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第三章 空はだれの物?

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 洞窟の中は外に比べると湿っぽいが、いつもおなじ気温で季節感がない。ウィングは岩壁に松明を挿していきながら奥へ奥へと進んでいた。秘密基地の状態を確認に来たのだった。まず煙を見て空気が動いていることを確かめた。
 洞窟の、頭を低くしないといけない出入口は大岩の陰に隠され、入ってすぐに直角に曲がる。そこから緩やかな下りが七十歩ほど。弓なりに曲がっているので見通しは効かない。
 突き当りに部屋があり、大人二人で一か月分の食料が蓄えられている。樽の中身は正常。予備の武器や生活用品にも差支えはない。逃げ込めれば状況をなんとかするくらいまではこもっていられるだろう。
 しかし、とウィングはひとり笑う。秘密基地か。天然の洞窟に手を入れただけの穴倉が秘密基地とはね。

 部屋の無事を確かめると、ウィングは挿した松明を消しながら来た道を戻っていく。そして、手持ちので弓なりの通路のもっとも膨らんだあたりの岩肌を照らす。岩が重なるようになっている箇所にすき間があった。探そうとしなければ見つからない脇道で、この秘密基地においてはこちらの方が重要だった。
 身体をねじ込み、なにかと引っかかるマントを畳んで滑りこんでいく。十歩ほど進むと大人三人がやっと立っていられるほどの空間に出た。
 持ってきた松明を固定して両手を自由にすると、壁と床の呪術文様を念入りに調べはじめた。線に切れ目はないか。補充の必要な薬品はないか。積もったほこりやうっすらと生えている黴を掃除する。呪術文様はいつでも最高の状態で使えなければならない。
 もしあの計画が順調であれば、トリーンの魂はここでとっくに魔宝具に収められていただろう。死骸はそこらに放りだしておけば熊か狼が片付けてくれる。妙な制限なしの強化機能を持つ魔宝具が手に入っただろうに。奴らめ。

 しばらく働き、これでよし、となった所で洞窟を出た。入った時には夕日が残っていたのにもう真夜中だった。星が塩をこぼしたように散らかっている。

 岩にもたれて休んでいると枯れ枝を踏み折る音がした。松明を消す。一匹。ただ徘徊してるだけだろう。さて、運試しだな。

 近くのせせらぎの音が変わった。こっちに来る。星々の薄明かりに照らされ、犬鬼の頭が黒い輪郭として見えた。ウィングに向かってうなる。凶と出た。
 懐から形の整った石を取りだし、ぎゅっと握る。青白い光がほとばしり、犬鬼の胸に吸い込まれる。その瞬間だけ赤黒い色がはっきりと見えた。
 すぐにはなにも起こらない。一声吼えると爪を開き跳びかかる態勢になった。
 しかし、その場から一歩も動けない。犬鬼の顔が歪む。目がぼうっと青白く光った後灰のように白くなっていく。氷の霊光が体内に入ったところから急速に冷凍し、致命傷となった。数瞬立っていたが、倒れて水しぶきを散らかした。霊光が抜けて石に戻る。

「凶だったな。わたしに出会ったのは」

 ウィングは死骸をまたぐと山を下りていった。
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