凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

alphapolis_20210224

文字の大きさ
上 下
28 / 90
第三章 空はだれの物?

しおりを挟む
 洞窟の中は外に比べると湿っぽいが、いつもおなじ気温で季節感がない。ウィングは岩壁に松明を挿していきながら奥へ奥へと進んでいた。秘密基地の状態を確認に来たのだった。まず煙を見て空気が動いていることを確かめた。
 洞窟の、頭を低くしないといけない出入口は大岩の陰に隠され、入ってすぐに直角に曲がる。そこから緩やかな下りが七十歩ほど。弓なりに曲がっているので見通しは効かない。
 突き当りに部屋があり、大人二人で一か月分の食料が蓄えられている。樽の中身は正常。予備の武器や生活用品にも差支えはない。逃げ込めれば状況をなんとかするくらいまではこもっていられるだろう。
 しかし、とウィングはひとり笑う。秘密基地か。天然の洞窟に手を入れただけの穴倉が秘密基地とはね。

 部屋の無事を確かめると、ウィングは挿した松明を消しながら来た道を戻っていく。そして、手持ちので弓なりの通路のもっとも膨らんだあたりの岩肌を照らす。岩が重なるようになっている箇所にすき間があった。探そうとしなければ見つからない脇道で、この秘密基地においてはこちらの方が重要だった。
 身体をねじ込み、なにかと引っかかるマントを畳んで滑りこんでいく。十歩ほど進むと大人三人がやっと立っていられるほどの空間に出た。
 持ってきた松明を固定して両手を自由にすると、壁と床の呪術文様を念入りに調べはじめた。線に切れ目はないか。補充の必要な薬品はないか。積もったほこりやうっすらと生えている黴を掃除する。呪術文様はいつでも最高の状態で使えなければならない。
 もしあの計画が順調であれば、トリーンの魂はここでとっくに魔宝具に収められていただろう。死骸はそこらに放りだしておけば熊か狼が片付けてくれる。妙な制限なしの強化機能を持つ魔宝具が手に入っただろうに。奴らめ。

 しばらく働き、これでよし、となった所で洞窟を出た。入った時には夕日が残っていたのにもう真夜中だった。星が塩をこぼしたように散らかっている。

 岩にもたれて休んでいると枯れ枝を踏み折る音がした。松明を消す。一匹。ただ徘徊してるだけだろう。さて、運試しだな。

 近くのせせらぎの音が変わった。こっちに来る。星々の薄明かりに照らされ、犬鬼の頭が黒い輪郭として見えた。ウィングに向かってうなる。凶と出た。
 懐から形の整った石を取りだし、ぎゅっと握る。青白い光がほとばしり、犬鬼の胸に吸い込まれる。その瞬間だけ赤黒い色がはっきりと見えた。
 すぐにはなにも起こらない。一声吼えると爪を開き跳びかかる態勢になった。
 しかし、その場から一歩も動けない。犬鬼の顔が歪む。目がぼうっと青白く光った後灰のように白くなっていく。氷の霊光が体内に入ったところから急速に冷凍し、致命傷となった。数瞬立っていたが、倒れて水しぶきを散らかした。霊光が抜けて石に戻る。

「凶だったな。わたしに出会ったのは」

 ウィングは死骸をまたぐと山を下りていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...