凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第五章 鳥啼く聲す

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 朝日とともに仕事が始まった。と言っても馬に乗って街道を行くだけだ。祠を通過するときに振り向いて顔を見て応援する。それだけだった。
 退屈してきたトリーンの鼻を不快な風が襲った。腐臭だった。
「賊だな。見せしめにさらされてるんだ」
 兵士が教えてくれる。道の脇に膨れた死体が転がっていた。首をはねられている。まともに弔ってもらえないって、なんのために生きてきたんだろう。どこへも行けずさまよう魂がこっちを見ている気がした。

 魂について考えていると、馬が駆けてきた。前方部隊の一人だった。手信号と言葉で報告を行う。

「けが人です。四名。鬼に襲われて逃げてきたようです。シュトローフェルドさん、お願いします」
 馬車からマルゴットさんが飛びだしてくると、その兵士と同乗して行った。鬼の脅威はないとの報告だったので、本隊はそのまま進む。

 しばらくするとまた馬が戻ってきた。さっきの兵士だった。
「トリーンちゃんをお願いします。治療呪文を強化したいとのことです。瀕死の若者がいます」
 隊長がうなずき、いま乗っているまま急行した。巡行とちがってかなり揺れるががまんした。

 祠の根元にいる人たちが見えてきた。一人が手を振る。見慣れた顔だった。横たわっているのは……、トリーンは叫んでいた。
「ペリジーさん! みなさん!」

 マルゴット・シュトローフェルドは一見怒っているような感じだった。青い目で地面に寝かされているペリジーを睨み、薄い口をさらに引き結んでいる。
 助けられて馬を降り、そばにしゃがんだトリーンを見てうなずく。すぐに応援を始める。
 ディガン、マール、クロウが心配と驚きの混じった顔をしている。みんなどこかに錆色に乾いた血をこびりつかせていた。目を合わせるが、応援に集中したいので話さなかった。
 医学の心得がない者が見ればペリジーはとっくに死んでいるようだった。蝋のような白さでまったく動かない。
 だが、すぐに血の気が戻ってきた。指先が震えるように動き、マルゴットの口がゆるむ。
「もうちょっと応援頼む。呪文を変える」
 トリーンは口を開いた。
「がんばれー、がんばれー」
 ペリジーが咳をした。目が開く。みんなほっとした顔になる。

 三人のけがはすぐに回復した。マルゴットはトリーンを見て感心している。体験するとその効果のほどがよく分かった。大魔法使いになった気分、と言うのは大げさではなかった。
 少女は四人それぞれと抱き合った。久しぶり、とか、元気にしてたか、とか、その制服はなんだ? などと軽口を叩きあっている。ではかれらが話にあった四人なのか。
 一番年長者が周囲の兵士たちを見まわしながら礼を言うと、他の三人もそうした。前方部隊の隊長が簡単に事情を聴くと一人を現場に向かわせた。四人に水と食事が与えられた。

「報告します。祠が破壊されており、犬鬼と蜘蛛鬼の死骸が一匹ずつ。馬の死骸と破損した荷馬車。荷はありませんでした。残念ですが」
 隊長はうなずいて四人の方を見た。
「どうされますか。われわれはこのまま進みます。祠の修復後、街まで同道しましょう。あなた方にとっては戻ることになりますが」
「お願いします」
 ディガンと言うしわだらけの老人が三人を見ながら答えた。三人も同意した。クロウと名乗った魔法使いが立ち上がったが、よろけてしまう。トリーンが手を取ってほほ笑んだ。
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