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第六章 夢覺ませ
二
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ケラトゥス・ウイングの尋問を任せていた兵士の一人が駆け上ってきた。没収した書き付けを隊長に示す。うなずくと隊の魔法使いに見せた。
「クロウさん、あなたも見てください」
急いで書かれたと思われる薬品名がならんでいた。初歩の初歩だ。
「呪術文様だな。なら絞りこめる」
二人は呪術文様の気に絞って探り始め、すぐに方向を定めた。
「あっちだが、あんな所になにがあるんだ?」
魔法使いはいぶかしげに露出した岩肌を透かすように見た。
「とにかく行きましょう。二人とも感じたんだ。あそこから気が出てるならなにかあるはずだ」
さらに足場の悪いところを登り、岩塊を探る。
「小さい穴があります。奥に洞窟が続いてます」
兵が報告した。隊長が即座に命令する。
「灯りを。おまえとおまえ、行け」
かがんで入っていく。時間をおいてまた二人入っていった。
指一本ほどで一人戻ってきた
「洞窟はゆるやかに曲がっていて、奥の突き当りに部屋があります。物資が蓄えてありました。ただ、だれもいません」
隊長は魔法使いとクロウを見た。
「ここです。気はこの洞窟から出ています。行きます」
魔法使いが言い、クロウも行くと言った。
「いや、クロウさんはここに残ってください。これは我らの任務です」
しかし、と言いかけたが隊長は手で制した。
「言い争っている時間はありません。あなたがたは協力者です。それには感謝しますが、トリーンは我が隊の隊員です」
クロウの肩をディガンが叩いて首を振った。魔法使いが入っていくのを見送るが、黒い目の周りのしわが一段と深くなった。
指一、二本分だが、じりじりする時間が経った後、魔法使いが首を振って出てきた。
「確かに気は感じるんですが絞れません。もっと人数が必要です」
隊長が決断し、外に二名残して全員入った。さすがに奇襲はないだろうとの推測だったが、もしまちがっていたら全滅もあり得る。それほど焦っていた。
「こうなったら手探りだ」
ペリジーが自棄になったが、ディガンが賛成した。
「それがいい。隠してあるものを探すには手が一番いい」
全員の手が泥だらけになるのにそれほど時間はかからなかった。一人が声を上げる。
「ここ、ちょっと灯りを! 岩がずれて隙間がある。通れるかも」
隊長が奥に向かって呼びかける。
「おい、だれかいるのか! おとなしく出てこい!」
反響がおさまってもなんの反応もなかった。もっと大声を出したがおなじだった。
「行きましょう」
クロウが言うが、隊長は首を振った。
「こんな狭い割れ目、待ち構えていたら決死になる。部下は送れん」
「わたしは部下ではありません」
「民間人ならなおさらだ。そのくらい分かれ!」
思わず声を荒げた隊長に兵士たちが目を伏せた。だれも行きたくはない。
クロウが口を開く。前にも使ったが、すぐ答えられる質問で気をそらせるつもりだった。
「ほかの気は? どうです。わたしは感じませんが」
「わたしもです。しかし、気を消していることもあり得ます。と言うか確実にそうでしょう。この向こうに何人いるか分からない。それでも行きますか」
そう答えた魔法使いは、自分が行く、と目で訴えていた。クロウはその目を見た瞬間、考えずに体が動いていた。
「待ちなさい!」
身をひるがえし、割れ目に滑り込んだ。
「クロウさん、あなたも見てください」
急いで書かれたと思われる薬品名がならんでいた。初歩の初歩だ。
「呪術文様だな。なら絞りこめる」
二人は呪術文様の気に絞って探り始め、すぐに方向を定めた。
「あっちだが、あんな所になにがあるんだ?」
魔法使いはいぶかしげに露出した岩肌を透かすように見た。
「とにかく行きましょう。二人とも感じたんだ。あそこから気が出てるならなにかあるはずだ」
さらに足場の悪いところを登り、岩塊を探る。
「小さい穴があります。奥に洞窟が続いてます」
兵が報告した。隊長が即座に命令する。
「灯りを。おまえとおまえ、行け」
かがんで入っていく。時間をおいてまた二人入っていった。
指一本ほどで一人戻ってきた
「洞窟はゆるやかに曲がっていて、奥の突き当りに部屋があります。物資が蓄えてありました。ただ、だれもいません」
隊長は魔法使いとクロウを見た。
「ここです。気はこの洞窟から出ています。行きます」
魔法使いが言い、クロウも行くと言った。
「いや、クロウさんはここに残ってください。これは我らの任務です」
しかし、と言いかけたが隊長は手で制した。
「言い争っている時間はありません。あなたがたは協力者です。それには感謝しますが、トリーンは我が隊の隊員です」
クロウの肩をディガンが叩いて首を振った。魔法使いが入っていくのを見送るが、黒い目の周りのしわが一段と深くなった。
指一、二本分だが、じりじりする時間が経った後、魔法使いが首を振って出てきた。
「確かに気は感じるんですが絞れません。もっと人数が必要です」
隊長が決断し、外に二名残して全員入った。さすがに奇襲はないだろうとの推測だったが、もしまちがっていたら全滅もあり得る。それほど焦っていた。
「こうなったら手探りだ」
ペリジーが自棄になったが、ディガンが賛成した。
「それがいい。隠してあるものを探すには手が一番いい」
全員の手が泥だらけになるのにそれほど時間はかからなかった。一人が声を上げる。
「ここ、ちょっと灯りを! 岩がずれて隙間がある。通れるかも」
隊長が奥に向かって呼びかける。
「おい、だれかいるのか! おとなしく出てこい!」
反響がおさまってもなんの反応もなかった。もっと大声を出したがおなじだった。
「行きましょう」
クロウが言うが、隊長は首を振った。
「こんな狭い割れ目、待ち構えていたら決死になる。部下は送れん」
「わたしは部下ではありません」
「民間人ならなおさらだ。そのくらい分かれ!」
思わず声を荒げた隊長に兵士たちが目を伏せた。だれも行きたくはない。
クロウが口を開く。前にも使ったが、すぐ答えられる質問で気をそらせるつもりだった。
「ほかの気は? どうです。わたしは感じませんが」
「わたしもです。しかし、気を消していることもあり得ます。と言うか確実にそうでしょう。この向こうに何人いるか分からない。それでも行きますか」
そう答えた魔法使いは、自分が行く、と目で訴えていた。クロウはその目を見た瞬間、考えずに体が動いていた。
「待ちなさい!」
身をひるがえし、割れ目に滑り込んだ。
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