凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

alphapolis_20210224

文字の大きさ
上 下
24 / 90
第三章 空はだれの物?

しおりを挟む
 以前面談した時とは別の部屋に通された。どこの国の様式だろう? 低い長方形の卓があり、四人はそれぞれ床に直接置いたクッションに座らされた。足のおさまりが悪い。マダム・マリーは風を通す分だけ開けた窓を背にし、ひざを折って卓の短い辺に上品に座っている。クロウたちは二人ずつ長い辺にいるが、あんな座り方はとうてい真似できそうにない。
 すぐに仕事の話には入らず、街の噂など世間話をする。それぞれの目の前には取っ手のないカップに入れられた飲み物が置かれている。透明な緑で湯気が立っている。カップは湯呑みで、飲み物は茶と言うのだと教えてくれた。この部屋の調度と共に最近はやりだした異国の飲み物だそうだ。マダム・マリーのようにすすってみる。苦いが不快ではない。不思議と落ち着いた。

「……それじゃ、ご苦労様だったね。受け取りと荷馬車の返還を確認したよ。契約の報酬を渡そう」
 手を打つと、あの時の若い娘が現れ、各人の前に小袋を置いた。卓に当たる感じだけでも中身が分かった。娘は配り終わっても退出せず、マダム・マリーの背後の隅に行儀よく座った。
「大砲さんよ、おまえだけ袋が違うな」
 ディガンの向かいに座ったマールがななめ前から言ってきたので手のひらに出して見せてやった。
「二世か」
「そのかわり枚数が少ない。値打ちとしてはおなじはず」
「でも、なんで?」
 真向いのペリジーも口を出した。
「ああ、これが終わったら中央の方に行ってみようかと思ってたんだ。あっちは二世の方が使い出があるから。ま、いまとなっちゃ無しになったな」

 マダム・マリーが湯呑みを置いて顔をあげた。
「その無しになった件だけど、これからしばらく四人で固まってるってんなら、もうちょっとここで働いてみる気はないかい?」
 ディガンが茶を飲み干す。すぐに娘が急須という変わった形の道具から茶のお代わりを注いだ。目で礼をする。
「仕事? 話によるな」
「そりゃそうだろう。ま、聞くだけ聞きな」
 話は単純だった。魔王大戦が終わって復興に入った帝国は徐々に景気も回復してくるだろう。そこでは人でも物でも情報でもとにかく運ぶという仕事の切れ目は無くなるはず。だから早めに手を打っておきたい。そういう内容だった。
「……要はね、おまえたちみたいな優秀な奴らを集めたいのさ。犬鬼を退け、妙な陰謀にも屈せず依頼された荷物をちゃんと届けた。雇う価値のある連中だと思ってる。どうだい? 乗ってみないかい」
 三人はディガンを見た。火傷痕を掻いている。
「誉めていただいてうれしいね。俺たちには雇う価値がある、と。じゃあ、あんたの運送業には俺たちが加わる値打ちはあるのかな? いまの話だとよそに行ってもいいんだろ? 高く買ってくれる方に」

「いいえ、よそに行くべきではありません」
 部屋の隅からだった。あの若い娘が立ち上がった。マダム・マリーはいままで自分が座っていたクッションを裏返して娘に座を譲ると、自分は隅に引っこんだ。見たことのない作法だった。
 娘は凛とした声で話し出した。
「申し遅れました。わたくしはニキタ・エランデューアと申します。マダム・マリーとは後援者兼共同経営者、でしょうか。修業のようなものなので奉公人に身をやつしておりますが、名乗らずにおりましたご無礼の段はお許しを」
 四人は言葉もない。紋もなにもない町人のような服装をし、黒髪を奉公人のように後ろでくくったこの小柄な娘がエランデューア家の末娘とは。光加減で黒くなるこげ茶の瞳に低い鼻、子供っぽさの残る小さい口。言われて見てもまだ貴族とは思えなかった。

「さて、改めてお話をいたしましょう」
 ニキタ・エランデューアはいたずらっぽくほほ笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

遥かなる物語

うなぎ太郎
ファンタジー
スラーレン帝国の首都、エラルトはこの世界最大の都市。この街に貴族の令息や令嬢達が通う学園、スラーレン中央学園があった。 この学園にある一人の男子生徒がいた。彼の名は、シャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。 彼と友人達はこの学園で、様々なことを学び、成長していく。 だが彼が帝国の歴史を変える英雄になろうとは、誰も想像もしていなかったのであった…彼は日々動き続ける世界で何を失い、何を手に入れるのか? ーーーーーーーー 序盤はほのぼのとした学園小説にしようと思います。中盤以降は戦闘や魔法、政争がメインで異世界ファンタジー的要素も強いです。 ※作者独自の世界観です。 ※甘々ご都合主義では無いですが、一応ハッピーエンドです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...