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第五章 鳥啼く聲す
二
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朝日とともに仕事が始まった。と言っても馬に乗って街道を行くだけだ。祠を通過するときに振り向いて顔を見て応援する。それだけだった。
退屈してきたトリーンの鼻を不快な風が襲った。腐臭だった。
「賊だな。見せしめにさらされてるんだ」
兵士が教えてくれる。道の脇に膨れた死体が転がっていた。首をはねられている。まともに弔ってもらえないって、なんのために生きてきたんだろう。どこへも行けずさまよう魂がこっちを見ている気がした。
魂について考えていると、馬が駆けてきた。前方部隊の一人だった。手信号と言葉で報告を行う。
「けが人です。四名。鬼に襲われて逃げてきたようです。シュトローフェルドさん、お願いします」
馬車からマルゴットさんが飛びだしてくると、その兵士と同乗して行った。鬼の脅威はないとの報告だったので、本隊はそのまま進む。
しばらくするとまた馬が戻ってきた。さっきの兵士だった。
「トリーンちゃんをお願いします。治療呪文を強化したいとのことです。瀕死の若者がいます」
隊長がうなずき、いま乗っているまま急行した。巡行とちがってかなり揺れるががまんした。
祠の根元にいる人たちが見えてきた。一人が手を振る。見慣れた顔だった。横たわっているのは……、トリーンは叫んでいた。
「ペリジーさん! みなさん!」
マルゴット・シュトローフェルドは一見怒っているような感じだった。青い目で地面に寝かされているペリジーを睨み、薄い口をさらに引き結んでいる。
助けられて馬を降り、そばにしゃがんだトリーンを見てうなずく。すぐに応援を始める。
ディガン、マール、クロウが心配と驚きの混じった顔をしている。みんなどこかに錆色に乾いた血をこびりつかせていた。目を合わせるが、応援に集中したいので話さなかった。
医学の心得がない者が見ればペリジーはとっくに死んでいるようだった。蝋のような白さでまったく動かない。
だが、すぐに血の気が戻ってきた。指先が震えるように動き、マルゴットの口がゆるむ。
「もうちょっと応援頼む。呪文を変える」
トリーンは口を開いた。
「がんばれー、がんばれー」
ペリジーが咳をした。目が開く。みんなほっとした顔になる。
三人のけがはすぐに回復した。マルゴットはトリーンを見て感心している。体験するとその効果のほどがよく分かった。大魔法使いになった気分、と言うのは大げさではなかった。
少女は四人それぞれと抱き合った。久しぶり、とか、元気にしてたか、とか、その制服はなんだ? などと軽口を叩きあっている。ではかれらが話にあった四人なのか。
一番年長者が周囲の兵士たちを見まわしながら礼を言うと、他の三人もそうした。前方部隊の隊長が簡単に事情を聴くと一人を現場に向かわせた。四人に水と食事が与えられた。
「報告します。祠が破壊されており、犬鬼と蜘蛛鬼の死骸が一匹ずつ。馬の死骸と破損した荷馬車。荷はありませんでした。残念ですが」
隊長はうなずいて四人の方を見た。
「どうされますか。われわれはこのまま進みます。祠の修復後、街まで同道しましょう。あなた方にとっては戻ることになりますが」
「お願いします」
ディガンと言うしわだらけの老人が三人を見ながら答えた。三人も同意した。クロウと名乗った魔法使いが立ち上がったが、よろけてしまう。トリーンが手を取ってほほ笑んだ。
退屈してきたトリーンの鼻を不快な風が襲った。腐臭だった。
「賊だな。見せしめにさらされてるんだ」
兵士が教えてくれる。道の脇に膨れた死体が転がっていた。首をはねられている。まともに弔ってもらえないって、なんのために生きてきたんだろう。どこへも行けずさまよう魂がこっちを見ている気がした。
魂について考えていると、馬が駆けてきた。前方部隊の一人だった。手信号と言葉で報告を行う。
「けが人です。四名。鬼に襲われて逃げてきたようです。シュトローフェルドさん、お願いします」
馬車からマルゴットさんが飛びだしてくると、その兵士と同乗して行った。鬼の脅威はないとの報告だったので、本隊はそのまま進む。
しばらくするとまた馬が戻ってきた。さっきの兵士だった。
「トリーンちゃんをお願いします。治療呪文を強化したいとのことです。瀕死の若者がいます」
隊長がうなずき、いま乗っているまま急行した。巡行とちがってかなり揺れるががまんした。
祠の根元にいる人たちが見えてきた。一人が手を振る。見慣れた顔だった。横たわっているのは……、トリーンは叫んでいた。
「ペリジーさん! みなさん!」
マルゴット・シュトローフェルドは一見怒っているような感じだった。青い目で地面に寝かされているペリジーを睨み、薄い口をさらに引き結んでいる。
助けられて馬を降り、そばにしゃがんだトリーンを見てうなずく。すぐに応援を始める。
ディガン、マール、クロウが心配と驚きの混じった顔をしている。みんなどこかに錆色に乾いた血をこびりつかせていた。目を合わせるが、応援に集中したいので話さなかった。
医学の心得がない者が見ればペリジーはとっくに死んでいるようだった。蝋のような白さでまったく動かない。
だが、すぐに血の気が戻ってきた。指先が震えるように動き、マルゴットの口がゆるむ。
「もうちょっと応援頼む。呪文を変える」
トリーンは口を開いた。
「がんばれー、がんばれー」
ペリジーが咳をした。目が開く。みんなほっとした顔になる。
三人のけがはすぐに回復した。マルゴットはトリーンを見て感心している。体験するとその効果のほどがよく分かった。大魔法使いになった気分、と言うのは大げさではなかった。
少女は四人それぞれと抱き合った。久しぶり、とか、元気にしてたか、とか、その制服はなんだ? などと軽口を叩きあっている。ではかれらが話にあった四人なのか。
一番年長者が周囲の兵士たちを見まわしながら礼を言うと、他の三人もそうした。前方部隊の隊長が簡単に事情を聴くと一人を現場に向かわせた。四人に水と食事が与えられた。
「報告します。祠が破壊されており、犬鬼と蜘蛛鬼の死骸が一匹ずつ。馬の死骸と破損した荷馬車。荷はありませんでした。残念ですが」
隊長はうなずいて四人の方を見た。
「どうされますか。われわれはこのまま進みます。祠の修復後、街まで同道しましょう。あなた方にとっては戻ることになりますが」
「お願いします」
ディガンと言うしわだらけの老人が三人を見ながら答えた。三人も同意した。クロウと名乗った魔法使いが立ち上がったが、よろけてしまう。トリーンが手を取ってほほ笑んだ。
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