凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第五章 鳥啼く聲す

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 四人は交通安全部の隊が祠を修理するのを眺めていた。残った資材や壊れた荷馬車の板材で応急的に三脚と祠を修復し、霊力を封じて機能を再起動させた。呪文の関わる作業はトリーンのおかげで短時間かつ強力に仕上がった。
 兵士たちは鬼と馬の死骸を片づけながら、時々四人の方を見て感心したようにささやきあった。この場の様子や鬼の痛めつけられ具合を見ればどんな闘いだったのかだいたい想像はつく。
「あんたらみたいなのがなんで軍を追い出されたんだ?」
 口さがない兵士ははっきりと言った。
「さあな、知ったことじゃない」
 マールが答え、もう元気になったペリジーがふざける。
「玉突きみたいなもんさ。戦争が終わる。王室は軍を縮小する。軍は俺達を追い出す」
 兵士たちは笑った。別の兵士が聞く。
「トリーンちゃんとは知り合いなのかい。あんたら」
「まあね。いろいろあって。そこらへんはローテンブレード家とかブレード家が関わるからあんまりべらべらおしゃべりできないけど」
 ペリジーの言葉になにか察したのか、兵士たちは話題を変えた。運送業と護衛の話になった。

 クロウはペリジーが貴族の名前を出した時にほかの奴と反応が違う兵士がいるのに気がついた。笑っていない。いまもじっとペリジーの方を見ている。ディガンかマールに合図しようと思ったが、こいつらも元軍人なら筒抜けになると思い、やめておいた。

 トリーンは治療してくれた魔法使いと話している。こっちを向いて手を振ったので振りかえす。なんと万事順調の手信号をした。いつの間に覚えたんだろう。こっちに走ってきた。
「いいのか。祠の修復は?」
「うん、もういいの。休憩してもいいって」
「そっか。元気にしてたか」
「もう、何回聞くの? 元気だよ。それよりみんなもう治った? ひどいけがだったから」
「治ったよ。あの治療魔法使いさんは大したもんだ。シュトローフェルド家か。それにトリーの応援も。おかげであっという間に治った。ペリジーも口がまわってるから大丈夫」
「服、ひどい」
「街で洗って繕ってもらうよ。買ってもいい。でもな、肝心なのは生きてるってこと。ありがとな」
「わたし、役に立ってる?」
 うなずいた。
「もう、声に出してよ」
「ごめん。でも、詰まっちゃうんだ。言いたいことが急にたくさんこみあげて、喉を通り過ぎられない」
 じっとクロウの顔を見ている。なにを言ってるのか分からないけれど、分かろうとしている。
「あのな、トリー。君は居場所を見つけた。自分の力で人の役に立つっていう幸せも見つけた。それでいいと思う」
「おじさんは? 見つけたの?」

「見つけたさ」
 マールだった。いつの間にか三人が来ていた。
「隊長といっしょに畑を買うんだ。護衛運送できるうちは人にまかせとくけど、引退した後の落ち着き先を決めとくのさ」
 ディガンが後を続ける。
「ずっとこいつとなんてぞっとしないけど、のんびりしたら戦争の本を書く。下から見上げた戦いの本をな」
 ペリジーはにこにこしていた。
「勉強もうすぐ終わるんだ。そしたらエランデューア家の商会に入って経理ってのをやってみる。それから自分の店を持つ」

「クロウさんは?」
「俺か。俺はまだなにも見つけてない。見つかるまで旅をするつもり。とりあえず中央に行ってみる。また会えるかもな」
 マールがそれ以上言うなよと目で止めた。
「旅? ふーん、じゃみんなばらばらになるね。お手紙どうする?」
 クロウはあごに手をやった。
「まだマダム・マリーでいいよ。気が早いな。まあ、トリーは当分帝国大学か交通安全部だろ? そしたら中継役になってくれないかな。面倒かもしれないけど。そうしてくれたら助かる」
「いいよ。お仕事忙しいから遅れるかもだけど」
 四人とも大笑いした。ディガンが特に笑った。
「この中でトリーが一番忙しくなりそうだなんてだれが思った? 分からんもんだな」

 クロウは気を含んだ視線に気づいた。盗み聞きか? 合図したいが周りは兵士だらけだ。
 感じたほうを横目でたどると、あの治療魔法使いが木にもたれるようにしてこっちを見ていた。マルゴット・シュトローフェルド。大家ではないが、王室直属の部の特務隊に加わるのだからなにかあるのだろう。
 それにしても、とクロウはあたりを見まわす。交通安全部の急ごしらえっぷりがよく分かった。祠の復旧に携わる者と、ほかの作業をしたり、小休止を取ったりする者の持ち回りがいいかげんだ。隊長を頂点とした規律ができ上がっていないのか。
 いや、そこは俺の知ったことじゃないし、街道巡りだけなんだからこれでいいんだろう。

 手を振って戻っていくトリーンに、また万事順調の手信号を送る。今度は返ってきたし、見ていた兵士のなかにも返してくる奴がいた。
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