しかけられたことに反応し、言われれば日常的な活動はできた。ただ、判断など高度な精神活動はまったくできず、記憶を蓄えることも引き出すこともできなかった。
ケラトゥス・ウィングは、オウルークとマルゴットが心を失ったと、収容所の柵越しに数回対面して確かめると、なにもかもあきらめてしまった。その後罪に問わないとする取り引きに応じてすべてを話したが、役人たちは失望した。この男は物事の中心にはいない。今回の事件に関する限り、こいつは情報的には無に等しい。言われたままに動いていただけだ。
関係する各家は賢明だった。ローテンブレード家は呪術文様と黒麦についてなにも主張することはなく、王室の役人や大魔法使いの山への駐留と洞窟の調査を黙認した。また、本領地と飛び領地で調査関係者が届け無しで宿泊したり、物資を調達したりしても抗議の声をまったく上げず、ただ見て見ぬふりをしていた。
ウィング家とシュトローフェルド家はそれぞれケラトゥスとマルゴットを隠居させ、イクゥスとした。ブレード家はオウルークは事件発生時にはすでに隠居であり、家とは無関係であると改めて表明したが、次代の当主が就任する予定だった公職を辞退した。
マダム・マリーとエランデューア家も立ち回りに気をつけた。できる範囲で四人に連絡し、差し入れは目立たぬように行い、専属契約の護衛に援助しているという範囲を超えないようにしていた。それも派遣官の目が厳しくなってからは途絶えがちになった。
そういった出来事とは無関係に風は吹く。
トリーンの瞳は動かないが。
クロウたち四人は王室派遣官の管理下に置かれ、行動の制限を受けていた。常に見張りがつき、街の外へは出られず、商取引は禁じられ、郵便物はすべて検閲された。学習を中断させられたペリジーは落ち込んでいる。
意外だが、そうなってしまうと尋問も悪いことばかりではない。幾度も繰り返されるたびに尋問官とは雑談ができる関係となり、始まる前や合間の会話で外の状況を知った。
トリーンはいまも生きている。魂の抜けた体で眠っているようだが脈はあり、呼吸も安定していた。水や流動食を押し込むと飲み込むし、発汗や排泄もあった。しかし、閉じられたまぶたの裏で瞳は動かず、話しかけてもなにも返ってこなかった。
呪術文様の調査のため、オウルークの庵が接収され、天幕が繋がれた。そこには大魔法使いを含む調査団が入り、すぐにトリーンが再移送された。調査対象を一か所にまとめておく意図だった。
文様は設計通りの機能を発揮している。中央の円の左の円に邪法耐性を持つ黒麦を置き、右の円に袋いっぱいの通常の麦を置くと、一時刻も経たないうちに黒麦に変わった。魔力はほとんど消費されない。
しかし、調査団はおろか、視察に来た王室の大魔法使いでも再現はできなかった。この呪術文様は雨水の侵入で痛めつけられ、ぎりぎりの薬品で起動させられ、超越能力者の魂を取り込んでいる。あまりに条件が特殊だった。この文様が、蓄積された魔力の瞬時の解放と言った破滅的な事象を引き起こさずに起動したのは奇跡だった。
いや、負の事象はあったのかもしれない。オウルークとマルゴットが心を失ったのは起動時の歪んだ気を至近で浴びた影響と思われた。二人はトリーンとは違い自分の意志を見せないが、話しかけられたことに反応し、言われれば日常的な活動はできた。ただ、判断など高度な精神活動はまったくできず、記憶を蓄えることも引き出すこともできなかった。
ケラトゥス・ウィングは、オウルークとマルゴットが心を失ったと、収容所の柵越しに数回対面して確かめると、なにもかもあきらめてしまった。その後罪に問わないとする取り引きに応じてすべてを話したが、役人たちは失望した。この男は物事の中心にはいない。今回の事件に関する限り、こいつは情報的には無に等しい。言われたままに動いていただけだ。
関係する各家は賢明だった。ローテンブレード家は呪術文様と黒麦についてなにも主張することはなく、王室の役人や大魔法使いの山への駐留と洞窟の調査を黙認した。また、本領地と飛び領地で調査関係者が届け無しで宿泊したり、物資を調達したりしても抗議の声をまったく上げず、ただ見て見ぬふりをしていた。
ウィング家とシュトローフェルド家はそれぞれケラトゥスとマルゴットを隠居させ、イクゥスとした。ブレード家はオウルークは事件発生時にはすでに隠居であり、家とは無関係であると改めて表明したが、次代の当主が就任する予定だった公職を辞退した。
マダム・マリーとエランデューア家も立ち回りに気をつけた。できる範囲で四人に連絡し、差し入れは目立たぬように行い、専属契約の護衛に援助しているという範囲を超えないようにしていた。それも派遣官の目が厳しくなってからは途絶えがちになった。
そういった出来事とは無関係に風は吹く。
トリーンの瞳は動かないが。
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