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第四章 錆色に染まる道
十
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トリーンは真新しい制服の香りを胸いっぱい吸い込んだ。子供の大きさなだけで、折り目の一本一本まで大人のとおなじ。交通安全部の紋もおなじ場所についている。特務隊員として今日から任に就くのだった。ただ、特務の紋はない。それに限らず部隊の性質を表す印はない。交通安全部は急いで作られたからそこまで準備できていないんだと説明があった。
部屋の机には辞令の巻布がひろげられている。王室直属なので帝王の紋があるが、それが内容の文章より大きいのがおかしく感じられた。
辞令の刺繍には任務の内容、すなわち祠の改修に伴う魔法使いの補助と記載されている。新しい呪文により祠の魔力消費量を減少させられるが、その改修時にトリーンが補助して強化すると作業効率が著しく上がると試算された。今回はその実証実験になる。
心配な点もある。事前に部隊の隊長が教えてくれたが、あちこちで賊どもが祠を破壊してるらしい。一か所だけ鬼除けが途切れると周辺を徘徊する鬼を引きこんでしまう。そこに通りかかった運の悪い荷馬車を襲わせ、残された荷物を奪うという残忍極まるやり方で、すでに被害が出ていた。
今回の実証実験はトリーンの隊の前後に部隊がつくので警備体制に抜かりはないと説明されたが、以前の闘いが頭に浮かび、それだけが不安だった。
ノックされた。トリーンは辞令を巻いて片づけると、返事をしてドアを開けた。廊下には隊員たちがそろっていて最敬礼で迎えてくれた。通りすぎると敬礼は拍手に変わった。
大学の門を出る。今日はだれにも止められない。そこには旅客用の馬車が待っており、隊員が手を取って乗せてくれた。
「では、交通安全部特務隊はこれより実証実験任務に入る。出発!」
隊長のよく通る大声。馬車がぐらりと揺れて隊は出発する。すでに先行する前方部隊は出発しており、二隊八名だった。これは後からついてくる後方部隊もおなじだ。そしてトリーンの所属する本隊は三隊十二名だった。つまり実証実験部隊は総勢二十九名。街道を行くには大部隊だった。しかも広範囲を迅速に移動するため全員騎乗だった。
ただし、本隊には一名欠員がある。トリーンの乗る馬車には治療・戦闘魔法使いが同乗し、警護と世話に当たるはずだったが、急病で任務を外れた。交代要員は次の街で乗ってくる。それまでは独りだった。
街道に入ると早速実証実験が始まった。魔法使いが祠の呪文を書き換えていく。トリーンの強化無しだと一つの祠につき標準時の四時刻ほどかかった。おおよそ日が指四本分移動するくらいだ。
次の祠は強化ありで行う。計時担当が緊張して箱の中の振り子と歯車を見ている。
「はじめてくれ」
「ああ、終わった」
「なに? まて、作業完了まちがいないか。振り子一往復もかかってない、一歯も動いてないぞ」
「まちがいない。強化の超越能力は予想以上だ。自分が大魔法使いになった気がする」
改修担当者は驚きと喜びに笑っていた。計時担当は助手と顔を見合わせ、記録をつけた。
「隊長、提案があります。この速度で改修できるのであれば、騎乗したままで作業してはどうでしょう。二人乗りで、祠を通過するだけで作業を完了できます」
隊長は笑いながら許可した。
「よし、しかしトリーンちゃんは馬は乗り慣れてないだろう。適度に休憩を取るように。しかしすごいもんだな。通過するだけとは」
任務だというのに特務隊員をちゃん付けで呼ぶ隊長に周りの隊員はほほ笑み、全員が順調な滑り出しに機嫌を良くしていた。みんなトリーンに親切だった。
馬の二人乗りは怖くてちょっと嫌だったけど、自分のしたことでみんなが笑顔になるのがうれしくて、そのうちにあまり気にならなくなった。
ここが自分の居場所になるかもしれないな。
一日目を終え、夕焼けに染まったトリーンは馬上から周りを見回した。
部屋の机には辞令の巻布がひろげられている。王室直属なので帝王の紋があるが、それが内容の文章より大きいのがおかしく感じられた。
辞令の刺繍には任務の内容、すなわち祠の改修に伴う魔法使いの補助と記載されている。新しい呪文により祠の魔力消費量を減少させられるが、その改修時にトリーンが補助して強化すると作業効率が著しく上がると試算された。今回はその実証実験になる。
心配な点もある。事前に部隊の隊長が教えてくれたが、あちこちで賊どもが祠を破壊してるらしい。一か所だけ鬼除けが途切れると周辺を徘徊する鬼を引きこんでしまう。そこに通りかかった運の悪い荷馬車を襲わせ、残された荷物を奪うという残忍極まるやり方で、すでに被害が出ていた。
今回の実証実験はトリーンの隊の前後に部隊がつくので警備体制に抜かりはないと説明されたが、以前の闘いが頭に浮かび、それだけが不安だった。
ノックされた。トリーンは辞令を巻いて片づけると、返事をしてドアを開けた。廊下には隊員たちがそろっていて最敬礼で迎えてくれた。通りすぎると敬礼は拍手に変わった。
大学の門を出る。今日はだれにも止められない。そこには旅客用の馬車が待っており、隊員が手を取って乗せてくれた。
「では、交通安全部特務隊はこれより実証実験任務に入る。出発!」
隊長のよく通る大声。馬車がぐらりと揺れて隊は出発する。すでに先行する前方部隊は出発しており、二隊八名だった。これは後からついてくる後方部隊もおなじだ。そしてトリーンの所属する本隊は三隊十二名だった。つまり実証実験部隊は総勢二十九名。街道を行くには大部隊だった。しかも広範囲を迅速に移動するため全員騎乗だった。
ただし、本隊には一名欠員がある。トリーンの乗る馬車には治療・戦闘魔法使いが同乗し、警護と世話に当たるはずだったが、急病で任務を外れた。交代要員は次の街で乗ってくる。それまでは独りだった。
街道に入ると早速実証実験が始まった。魔法使いが祠の呪文を書き換えていく。トリーンの強化無しだと一つの祠につき標準時の四時刻ほどかかった。おおよそ日が指四本分移動するくらいだ。
次の祠は強化ありで行う。計時担当が緊張して箱の中の振り子と歯車を見ている。
「はじめてくれ」
「ああ、終わった」
「なに? まて、作業完了まちがいないか。振り子一往復もかかってない、一歯も動いてないぞ」
「まちがいない。強化の超越能力は予想以上だ。自分が大魔法使いになった気がする」
改修担当者は驚きと喜びに笑っていた。計時担当は助手と顔を見合わせ、記録をつけた。
「隊長、提案があります。この速度で改修できるのであれば、騎乗したままで作業してはどうでしょう。二人乗りで、祠を通過するだけで作業を完了できます」
隊長は笑いながら許可した。
「よし、しかしトリーンちゃんは馬は乗り慣れてないだろう。適度に休憩を取るように。しかしすごいもんだな。通過するだけとは」
任務だというのに特務隊員をちゃん付けで呼ぶ隊長に周りの隊員はほほ笑み、全員が順調な滑り出しに機嫌を良くしていた。みんなトリーンに親切だった。
馬の二人乗りは怖くてちょっと嫌だったけど、自分のしたことでみんなが笑顔になるのがうれしくて、そのうちにあまり気にならなくなった。
ここが自分の居場所になるかもしれないな。
一日目を終え、夕焼けに染まったトリーンは馬上から周りを見回した。
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