凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第五章 鳥啼く聲す

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 こんな真夜中にずっと森を進むのは無茶だ。マルゴットは脇街道を探した。確かこのあたりを並行して走っているはず。そこをたどり、途中でそれてオウルークの庵に向かう。そこでケラトゥスと合流してトリーンを引き渡す計画だった。
 しかし、月明りの中目を凝らしても道らしい筋は見つからなかった。記憶違いかと焦り始めた。いや、残った二人が隊を混乱させているし、時間は稼げているはずだ。焦るな。よく探すんだ
 何度目だろうか。木々の間に目を走らせたとき、明るい線を見つけた。踏み固められた細い脇街道だった。
 脇街道とはいえ道は道なので、山中の森林よりは楽になった。背のトリーンはかなりの揺れにもかかわらず麻痺したままだ。空を見上げ、木の間から月と星を見て方角を確かめると、早足で進み始めたが、すぐに立ち止まった。なんだ、あの音は。蹄? 馬か。野生ではない。複数で規則正しい。こっちに向かっている。
 考える時間はない。また森に飛びこむとしゃがんで気配を消した。

「待て」
「どうした。気でも感じたか」
「一瞬感じたんだが消えた」
「鬼か」
「おどかさないでよ」
「もういいだろ。消えたんなら先を急ごう」

 馬の荒い息と蹄の音が遠ざかって行った。静かになってから脇街道に戻る。
 なんだ、この臭いは? 汗臭い。馬?

 突然、気が現れ、火球が足元に落ちた。目がくらむ。同時に指笛。木の間から馬に乗っただれかが出てきた。
「気配を消せるのはおまえだけじゃないぞ……。なんだ、あんたか。なにしてる? 背負ってるのはトリーンか?」
 詰問するような口調だった。目が慣れてくると相手が見えた。治してやった魔法使いだった。クロウとかいう奴だ。
「鬼の襲撃だ。この子を避難させている」
「分かった。では護衛に当たる」
 声の調子はまったく変わらず厳しいままだった。戻ってくる蹄の音がする。
「護衛はいい。こっちは安全だ。それより隊の方に加勢してやってくれ。あっちの主街道だ」
 見なくても背後に奴らがそろったのに気づいた。じりじりと道の端に寄る。
「動くな。しかし妙だな。避難ならなぜ気配を消してやり過ごそうとした?」
「あわてていて分からなかったんだ。賊かもって」
「なら、いまは分かったな。トリーンを引き取ろう。馬の方が運びやすい。それにしても静かだな。ぐっすりおねんねか」
 クロウが近寄ってくる。背後の三人も詰めてきた。
「おまえたちこそ動くな」
 右手を上げ、人差し指に霊光をこめて青白く光らせ、背中のトリーンに突きつけた。ケラトゥスに一発分渡したのとおなじ氷の霊光だ。
「なんのつもりだ」
「おとなしく行かせろ。おまえたちはなにも見なかった。そうだな?」
「そっちこそよせ。いまなら間にあう。このことはだれにも言わない。避難も信じてやる。だからその子に手を出すな」
 老人の声だった。背後の方だ。
「下賤の民が貴族のやることにいちいち絡んでくるな。鬱陶しいんだ」
 マルゴットは言い放ち、森に駆け込んで気配を消した。
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